クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第2章 ◆ 見えるものと見えないものと

21. 束の間のお休み

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 リスト先生が実は精霊だったという衝撃的な事実を知り、頭がぐるぐるになりがらも部屋に戻りました。
 部屋の扉を閉めた時、肩に乗っていたシーニーが姿を現しました。本当に最後まで先生達の前で姿を見せなかったです。
 シーニーは私の肩からぴょんっとクッションの方に降りると、一人納得したように頷きました。

『リストって、どこかで聞いた事あるな~って思ったら、あの大精霊リストのことかぁ。ってことは、これはいろいろと進めた方がいいね』
『は?大精霊…って、あのお方の側近である十二大精霊の事か!?』

 フォルトがびっくりしてシーニーの方へ振り向きました。
 目が合ったシーニーは『そうそう~』とのんびりした声で返事をします。

 えっと…?二人ともものすごく聞き流してはいけないことを言ったような…?
 今…大精霊って…言ったよね?
 十二大精霊って…え?え??どういうこと?
 私の知っているリスト先生が全然知らない別の存在になってしまい、戸惑いを隠せません。
 リィちゃんも隣で困った顔をしています。
 そんな私達には構わず、フォルトとシーニーは会話を続けました。

『リスト先生が精霊だってのは知ってたけどよ。俺が今まで見た大精霊の中にリスト先生はいなかったと思うんだが…』
『あ~。そうだね。フォルトはたぶん会ったことないよぉ。リストはあのお方の傍にいることは少なかったし、いろいろあってこの街の守護精霊になったからねぇ。それに、本当の姿は人間の姿とは全然違う見た目だよ~。泣く子も黙る筋肉モリモリマッチョだよ』

 ん?

『そうなのか?シーニーといい、アメジスト様といい、みんな人に見せる姿は本来の姿とはかけ離れてる事が多いんだな?』

 んん??

『なにおう!?あたしの本来の姿もプリティービューティーセクシーでしょぉ!?』
『そうかどうかはともかく、せめて一つに絞れよ…』

 シーニーの怒涛のうさ耳ビンタを受けながら、フォルトは呆れたようにため息を吐きます。

 わーーー!!ちょ、ちょっと待って!?
 またもや衝撃的な情報の数々に、もう私の頭は爆発しそうです!
 ダメだ、これ以上いろんな事を言われても頭に入ってこないよ!

 頭を抱えていると、思っていた事が顔に出ていたのか、リィちゃんが私の頭を撫でながら優しく言いました。

「クリスちゃん。今日はもう休みましょう?まだ疲れも残っているみたいだし」
「でも…」

 二人が話している内容が気になると呟いたら、リィちゃんが心配ないと言うように微笑みを返してくれました。
 ふわふわと優しく撫でられる感覚に、眠気がじわじわとやってきます。

「二人の話は私が訊いておくから、安心して」

 それに小さく頷いたら、いよいよ瞼が降りてきました。
 ああ、もうだめだ。
 そのまま、ぽてん、とリィちゃんの胸にもたれて寝てしまいました。

「ゆっくり休んでね、クリスちゃん」



 目が覚めると、窓の外は夕焼け色に染まっていました。
 いつの間にかベッドの中にいて、朝と違うのは、みんなが私を囲んで寝ていました。
 リィちゃんは私を抱きしめるように、そして私達を包むようにフォルトが寝ています。
 シーニーは、私の横腹の上で俯せになって寝ていました。
 そんなみんなの様子になんだか和んでしまい、思わず笑みが零れます。

「…みんな、ありがとう…」

 みんなの温かさに浸っていると、シーニーが目を覚ましました。
 眠そうな目をこすりながら、私の方を見つめてきます。

『ん~…クリス、おはよぉ』
「おはよう、シーニー。途中で寝ちゃってごめんね」
『いんだよぉ。休めるときには休まなくっちゃ。クリスは昔から頑張り屋さんなんだから』

 シーニーはそう言って、私の頬に顔を寄せます。
 そのふわふわな毛がくすぐったかったけど、彼女の好きにさせました。
 そんなかわいいうさぎさんの背中を撫でながら、ずっと疑問に思っていたことを訊いてみます。

「…シーニーは…私に会ったことがあるの?」

 シーニーは、私とずっと前に会ったことがあるかのようなことを言います。
 それは一度だけじゃない。村で出会った時から、何度も。
 しかも、会ったことがあるだけじゃなくて、私の性格さえも知っているような口ぶりです。
 まるでずっと昔から友達だったかのように…。

『んー…そうだなぁ。まだ詳しいことは言えないけど、あたし達は会ったことがあるよ』
「えっ!?」

 あっさりシーニーがそう言ったので、びっくりするしかありません。
 いつ出会ってたんだろう?
 あっ、もしかして、会った時はうさぎさんの姿じゃなかったとか!?
 眠りに落ちる前にフォルトとシーニーが話していた内容を思い出します。

『今のクリスにはまだわからないと思うよぉ。あの方のお考えもあるし…』
「あの方って…精霊王様?」
『おお!?懐かしい呼び名だねぇ!そうだよ、その精霊王様!』

 懐かしい呼び名??
 精霊王様には他にも名前があるのかな?
 あ、アンジェさん?

 首を傾げていると、シーニーは私が思っていた疑問に答えてくれました。

『あの方は、たくさんの名前を持ってるよ~。時代によって様々だったし、人によっても違う名前で呼ばれてたなぁ。あたしが知ってるだけでも百は超えてるよ』
「そ、そんなに!?」

 どうしてそんなにたくさんの名前が必要だったんだろう?
 また新たな疑問が湧いてしまい、精霊王様のことがますますわからなくなってしまいました。

『あの方にとって、呼び名は重要ではないんだよ。存在こそが全てだからねぇ』
「???」

 シーニーは何でもないように、言いました。
 でもその意味がよくわからなくて、やっぱり首を傾げるしかありません。
 シーニーはそれ以上何も言わず、私の懐に入ってくると再び寝てしまいました。
 その寝顔を見つめながら、シーニーが言った言葉を反芻します。

「…存在こそが全て…」

 何か、忘れているような気がする。
 でも、それが何なのか思い出せない。
 忘れてる?思い出せない?
 その何かは、私にとって大事なことだったのだろうか。

 結局私はまた寝てしまい、次に目覚めたのは夜も更けた深夜でした。
 懐にはもうシーニーはいなくて、フォルトの気配もありません。
 抱きしめてくれていたリィちゃんもいません。
 なんだか急に独りぼっちになったようで、不安になりました。

「クリスちゃん?起きた?」

 暗闇の向こうからリィちゃんの声が聞こえてきました。
 それに頷くと、部屋の明かりが点きます。
 眩しさに目を細めたら、ぷにっと何かが頬を突いてきました。

『クリス、おそよう。疲れはどうだ?』
「フォルト…うん、疲れてないよ」

 頬を突いていたのはフォルトの鼻でした。
 大丈夫だよと親友のつやつやの毛並みを撫でてあげると、満足したように離れていきます。
 そして間を置かずに、もう一人の親友が顔を覗かせます。

「クリスちゃん、お腹すいてない?ルルーシアさんが夕食を持ってきてくれたの」

 そう言われてみれば、お腹がすいてきました。お昼も夜も食べてないからね。
 リィちゃんに手を引いてもらいながらベッドから起き上がると、シーニーが勢いよく肩に乗ってきます。
 その表情はにこにこです。かわいい。

『クリスの好きなカレーだよ~!』
「本当?」

 テーブルの方に目を向けると、大きめの鍋とお釜が並べられていました。
 傍らにはバスケットもあり、その中にはサラダと果物、飲み物が入ってるとシーニーが教えてくれました。もちろん人数分用意されています。
 朝食同様に至れり尽くせり。ルルーシア先輩のその気遣いに心が温かくなります。

「カレー、温めましょうか。クリスちゃん、お皿を並べてくれる?」
「うん。ありがとうリィちゃん」

 夜中だったけど、お腹がすいて仕方がなかったので、みんなと一緒に遅い晩ご飯を食べました。
 みんな、私が起きてくるまでカレーを食べずに待っていてくれたようで、なんだか申し訳なかったです。

 お腹が膨れて一息つくと、隣に座っていたフォルトにぽふっともたれかかります。
 親友は私がすることに任せてくれて、慣れた動作で長い尻尾をぱたりと振っただけでした。
 学校をお休みしていた時、こうやってフォルトをクッション代わりにお昼寝をしていたのを思い出します。
 あの時は寂しかったのもあって、フォルトには随分甘えてたかもしれないです。

 そういえば、フォルト、ずっとお部屋にいてくれるけど、ルルーシア先輩に怒られなかったのかな?
 寮には契約獣が入れない決まりだったし…。

 ぼんやりそんなことを考えていると、テーブルをはさんで向かいに座っていたリィちゃんと目が合いました。
 穏やかに私達を見つめるその顔は、まるでお母さんみたいです。
 そんなリィちゃんを見つめながら、いまさら気がついてしまいました。

「…っ!リィちゃん、授業は!?」
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