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姿絵も描かないまま牢を出てから地上に立つと、残っていた2人の騎士が心配そうな顔で私のことを見ている。



「何?」



「あんな化け物を見て大丈夫でしたか?」



「王宮に来てからは人間の方が化け物に見えることがある。
魔獣には本能しかない。
でも人間には黒いモノが渦巻いているから、私には人間の方がずっと良くないモノに見える。」



「それはありますね・・・。
俺達も魔獣よりも人間の方が許せません。
黒髪だからというだけで“ステル団長”を棄てた挙げ句、幼い頃から最前線で戦わせ、好きな女の子がいる“ステル団長”に聖女を押し付けてくるなんて。」



「あまりに“ステル団長”が可哀想です。」



「それで皇太子殿下になることが出来たとはいえ、“ステル団長”は何も嬉しそうではなかったよな・・・。」



「聖女が王宮に来た初日は特に死にそうな顔をしてた・・・。」



「あんな“ステル団長”の顔は初めて見たよな?
魔獣の大群と戦った時も絶対に下を向かなかった“ステル団長”が、聖女と会ったと言った後に項垂れてたからな。」



「ずっと嫌がっていたから仕方ないよな。
でも、順調そうなんだろ?
俺はまだ見てないけど人と思えないほど美しい女の子だって。」



「そうそう、ケロルドが裸を見てしまったと謝ったら喉に剣を突き付けられて殺されそうになってたよな!?」



「あの目は本気の目だった!!
昨日も今日も恐ろしいくらいに機嫌が良いし、政務の方もやり始めてるんだろ?」



「やっと“ステル団長”が皇子として認めて貰えて俺達も嬉しいよな!!」



「・・・あ、“ステル殿下”な、“ステル殿下”!!
ステル殿下が国王になれるといいけど、黒髪持ちだから流石にそれは無理だろうけど。」



「黒髪持ちだけど魔獣持ちでもあるけどな!!
あの剣王、ロンタス国王と同じ魔獣持ちだぞ!?」



「魔獣持ちだけどそもそも黒髪持ちだからな。
その魔獣で王国を滅ぼそうとしてくる可能性がゼロではないってジルゴバート王弟殿下が長年騒いでいたらしいから、国王は無理だろうな。」



「あんなに戦闘力のないエリーに何が出来るんだよ。
出来るのはあの乳で母乳を飲ませるくらいだぞ?
魔獣の大群に親を殺された赤ちゃんがエリーに何人も救われたくらいなのに。」



初めて知る話ばかりを騎士3人がしていて、私は小さく笑いながら頭を下げてからその場を去ろうとした。



そして数歩歩いた時・・・



「あ、名前・・・!名前教えて!!」



慌てた声を背中に聞き、私はしっかりと振り向いてから答えた。



「ルル。ルルって呼んで。」



泣きそうになるのを我慢しながらも答えた。



王宮ですれ違う他の男達とは違い、3人の騎士は何故か照れたような顔で頷いた。
それに笑い返した後にまた夜の王宮を歩き始める。



「私なら生き抜ける・・・。
強く強く強く、どこまでも強く・・・。」



“チチ”よりもお母様の顔がぼんやりと浮かんできた。
そう言って最後に優しく私を抱き締めてくれたお母様の顔が。
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