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勉強をしている時以外は、なるべく顔を上げていた。
お母さんが言っていたらしいから。
苦しくても、悲しくても、悔しくても、泣いている時でも顔を上げているように。
そうしないと見えないから。
お姉ちゃんや僕の顔が、お母さんに見えないから。
天国にいるお母さんにも見えるように、なるべく顔を上げていた。
でも・・・
僕には、苦しいことも悲しいことも悔しいことも何もなかった。
泣いてしまうようなこともなかった。
お母さんを追い求めたのは、納得する為。
僕にはどうしてお母さんがいないのか。
どうして僕のお母さんは死んでしまったのか。
僕のお母さんは僕みたいな子どものことをどう思っていたのか。
それを知る為に、僕はお母さんを追い求めた。
自分が納得する為だけに、追い求めた。
3歳になっても単語が少ししか話せない僕を、お母さんは何も心配していなかったらしい。
1人で黙々と何かの作業をしている僕を、お母さんは何も心配していなかったらしい。
作業中はお母さんからの呼び掛けに何も反応しなくても、お母さんは何も心配していなかったらしい。
“集中出来ることは良いこと。”
“集中したいと思えることがあるのは良いこと。”
そう言って、ひたすらご飯を食べさせていたらしい。
僕は頻繁にお腹がグーグーと鳴っている子どもだったらしいから。
お腹が減った時だけはお母さんを求めてきていたそうで、お母さんはそれが嬉しくてご飯を沢山食べさせていた。
それでも僕は太ることはなくて。
むしろ、それでも痩せていたそうだ。
“頭をよく使っているからお腹が減る。”
そんなことを言って、笑い飛ばしていたらしい。
“周りの目なんて気にしないで、なりたい自分になればいい。”
メイクをしていない時のお母さんによく似た性格のお姉ちゃんや僕に、お母さんは何度もそう言っていた。
だから、僕は何も気にしていなかった。
周りの目どころか、周りの言葉も。
何も耳には入ってこなかった。
小学校に入りクラスの男子からぶたれたり蹴られたり、ボールを何度もぶつけられても何も気にしていなかった。
何も僕の中には入ってこなかった。
そんな僕が、今はガンガン聞こえている。
ガンガン喋っている。
周りの目なんか気にしていなかったけれど、りーちゃんに養って貰うだけのような男にはなりたくなかったから。
りーちゃんが僕ではない他の“男の人”と結婚した時、そんなの余計苦しくなるだろうから。
悲しくなるだろうから・・・。
悔しくなるだろうから・・・。
泣いてしまいたくなる感情になるのは、分かるから・・・。
そう思いながら、驚き続ける思考で話を聞く。
「ちょっとだけなら、お母さんも分かるよ・・・。」
鮫島君とりーちゃんのお母さんがそう言うと、りーちゃんが噛み付いた。
鋭い歯で、噛み付いた。
「お母さんには分からない!!
分からないから渡に恋をしなかったんだよ!!
分からないから渡と結婚しないんだよ!!
恋愛しないお母さんには分からないよ!!
お兄ちゃんと私のせいにして、お母さんは・・・桃子は、恋愛することから逃げてるだけだよ!!」
お母さんが言っていたらしいから。
苦しくても、悲しくても、悔しくても、泣いている時でも顔を上げているように。
そうしないと見えないから。
お姉ちゃんや僕の顔が、お母さんに見えないから。
天国にいるお母さんにも見えるように、なるべく顔を上げていた。
でも・・・
僕には、苦しいことも悲しいことも悔しいことも何もなかった。
泣いてしまうようなこともなかった。
お母さんを追い求めたのは、納得する為。
僕にはどうしてお母さんがいないのか。
どうして僕のお母さんは死んでしまったのか。
僕のお母さんは僕みたいな子どものことをどう思っていたのか。
それを知る為に、僕はお母さんを追い求めた。
自分が納得する為だけに、追い求めた。
3歳になっても単語が少ししか話せない僕を、お母さんは何も心配していなかったらしい。
1人で黙々と何かの作業をしている僕を、お母さんは何も心配していなかったらしい。
作業中はお母さんからの呼び掛けに何も反応しなくても、お母さんは何も心配していなかったらしい。
“集中出来ることは良いこと。”
“集中したいと思えることがあるのは良いこと。”
そう言って、ひたすらご飯を食べさせていたらしい。
僕は頻繁にお腹がグーグーと鳴っている子どもだったらしいから。
お腹が減った時だけはお母さんを求めてきていたそうで、お母さんはそれが嬉しくてご飯を沢山食べさせていた。
それでも僕は太ることはなくて。
むしろ、それでも痩せていたそうだ。
“頭をよく使っているからお腹が減る。”
そんなことを言って、笑い飛ばしていたらしい。
“周りの目なんて気にしないで、なりたい自分になればいい。”
メイクをしていない時のお母さんによく似た性格のお姉ちゃんや僕に、お母さんは何度もそう言っていた。
だから、僕は何も気にしていなかった。
周りの目どころか、周りの言葉も。
何も耳には入ってこなかった。
小学校に入りクラスの男子からぶたれたり蹴られたり、ボールを何度もぶつけられても何も気にしていなかった。
何も僕の中には入ってこなかった。
そんな僕が、今はガンガン聞こえている。
ガンガン喋っている。
周りの目なんか気にしていなかったけれど、りーちゃんに養って貰うだけのような男にはなりたくなかったから。
りーちゃんが僕ではない他の“男の人”と結婚した時、そんなの余計苦しくなるだろうから。
悲しくなるだろうから・・・。
悔しくなるだろうから・・・。
泣いてしまいたくなる感情になるのは、分かるから・・・。
そう思いながら、驚き続ける思考で話を聞く。
「ちょっとだけなら、お母さんも分かるよ・・・。」
鮫島君とりーちゃんのお母さんがそう言うと、りーちゃんが噛み付いた。
鋭い歯で、噛み付いた。
「お母さんには分からない!!
分からないから渡に恋をしなかったんだよ!!
分からないから渡と結婚しないんだよ!!
恋愛しないお母さんには分からないよ!!
お兄ちゃんと私のせいにして、お母さんは・・・桃子は、恋愛することから逃げてるだけだよ!!」
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