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第十四話

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「速水って苗字なんだな、お前の従姉妹、でもなんでこんな時期に転校してき…あ…帰国子女だから?」
転校の時期と帰国子女がどんな関係なのかは不明だが、成瀬は勝手に納得した様だ。
1時間目の授業が始まる前に転校生としてエリーが紹介されていた。
ミヨのヤツ…ホンット何にも考えてないよな…,。
昨夜ミヨからのメッセージで『エリーは明日からお前の学校に通えるように手続きをしておいた。明日の朝、学校に連れて言ってやれ。』と来ていた。
指示に従って連れては来たけど、明日が終業式ってタイミングで転校してくるとか不自然すぎるだろ。
夏休み明けでも良かったんじゃないか?
宝くじの件といい神様だからってなんでもありかよ。

「なぁサトル、昼休みエリーちゃん誘って飯行かね?」
「まだ1時間目も始まってないのに昼飯のはなしかよ。」
「いや…この前見た時から可愛いって思ってたけどさ。改めて制服姿のエリーちゃんも可愛いなぁって。」
まぁ確かに可愛いよな。

制服は、蒼ネエがウチの学校卒業だったこともあって、卒業しても大事に持ってたモノらしい。
そんなモン取っといて、いったい何に使うつもりだったんだ?

「多分あれだぞ、昼休みなんて転校生フィーバーってヤツなかなかで一人になんてなれないと思うぞ。」
それより、何かやらかさないかが心配だ。
とりあえずエリーには『小さい時から親の仕事でヨーロッパに住んでたって事にしとけ。』といい書かせておいたけど…。

ミヨがどんな小細工をしたのか解らないが、ちゃんと戸籍もパスポートも作られていて驚いた。
それと昨夜、エリーの設定も詳細に書かれたメッセージが届いていた。
親をヨーロッパに残し単身で日本に来たと言う設定らしい。
その親っていうのが、蒼ネエの叔父さん…親父さんの弟さん夫婦。
実際にヨーロッパのどっかの街に住んでるらしい。
そして驚いたのは子供は居ないらしいんだけど、養子として登録されていると言う事。
恐らく記憶操作もしたんだろう、叔父さんから蒼ネエの親ににエリーを預かってくれって電話があったらしい。
ミヨのヤツ…巧妙に仕組んでやがる…まさか俺の記憶もいじってないだろうな?
なんて恐ろしい事をするんだ…。


§


「ほらな、やっぱり女子が離してくれそうにないだろ。」
「あーぁ…俺もエリーちゃんとお近づきになりたいなぁ…。」
帰国子女の転校生なんて設定…女子どもの恰好の餌食じゃないか。
休み時間の度にエリーの周りに人集りができていた。
時々エリーの『助けてくれ』と訴える視線と目が合うが助け手やりようがない。

「ねえねえ椎葉くん。」
エリーに群がってる女子の一人が声を掛けてきた。
「椎葉くんってエリーちゃんの従兄弟なんだって?」
「ん?そうだけど?」
白々しかったかな?
「今一緒に住んでるんでしょ?」
「そーだけど…。」
「でも従兄弟って言っても血の繋がりは無いんでしょ?」
ズケズケと聞いてくるヤツだなぁ…。
「無いな。」
「おお!じゃやっぱり…そーゆー…。」
「ねぇよ!」

女って何なんだろうな?
根も葉もない噂とか…なんの根拠もない話を想像だけで盛り上がって共有してまた盛り上がる。
ワイドショーが無くならない訳だ…。

「お前やっぱり…。」
成瀬もそんな女子に感化されてか、俺に疑いの眼差しを送ってくる。
「あのなぁ…。」
いちいち否定するのも面倒になってくる。

「ねえねえコレ何?」
またエリーの周りに居た女子が騒ぎ出した。
見ると杖を持っている。

あの馬鹿…学校にまで持ってくるなよ…。
『学校では絶対に魔法とか魔道具を使うなよ!それとお前が魔導士だってバレるような言動は慎め!』って何度も言い聞かせたのに…。

「お…お守りだ!お守り。うん。」
誤魔化したつもりなのか?
「おっきなお守りだねぇ。なんだか魔法使いの杖みたい。」
バレてますけど?(汗)
「いや…その…。」
「なに?厨二的な?」
ちょっと小馬鹿にした感じの言い方が耳につく。
「返してやれよ。」
思わず言葉を発していた。

彼女もからかっていただけなんだろう。
素直に杖をエリーに手渡した。

結局エリーが彼女たちから解放されたのは放課後だった。


§


「学校という所は、凄く疲れる所なんだな…。」
「チヤホヤされるのは最初のうちだけだと思うぞ。」
「そうであってほしい…。だって、気をぬくとサトルの言いつけを守れそうにない。」
「頼むから、絶対に魔法とか使うなよ。」
「解ってる。」
「やっぱり、その杖は持ち歩かなきゃだめなのか?それが無けりゃ魔法も使えないんだろ?だったら持ち歩かない方が魔法使う心配も無いんじゃ…。」
「いや…まったく使えない訳じゃないんだ…前にも言ったと思うが、杖がないと魔力の制御ができないんだ。だから念のためと言うか、お守り的な感じなんだ…。無いと不安でしょうがない…。」
「そうか…なんか目立たなくする方法ってないのかなぁ…?」
「こ…これ以上小さくしろと?」
「まぁ他に方法が見つかればいいんだけどな。」
「あまり短くすると…その…格好が…。」
格好の問題かよ…。
まぁそれは新学期までに考えとくとしよう。

そう言えば忘れてた…というか見ない様にしてたと言うのが正解かもしれない。
ミヨが送りつけて来た新しいアプリ。
便利機能っていったいなんだろう?
家に帰ったら確かめてみるか…。


§


「よし…開くぞ…。」
自分に言い聞かせる様に声に出して言ってみた。
またシャッターを切られて認証される可能性を考えて、なるべく普通の表情を作ることに努めてみた。

ゆっくり押しても素早く押しても起動速度が変わるはずも無いのに、なんとなく慎重にアイコンをタップした。

シャッターを切られると思い込んでいたかけど…何事もなくアプリは起動した。
……と思ったらまた『認証しました』の文字が表示され、続けてこの前の間抜け面した俺の写真が表示された。

あんニャロー…遊んでやがる…。
ミヨの『してやったり』な顔が眼に浮かぶ。

アプリの画面には『魔獣図鑑』『魔力探知機』『アイテム召喚』『ポイント』の4つのボタンが配置されていた。
ポイントってなんだ?

とりあえず『魔獣図鑑』を開いてみた。
すると50音順に魔獣の一覧が表示されている。
その中から聞き覚えのある『キビナー』と言う名前を選択してみた。
すると、魔獣の立体画像とともに特性だとか弱点なんかの詳細情報が事細かく書かれていた。
凄いのがこの立体画像。
グリグリ回して細部まで観察可能なのだ。
もちろん拡大することも出来る。
そして気になるのは名前の横の欄にある数字。
メニューにあったポイントってもしかして….。
メニューに戻って『ポイント』ボタンを押してみる。
そこには『1005pt』と大きく表示されていて、その下にポイント履歴って小さなボタンが配置されている。
迷わず押してみると『初回ボーナス1000pt』と『ラビー討伐5pt』と書いてあった。
どうやら魔獣を倒すとポイントが貰えるらしい。
…なんなんだこの緊張感のないゲームみたいなシステムは…。
まぁ少しでも楽しめる様にとの配慮だと受け取っておこう。

ちょっと試しに『魔力探知機』ボタンを押してみた。
画面には同心円状のレーダーっぽい絵が現れた。
試しにエリーに向けてみた。
円の中心がこのスマホだろう、そしてその中心点にかなり近い位置に一つ赤い丸が点滅している。
コレがエリーか。
その赤い丸をタップしてみると、レーダーの上の欄にエリーと名前が表示され、その下に『19830』と数値が並んでレベルメーターみたいなカラーチャートが出ている。
ちなみに、ほぼMAX。
ホントは凄いやつなのか?
それともこのアプリがオカシイのか?
他に対象物がないから比較できない…。

試しに自分に向けてみたが無反応…。
使用者には反応しないのか、それとも全く魔力が無いか…まぁ後者だろうな…。
コレが異世界に転生とかしてたら、そーゆー能力も手に入ってたのかもな…。
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