【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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大きな大きなお屋敷。
その中で私は鼻歌を歌いながら小走りで進んでいく。



大股ではなく、小股で。



自分の姿を見下ろして自然と笑顔になってくる。



今日は19歳の誕生日。
お父さんとお母さんと料亭で食事をしたので、誕生日にと買ってくれた薄ピンク色の着物を着ている。



可愛い可愛い着物。
その着物を着て、お屋敷の中を小走りで進んでいく。



長い長い廊下・・・。



そこに、私の大好きな人の後ろ姿が。



見付けた瞬間、抑えられないニヤけた顔と大きく高鳴る心臓の音。



この可愛い着物をあの人は何て言ってくれるか。



どんな顔をしてくれるか。



私は“美人”だから。



“小町”という名の通り、私は“絶世の美女”とあの人も言ってくれたことがあるから。



小野小町のように歌は詠めないけれど、“絶世の美女”とは言ってくれた。



そんな私がこんなに可愛い着物姿になって、あの人は何て言ってくれるか。



どんな顔をしてくれるか。



考えただけでドキドキとしたしワクワクとした。



胸を両手で抑えながら大好きな人の名前を呼んだ。



大好きな大好きな人の名前を。




「武蔵!!!」




大好きな武蔵が立ち止まり、ゆっくりと・・・




ゆっくりと、振り返る・・・。




ゆっくりと振り返って・・・




振り返って・・・。




私を、見た・・・。




嬉しそうな顔で・・・。




心底幸せそうな顔で・・・。




心底幸せでしかないような顔で・・・。




そんな顔で・・・




「小町。」




私の名前を呼んだ。




「お帰り。楽しかった?」



「楽しくはない、お父さん雑談とかしないから。
お母さんと大学の話とか武蔵との話とかしたくらい。」



「そうなんだ、小町のお父さんは厳しい人だからね。
でも小町に着物をプレゼントしようって提案したのも今日の食事の予約もお父さんがしたらしいよ?」



「そうなんだ・・・。」



武蔵に言われてそれには少し驚いた。
でもお父さんには昔からそういうところがある。
笑ったり楽しい話は出来ないけど、昔から私のことをよく考えてくれているのはなんとなく感じていた。



「それより・・・この着物どう?」



武蔵の目の前で両手を広げゆっくりと回ってみせた。



また武蔵のことを見上げると・・・武蔵は照れたような顔をして・・・



「うん、いいね。」



「いいねってどういう“いいね”?
可愛いってこと?」



「うん。」



武蔵が恥ずかしそうに笑って頷いた。
そんな武蔵の顔を見上げながら笑った。



直接的な言葉はあまり言わない人だけど、武蔵はいつも優しくて・・・
武蔵も私のことが好きなのかなと思っている。



それがとても嬉しくて、幸せで、でも心の中で武蔵のことをソッと思うだけ。
それだけなら許して貰えるかなと思っている。



そう、思っている・・・。



お付き合いするのも恋をするのも親が決めた人、そう覚悟を決めてきたけど・・・。



花の色は色褪せるどころか濃くなってしまっているようで、私の恋心も恋の芝居も色濃くなってきているようで・・・。



幕は下ろせない。
自分では幕を下ろせそうにないから・・・。



この恋心だけはソッと胸の中に忍ばせておこうと思う。




「武蔵、これから何処いくの?」



「会社に少し行ってくる。」



「日曜日なのに?」



「うん、だから少しだけね。」



「じゃあ駅まで送っていく!!」



私がそう言うと、武蔵は凄く嬉しそうに笑った。
心底幸せそうな顔で笑った。
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