234 / 235
12
12-39
しおりを挟む
「武蔵、“ありがとう”じゃなくて“すみません”って言うようになってたよね?」
私が聞くと武蔵は困ったように笑った。
「会社の人から親切にされる度に申し訳ない気持ちにもなって。
俺は小町の為だけに薬を創ってたからね。
去年の立冬の日を迎えて、その気持ちが増したんだ。
小町に対しては、婚約者にも選ばれず居候でもなくなった俺に何かをしてくれた時は“すみません”っていう気持ちだった。」
そう言いながら、玄関で革靴を履いた武蔵が私に右手を差し出してくれた。
その右手を・・・
私は右手でしっかりと掴む。
なくなっていなかったから。
私の右手も、武器も、左手も、ちゃんと全て残っていたから。
ちゃんと、ある。
“武蔵が好きな人と結婚することも出来ない人生に、私のこんな無駄に美しい顔なんていらなかった”
そう何度も呪ったこの美しさも、きっと無駄ではなく武器になる。
“武蔵が好きな人と結婚出来ないこんな無駄な私の肩書きなんて、いらなかった”
そう何度も捨ててしまいたかった肩書きも、きっと無駄ではなく武器になる。
きっと、無駄なことなんてない。
武蔵と結ばれなかった複雑な11年間もきっと無駄ではなかった。
その期間があったからこそ手に入れることが出来た武器もあるはず。
無駄ではない。
きっと、無駄なことなんてない。
そう思いながら、鞄からこの屋敷の鍵を取り出した。
お父さんとお母さん、そして武蔵と一緒に暮らす屋敷の鍵を。
そしたら・・・
チリン─....
チリン─....
と・・・。
私が手に持った鍵と・・・
私の隣に立った武蔵からも、同じ音が聞こえた。
桜の鈴の音が・・・。
武蔵でいっぱいに溜まった私の器の中、2つの幸福な音が綺麗に重なり響く・・・。
それに今日も2人で笑いながら、武蔵が屋敷の鍵を閉めてくれた。
そして、歩き出す・・・。
2人で、歩き出す・・・。
私の夫となる人と・・・。
現代の剣豪となれる、“武蔵”と・・・。
戦に出よう・・・。
この時代で、この会社を背に戦に出よう・・・。
戦う・・・。
武蔵と一緒に、戦う・・・。
例え利き手ではない左手1本になったとしても、私は戦える・・・。
その時はきっと武蔵が私の右手となり、そして隼人や透や天野さんだって武器となってくれるはずだから・・・。
だから、戦に出よう・・・。
武蔵と、一緒に・・・。
そう今日も覚悟を決めながら、武蔵に繋がれた手を強く握った・・・。
「昨日で秋の夜長の時期が終わったね。
俺、今日からある程度普通にそういうことが出来るのか少し不安だよね。
薬を創るっていう一刀しか極められないから。」
「私なんて、今夜するそういうことが初めてな認識だからね?
あれから毎晩してたなんて未だに信じられない。」
「秋の夜長の時期は毎年そうなるらしいね。
その時期があって、婿養子は改めて頑張ろうと覚悟を決められるらしいよ。」
秋の夜長に恋の夢を見せてもらうつもりが・・・
私ではなく武蔵が・・・
秋の夜長に恋の夢を見せられてしまうことになった・・・。
でも・・・
それは無駄な夢どころか大切な夢なはずなので・・・
「来年も再来年も、その後も毎年秋の夜長の時期は来るからね?」
「今から来年が楽しみ過ぎるよ。」
武蔵が心底嬉しそうな顔で・・・
心底幸せそうな顔で笑ってくれた・・・。
「ねぇ、桜の時期より楽しみにしてない?」
end.......
私が聞くと武蔵は困ったように笑った。
「会社の人から親切にされる度に申し訳ない気持ちにもなって。
俺は小町の為だけに薬を創ってたからね。
去年の立冬の日を迎えて、その気持ちが増したんだ。
小町に対しては、婚約者にも選ばれず居候でもなくなった俺に何かをしてくれた時は“すみません”っていう気持ちだった。」
そう言いながら、玄関で革靴を履いた武蔵が私に右手を差し出してくれた。
その右手を・・・
私は右手でしっかりと掴む。
なくなっていなかったから。
私の右手も、武器も、左手も、ちゃんと全て残っていたから。
ちゃんと、ある。
“武蔵が好きな人と結婚することも出来ない人生に、私のこんな無駄に美しい顔なんていらなかった”
そう何度も呪ったこの美しさも、きっと無駄ではなく武器になる。
“武蔵が好きな人と結婚出来ないこんな無駄な私の肩書きなんて、いらなかった”
そう何度も捨ててしまいたかった肩書きも、きっと無駄ではなく武器になる。
きっと、無駄なことなんてない。
武蔵と結ばれなかった複雑な11年間もきっと無駄ではなかった。
その期間があったからこそ手に入れることが出来た武器もあるはず。
無駄ではない。
きっと、無駄なことなんてない。
そう思いながら、鞄からこの屋敷の鍵を取り出した。
お父さんとお母さん、そして武蔵と一緒に暮らす屋敷の鍵を。
そしたら・・・
チリン─....
チリン─....
と・・・。
私が手に持った鍵と・・・
私の隣に立った武蔵からも、同じ音が聞こえた。
桜の鈴の音が・・・。
武蔵でいっぱいに溜まった私の器の中、2つの幸福な音が綺麗に重なり響く・・・。
それに今日も2人で笑いながら、武蔵が屋敷の鍵を閉めてくれた。
そして、歩き出す・・・。
2人で、歩き出す・・・。
私の夫となる人と・・・。
現代の剣豪となれる、“武蔵”と・・・。
戦に出よう・・・。
この時代で、この会社を背に戦に出よう・・・。
戦う・・・。
武蔵と一緒に、戦う・・・。
例え利き手ではない左手1本になったとしても、私は戦える・・・。
その時はきっと武蔵が私の右手となり、そして隼人や透や天野さんだって武器となってくれるはずだから・・・。
だから、戦に出よう・・・。
武蔵と、一緒に・・・。
そう今日も覚悟を決めながら、武蔵に繋がれた手を強く握った・・・。
「昨日で秋の夜長の時期が終わったね。
俺、今日からある程度普通にそういうことが出来るのか少し不安だよね。
薬を創るっていう一刀しか極められないから。」
「私なんて、今夜するそういうことが初めてな認識だからね?
あれから毎晩してたなんて未だに信じられない。」
「秋の夜長の時期は毎年そうなるらしいね。
その時期があって、婿養子は改めて頑張ろうと覚悟を決められるらしいよ。」
秋の夜長に恋の夢を見せてもらうつもりが・・・
私ではなく武蔵が・・・
秋の夜長に恋の夢を見せられてしまうことになった・・・。
でも・・・
それは無駄な夢どころか大切な夢なはずなので・・・
「来年も再来年も、その後も毎年秋の夜長の時期は来るからね?」
「今から来年が楽しみ過ぎるよ。」
武蔵が心底嬉しそうな顔で・・・
心底幸せそうな顔で笑ってくれた・・・。
「ねぇ、桜の時期より楽しみにしてない?」
end.......
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる