【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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「今日は寝不足ですか?」



午前中のミーティング、頭の中にあまり入ってこなかった。
ミーティング後に残っていたら矢田さんに聞かれ、私は頷いた後に矢田さんを少し睨んだ。



「矢田さんのことばっかり考えていたら眠れなかった。」



矢田さんは少し驚いた顔をした後に困ったように笑う。



「寝ている間に整うので、しっかり寝た方がいいですよ。」



「それさっき父親から言われた。」



「俺も小町さんのお父様から言われているので、昔から。」



「そうなんだ、私はさっき初めて言われた。
あと・・・」



言葉を切ってから矢田さんを見上げた。
眼鏡の奥、優しい目を見詰めて言う。



「秋の夜長には必ずよく眠るようにって。」



「そうですね、俺も秋の夜長の時期は特に言われています。」



「そうなんだ・・・。」



“ごめんね”と言いそうになった。
この人はこの会社の社長になる人だから。
私の婚約者に選ばれてしまった可哀想な人だから。



でも・・・立冬まで残り僅か。
その日に愛があるように・・・。



好きでもない人と結婚なんてしないから・・・。



この人との愛がそこにあるように・・・。



好きでもない人と結婚なんてしない・・・。



そんなの、しない・・・。



昨日は眠れていないからか何も研ぎ澄まされない。



それでも利き手ではない左手をこの人に伸ばす。



この人に伸ばし、少しだけこの人の小指を握った。



初めて触れた・・・。



初めて、自分からこの人に触れた・・・。



この前はこの人から私の背中に触れてくれたから・・・。



この人から触れて貰うのも初めてだった・・・。



初めて触れたこの人の手・・・手というか指・・・。
指というか、小指・・・。



初めて触れた・・・。



初めて・・・。



初めて・・・。



泣きそうになった・・・。



男の人に触れたのは、これが初めてだった・・・。



これが、初めてだった・・・。



泣きそうになったまま、それでもこの人を見上げた。



そして、瞬きをして涙を流した。



初めて・・・誰かの前で涙を流した・・・。



「秋の夜長に貴方のことばかり考えて眠れないの。
一緒に眠ってほしい、私と。
眠るだけでいいから。
一緒に眠るだけでいいから、お願い。」



眼鏡の奥・・・矢田さんの優しい目は一瞬だけ揺れたようにも見えたけど、一瞬だけ。
優しくも鋭い目になったかと思ったら、“真剣”な顔で頷いてくれた。



“涙”までも武器にした。



利き手ではない左手だけしかないから。



“涙”を初めて武器にした。



“真剣”な顔で私を見下ろす矢田さんに笑い掛け、左手で矢田さんの小指を少しだけ強く握った。
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