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翌朝
「その服は?」
朝ご飯を一緒に食べ終えた後に白いドレスから軽装に着替えているとステル殿下から聞かれた。
「王都で働く女が着るような服。
ミランダにお願いをして準備してもらってたんだ。」
ドレスとは違う、でも女が着る長いスカートの服。
そのスカートの下にはしっかりとナイフを隠し持っている。
髪の毛をテキトーに束ねた後に帽子を被り、その中に髪の毛を全て仕舞った。
それから化粧をしていく。
自分の肌の色とは違う茶色っぽい粉を顔中にはたいて。
「聖女のカルティーヌっぽく見えないでしょ?」
「そうだな。」
“そうたな”と返事をしているのに、ドレッサーの鏡の向こう側に映るステル殿下の目は熱を込めていた。
それには自然と笑いながら立ち上がる。
「こんな感じの女も好きなの?」
「カルティーヌならどんな姿でも俺は好きだ。」
「凄い愛だね、今のところ。」
乾いた笑い声を出しながらそう答え、私の姿を見て呆れた顔をしているミランダに聞く。
「どんな仕事だったら王宮を歩き回っててもおかしくないかな?」
「この王宮の中には働いている女を気に留めるような者はおりません。
門の警備はしっかりしておりますので、王宮の中にいる者については誰も気にしておりません。」
「1度王宮の中に侵入出来たらやりたい放題だね。」
「高い城壁に囲まれている王宮です。
侵入出来る場所があるとすれば門だけ。
門は近衛騎士団の管轄なのと、王宮を出入り出来る許諾証は近衛騎士団の警護番長の刻印が前もって必要な物。
その刻印を貰う申請の許諾には警護番長による厳しい審査がありますので、貴族でない限りは簡単に門をくぐれません。」
「逆に貴族だったら簡単に門をくぐれるんだ?」
私の言葉にミランダは黙った。
「魔獣用の迷香薬だけでなく人間用の迷香薬を持ち込めるみたいだし、ナンフリーク殿下の妃候補だって沢山入ってるみたいだし、貴族にとってここはやりたい放題出来る場所になってるね。」
「昔は・・・クラスト陛下がいらっしゃる時はそんなことはありませんでした・・・っ。」
ミランダが苦しそうな顔と声で囁いた。
囁き声だったけど叫び声にも聞こえた。
苦痛の表情を浮かべているミランダに私はもう1度聞く。
「クラスト陛下は何処にいるのか分からないの?
もしかして、もう死んでいるとか・・・?」
「それは有り得ません・・・っ。
クラスト陛下は必ず戻って参ります・・・。
必ず・・・」
言葉を切った後にステル殿下のことを苦しそうな顔のまま見上げた。
「黒髪持ちの子が生まれたけれど、クラスト国王陛下の王国はまだ滅びていない。
この王宮でクラスト陛下が戻られる日を私1人だけでも待ち続けている限り、クラスト国王陛下の王国は滅びることはない。」
苦しそうな顔はしているけれど強い強い目でステル殿下のことを見上げている。
「全ての厄災をその身体で祓ってみせればいい。
貴方はもうそんなに大きく強く賢くなった。
この国にどんな厄災が降りかかろうとも自ら祓えるくらいに。」
真剣な顔で見下ろしているステル殿下にミランダは続ける。
「生き抜きなさい。
クラスト国王陛下が戻られるその時まで、強く強く強く、どこまでも強く生き抜きなさい。」
余計なことは喋らないはずのミランダがステル殿下に力強く言った。
そんなミランダの姿を見て、何故だか自然と泣きそうになった。
「その服は?」
朝ご飯を一緒に食べ終えた後に白いドレスから軽装に着替えているとステル殿下から聞かれた。
「王都で働く女が着るような服。
ミランダにお願いをして準備してもらってたんだ。」
ドレスとは違う、でも女が着る長いスカートの服。
そのスカートの下にはしっかりとナイフを隠し持っている。
髪の毛をテキトーに束ねた後に帽子を被り、その中に髪の毛を全て仕舞った。
それから化粧をしていく。
自分の肌の色とは違う茶色っぽい粉を顔中にはたいて。
「聖女のカルティーヌっぽく見えないでしょ?」
「そうだな。」
“そうたな”と返事をしているのに、ドレッサーの鏡の向こう側に映るステル殿下の目は熱を込めていた。
それには自然と笑いながら立ち上がる。
「こんな感じの女も好きなの?」
「カルティーヌならどんな姿でも俺は好きだ。」
「凄い愛だね、今のところ。」
乾いた笑い声を出しながらそう答え、私の姿を見て呆れた顔をしているミランダに聞く。
「どんな仕事だったら王宮を歩き回っててもおかしくないかな?」
「この王宮の中には働いている女を気に留めるような者はおりません。
門の警備はしっかりしておりますので、王宮の中にいる者については誰も気にしておりません。」
「1度王宮の中に侵入出来たらやりたい放題だね。」
「高い城壁に囲まれている王宮です。
侵入出来る場所があるとすれば門だけ。
門は近衛騎士団の管轄なのと、王宮を出入り出来る許諾証は近衛騎士団の警護番長の刻印が前もって必要な物。
その刻印を貰う申請の許諾には警護番長による厳しい審査がありますので、貴族でない限りは簡単に門をくぐれません。」
「逆に貴族だったら簡単に門をくぐれるんだ?」
私の言葉にミランダは黙った。
「魔獣用の迷香薬だけでなく人間用の迷香薬を持ち込めるみたいだし、ナンフリーク殿下の妃候補だって沢山入ってるみたいだし、貴族にとってここはやりたい放題出来る場所になってるね。」
「昔は・・・クラスト陛下がいらっしゃる時はそんなことはありませんでした・・・っ。」
ミランダが苦しそうな顔と声で囁いた。
囁き声だったけど叫び声にも聞こえた。
苦痛の表情を浮かべているミランダに私はもう1度聞く。
「クラスト陛下は何処にいるのか分からないの?
もしかして、もう死んでいるとか・・・?」
「それは有り得ません・・・っ。
クラスト陛下は必ず戻って参ります・・・。
必ず・・・」
言葉を切った後にステル殿下のことを苦しそうな顔のまま見上げた。
「黒髪持ちの子が生まれたけれど、クラスト国王陛下の王国はまだ滅びていない。
この王宮でクラスト陛下が戻られる日を私1人だけでも待ち続けている限り、クラスト国王陛下の王国は滅びることはない。」
苦しそうな顔はしているけれど強い強い目でステル殿下のことを見上げている。
「全ての厄災をその身体で祓ってみせればいい。
貴方はもうそんなに大きく強く賢くなった。
この国にどんな厄災が降りかかろうとも自ら祓えるくらいに。」
真剣な顔で見下ろしているステル殿下にミランダは続ける。
「生き抜きなさい。
クラスト国王陛下が戻られるその時まで、強く強く強く、どこまでも強く生き抜きなさい。」
余計なことは喋らないはずのミランダがステル殿下に力強く言った。
そんなミランダの姿を見て、何故だか自然と泣きそうになった。
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