【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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社長が連れてきてくれたお寿司屋さん。
俺が入ったこともないようなお店のカウンターで、隣に座る女子高生は普通の様子で座っている。



それには何故か、少し残念な気持ちを抱いた。
さっきまでは凄く可愛い女子高生だったのに、恐らく高級であろうお寿司屋さんに場慣れしているこの子に、モヤモヤとした気持ちを抱いてしまった。



そんな俺に、隣に座っている女子高生がコソッと話し掛けてきた。



「さっき“社長”とか言ってたけど、もしかしてお父さんの会社の社員でもあるの?」



「そうだね、よく気付いたね。」



流石、社長の娘なのか。
あの一瞬の会話で、“矢田さんの息子”が“お父さんの会社の社員”とまで結び付けた。



そんな社長の娘に、聞いた。



「それにしても、これ一貫いくらするの?
どこにも値段書いてないんだけど。」



「さあ?私も知らない。」



「知っておかないとダメだよ、そういうことは。
“社長の娘だから”“女子高生だから”は何も言い訳にならないからね。」



俺は言いたいことは言う性格で。
父さんからは言い方や態度は気を付けるように言われているけど、拳が言うにはそれでも言っている内容は厳しいものらしい。



でも、この子に言ったこれはそういうものとも違った。



この子がとても良い子だと思ったから。
友達といえるような友達もいない俺が、一瞬で刀を下げてしまった程良い子だったから。



“社長の娘”や“女子高生”、そんな風に他の人から判断されてしまうのは俺がモヤモヤとしたから。



「なにそれ、むかつく。」



「俺にムカムカするのは構わないけど、一般家庭や大変な家庭で育った人達からしてみると、キミのそういう感じが気に入らないと思う人もいるからね。」



「でも、わざわざ“値段も分からないお寿司屋さんでお寿司食べた”なんて言わないから。」



「それを言う、言わないじゃないんだよ。
大切なのはキミの器の中に何を溜められているかだからね。」



これは、俺の父さんもこの子のお父さんである社長もうちに来てよく言っている言葉。



俺なんかよりも良い器なはずだから、きっとそこに溜まる物も良い物のはずで。
その器に溜まったこの子を見てみたいと思った。



勉強以外に、それも誰かに興味を持ったのは初めてなくらい・・・俺はこの子に興味を持った。
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