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第三話 大切な存在
しおりを挟む「これ、オレ様が書いた曲と詞ね」
スタジオの一室に入って、千紘と大地は、何曲分かの譜面を玲央から渡される。
奈央の要約によると、重田兄妹と千草、春夜のバンドで作詞作曲を担当しているのは全て玲央らしい。
完全に玲央を富裕層のボンクラ息子と認識していた千紘はびっくり仰天していた。
「あんた意外にやり手なんだな」
「まあ、前のギタリストが辞めたのはおにぃが殴ったせい」
「前言撤回したい」
その時、何故か春夜は奈央に何かを言おうとしてやめていた。
「これ、ツインギターに編曲出来たら入れてやるよ」
「「上から目線腹立つ」」
少々上から目線の玲央に腹を立てた幼馴染二人組だが、譜面を見てみると、曲が、詞が、意外にも繊細さでできていて、「「よっしゃ、やってやるか!!」」とその場で一曲ずつの編曲を始めた。
「いや、此処でするんだ」
早速自身たちが持っていた五線譜のルーズリーフを床に敷いてあれやこれや言いながら編曲していく幼馴染二人組に奈央が仰天する。
玲央は、「持ち帰って」編曲してこいと言いたかったのだ。
「まあ、やる気あるようでよかったね、玲央さん」
「あと、問題は『あれ』だな」
重田兄妹と千草の視線が春夜に向かう。
春夜は、両手をぎゅっと握って何かに耐えていた。
「はい、一曲完成しましたよ」
「俺もできた」
しばらくして、幼馴染二人組が編曲を終え、代表して玲央がその出来を見る。
「じゃあ、合わせるか」
「え、いきなり?」
「できねーの?」
挑発的な玲央に負けず嫌いな千紘が噛みつく。
「俺らに食われんなよ」
「言うじゃん。まあ、その前に一つ条件がある」
「「条件??」」
千紘と大地は顔を向かい合う。
この条件を満たさなければ、バンド加入は、無しになる。
「男は春夜に触るな。こいつ、男に触れられると涙止まらんくなるから」
春夜は千草の後ろに隠れ、縮こまっていた。
「前のギタリストも男で、最初はこの条件飲んだんだけど、最終、裏切って春夜を泣かせたからオレが殴ったら辞めてった」
「……だから、私が辞めればいいの」
「春夜、ボクはキミと一緒だから此処にいるんだよ」
「そーだよ!! 春ちゃんは必要なの!!」
女性陣は、春夜を擁護する。
たぶん、玲央も春夜のこの体質を理解したうえで関わり、必要としている。
だったら、千紘と大地の気持ちは一つだった。
「不意に触ってしまったら悪い、でも、俺たちからは触らない」
「俺も、大地と同じ気持ち」
その言葉を聞いて、玲央は、「うし、」と笑った。
春夜も、少しほっとしたのか、千草の後ろから出てきて、「私、小さいころ男の子に苛められたからこんな体質になったの」と告白してくれた。
大地が「大変だな」というと、春夜は「いつも隣に強い味方がいるから」と微笑んだ。
千草が春夜の頭を撫でると、春夜はくすぐったそうに笑う。
千紘は不意に、自分も稀有な経験をしてきたけど、くじけずいられたのは、いつも隣にいてくれる幼馴染の大地のおかげだな、と思った。
大切な存在のキミと、ずっと音楽をやれたならどれだけ幸せだろう……―――
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「大切な存在」というお話。
関係性がぐっと掘り下げられていて、読み進めていくと明かされてゆくだろう色んなつながりや、新たに出会って構築されてゆくつながりにワクワクしました。
恋次さんの感性が煌めいていて、パッションが眩しいです。
あと、短い文章で誰が話してるのか分かるのが凄いなぁと感動しました。
佐奈さんの読書への情熱が眩しい(´つ_⊂`)笑笑
それを向けられてる私の小説は幸せものですね!
やっぱり誰にでもどんな形にせよ大切な存在はあるよねと……
ここだけの話、重田兄妹たちもお互いが大切です。
フフフ(*´v`)
頑張りました笑笑