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貴族としての知識や教養はこの約4ヶ月間で入口くらいは教わった。
だから皇太子妃になったとはいえ皇太子にこんなことを言ってはいけないと分かっている。
分かっているけれどそう伝えた。



私は没落貴族の娘、それもヒヒンソウの刻印が浮かび上がってしまったような娘。
何千年という歴史の中で没落貴族出身でこんな花の刻印が浮かび上がった聖女は記録されていない。



そんな聖女と結婚をした可哀想な皇太子、ステル殿下に伝える。



「こうなったからには“戦友”になりましょう、ステル殿下。
可哀想な皇太子と没落ヒヒンソウ聖女でこの国を、この人生を強く生き抜きましょう。」



私がそう言うとステル殿下は驚いた顔をした。
でも、すぐに楽しそうに笑って・・・



「そうだな、“戦友”になろう。
この傷1つない綺麗な身体で、この国で、この人生で、俺の隣で一緒に生き抜いてくれるか?」



私の右手を取りステル殿下が自分の口元に持っていき、私の手の平にソッと唇を付けた。



ステル殿下の唇は私の右手から浮かび上がっていた血で赤く染まった。
既に傷が塞がっていた右手の手の平の血で。



鋭く光るような目で私のことを見下ろすステル殿下。
その目にも赤い血痕のような光りが宿っている。
私のヒヒンソウの刻印の光りがステル殿下の瞳を照らしているから。



「初めては痛いらしいぞ?」



「私のことを少しは知っていますよね?
一気に貫いてくれても構いませんから。
なんといっても没落貴族、それも大昔、“死の森”に隣接している村に流されたマフィオス家ですからね?」



「そうだったな、聞いている。」



ステル殿下からその返事を聞き、私は小さく笑った。
この胸が痛くなりながらも伝える。



「強く生き抜きましよう、この国で、この人生で。
この腐り果てたサンクリア王国で、この腐り果てたような私達の人生で。」



「そこまで言うか・・・っ」



婚約後、初めて見たステル殿下の砕けた笑顔。
その笑顔は18歳という若者らしい笑顔に見えた。



その笑顔に笑い返すと、ステル殿下が優しい優しい顔で私のことを見詰めた。



そして・・・



また右手を私の胸の真ん中に伸ばしてきて・・・



今度は強く強くその大きな手を置いた。



「俺はキミに・・・カルティーヌに聖女の刻印が浮かび上がってくれたことに感謝をしている。
カルティーヌを・・・カルティーヌのような女の子をずっと求めていたから。」



23歳にもなった私のことをステル殿下が“女の子”と言う。
久しぶりにステル殿下から名前を呼ばれて、なんだか少しだけ泣きそうになった。



その涙を我慢しながらステル殿下に聞く。



「好きな方は・・・恋していた方はいなかったんですか?」



聞いた私にステル殿下は少しだけ瞳を揺らした。
でも、少しだけ。



「いたけど、その子はもういいんだ。
他の男と結ばれてしまったから。」



ステル殿下がそんなことを言って、私の胸の間からゆっくりと右手を離した。
そしたらこの胸が一気に冷たくなったように感じた。



感じた、その瞬間・・・



「・・・ンッ」



ステル殿下に深く口付けをされた。
強く強く、どこまでも強く抱き締められながら・・・。



「カルティーヌの身体だけ俺にくれればいい。
この傷1つない綺麗な身体だけ、俺にくれればいいから。」



ステル殿下の唇が離れた後、私の口の中は血の味がした。



右手の手の平に残っていた自分の血の味が。
聖女となりケガをしても数分で治癒されてしまう私の身体。
老いてはいくけれどこの身体に傷がつくことは二度とない。
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