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5歳、冬




凍えるように寒い真っ黒な中、小さくて重い“命”を抱き締める。



「絶対に落とすなよ、カルティー。
自分の命だと思って絶対に落とすな。」



お父様が重い声でそう言ってくるので、俺はその重い重い“命”をしっかりと抱き締め直す。



「後は任せたぞ。」



「はい。」



お父様が声を掛けるとお母様が返事をした声だけが聞こえた。
そしたらお父様がお母様と俺のことをギュッと強く抱き締めてくれて。
寒くて黒い世界の中、この中だけがお父様とお母様の温もりで包まれた。



「必ず戻る。」



「はい。」



お父様がそう言ってからゆっくりと離れ、俺の背中を優しく押した。



その手に導かれるように歩くとお父様の小さな声が聞こえた。



「俺の子もこの王国の為に戦う戦士だ。
そしてこの子が抱くその“命”も、きっとこの王国の為に戦う戦士にしてみせる。
だから乗せてくれ、3人まとめて飛んでくれ。」



お父様の小さな声が聞こえた後に俺はお父様の大きな手に抱き抱えられ、何かに乗せられた。



「もしかして、グース?」



「そうだ。」



俺の背中にお父様の大きな身体を感じた時そう返事をされた。
その返事には大きく興奮をする。
ずっとずっとグースに乗りたかったから。



「“死の森”まで10分で着く。
絶対に落とすなよ、カルティー。
お前が抱いているのはこの王国の“未来”だ。」



「はい。」



俺の返事を聞いた瞬間、お父様の足がグースの身体に少しだけ力を込めた。
それによりグースの身体が浮いたのを感じた。



「必ず戻る。最善を尽くして待ってろ。」



「はい。」



お母様の返事だけが黒い中で聞こえ、そして・・・



「・・・わっ!!」



胸が一瞬だけヒュッ縮み、思わず声が出た。
慌ててこの胸に“俺の命”を・・・“この王国の未来”を強く抱き締めた。



サンクリア王国の2番目の皇子を。



そして、クラスト陛下が“未来の国王”と信じているという皇子を。



それなのに黒髪持ちで生まれてしまったという可哀想な皇子を。



「5歳だけど俺だって戦士だ。
この命に代えてでも守ってやるからな。」



お父様から貰った小さな剣を腰に差した姿で、グースに跨がりながら小さな小さな第2皇子にそう伝えた。
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