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「胸に・・・?」



胸に豊の右手を感じながら、俺は聞いた。
そんな俺に豊が当たり前かのように口を開いた。



「おじいちゃんが言ってた・・・。」



「じいちゃんが?何を?」



「何をって・・・。
桃子さんの胸には鮫島君がいるって・・・。」



「・・・それはいるだろ、息子だし。」



「そうじゃなくて、おじいちゃんが言ってたけど・・・」



豊は言葉を切った後、俺のことを見詰めてきた。



「おじいちゃんのこと、知らない・・・?」



「知ってるだろ、何変なこと聞いてるんだよ。
つるっぱげのジジイだろ?」



俺がそう答えると、豊は面白そうな顔で笑い出した。
その右手が振動してきて、俺の胸を震わせてくる。
それにつられるように笑っていると豊が口を開いた。



「おじいちゃんは、なんというか・・・見える人らしい・・・。」



「見える?」



「なんて言ったらいいのか・・・その人が何を持って生きているのかが見えるらしい・・・。
多くの人は持っていなかったりぼんやりしているらしいけど、たまにハッキリと持っている人がいるらしい・・・。」



そんな初めて知る話に驚いていると、豊は笑うのを止めて俺を見詰めてきた。



「胸の辺りに、見えるらしい・・・。」



そう言われ、たまにじいちゃんから胸の辺りを見られたなと思い出す。



そしたら、豊が力を込めた・・・。



その右手に力を込めて、俺の胸を押してきた・・・。



「桃子さんの胸にりーちゃんを持つようになったのは、桃子さんが“お母さん”になると決めた時・・・。
でも、鮫島君のことは持っていたらしい・・・。
ずっと、持っていたらしい・・・。
鮫島君と出会ったその日から、桃子さんの胸には鮫島君がいたらしい・・・。」




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