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第1章 ◆ はじまりと出会いと
25. その見守る瞳は
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お初にお目にかかりますわ。
私は、猫町通りにアクセサリーショップ「猫の瞳」というお店を出している白猫、アメジストと申します。
他の猫からは、「紫の貴婦人」やら、「高貴なる花」などと呼ばれております。何故そう呼ばれるのか、意味がわかりませんわ。
先日、レガロ様の妹君、クリス様が通りで大変泣かれておいでだと部下が報告してきて、様子を見に行ったら、まあ、まあ。
大きなお目目が溶けてしまいそうなほど泣いていらっしゃって、これは一大事だと思ったのですわ。
私達、猫は人間とお付き合いはしますが、それは交流や商売のためであって、基本的に個人を心配したり助けたりはしませんわ。
ですが、あのクリス様が泣いておられるのです。助けないわけにはまいりませんでしょう?
幸い、泣いているクリス様の傍に、あの方が来てくださったので、私達はクリス様の失せ物を探すのに専念できましたわ。
まったく、犯人の男はあの石の価値を知らなかったようですが、あのようないたいけな子から盗むなんて、卑怯で最低な野郎ですわね。あら、ごめんなさい、汚い言葉を。
ですが、そう言われても仕方のないような男でしたのよ。クリス様の他にもご高齢の方やお遣いに来た小さい子のお金まで盗っていたと知ったときは、毛が逆立つ思いでしたわ。
ですので、クリス様の物を取り返したついでに、猫がトラウマになるほどの恐怖を植え付けて差し上げましたわ。
え?どうやってその男を見つけたかですって?
ふふふ。それは秘密です。一つだけ言えるのは、猫の情報網を侮らないこと、ですわね。
クリス様の失せ物事件から、三日後のこと。
クリス様がお店にお見えになりました。
あの時一緒にいた、フラワーエルフの少女と騎士のエレナとジルディースも。
学校からの帰りに立ち寄ってくださったそうですわ。
「白猫さん、お礼が遅くなってごめんなさい。この前は私の宝物を取り返してくれてありがとうございました」
クリス様は礼儀正しく礼をして、私に小さな包みをくださいましたわ。
中には、私の大好物のロイヤルハニーの小瓶が入っておりました。
きっとレガロ様からお聴きになられたのですわね。
相手に気を遣わせない程度のお礼の品と礼儀正しいところもレガロ様に倣っておられて、本当によい妹君です。
「ご丁寧にありがとうございますにゃ。あれは、こちらが勝手にやったことですにゃん。お気ににゃさらにゃいでください」
「はい。その気持ちがうれしかったんです。本当にありがとうございました」
あらまあ。本当にできた子ですわね。
あの方とレガロ様から伺ってはおりましたが、とても七歳とは思えない言動ですわ。
ですが、通りで大泣きしたり、自分の大事なものを想う気持ちは、子どもらしい一面ではありますわね。
その上、今のように笑顔で返してくださって、クリス様は本当にかわいらしい方です。
ちらりとクリス様の後ろを見れば、一緒に来た三人がクリス様をわが子のような目で見守っていました。
特に、クリス様の後ろで微笑んでいるフラワーエルフの少女は、とてもクリス様を大切に思ってくれているようですわね。
エレナとジルディースは、いつ知り合ったのかしら?
何はともあれ、クリス様の周りの方々は、よい方達ばかりのようで安心しましたわ。
「白猫さん。このお店は持ってきたものをペンダントにしてもらうことができるって、レガロお兄ちゃんに聴いたのですが…」
あら、何かしら?レガロ様からお聴きになったと聞いては、断れませんわ。
ペンダントにするなんて、余程大切になさっているものなのですわね。
クリス様が目線を合わせるように屈んでくださったので、御前を失礼して、カウンターの方へ移動します。
「どうぞ、クリス様、こちらへ」
クリス様は、驚いた顔をされましたが、ゆっくりカウンターの方へ来てくださいました。
ふふふ。床の装飾模様が気になるのですわね。目線が床に釘付けですわ。
「クリス、前を見ねーと危ないぞ」
ジルディースが注意をします。
クリス様は、それにはっとされて、今度は私に目を向けながら来てくださいました。
「クリス様、どのようにゃものをペンダントににゃさるのですにゃ?」
「うん。あのね、これなの」
クリス様が取り出しになったのは、先日私達が取り返した、あの石でした。
まさか、その石を持ってくるとは思いませんでしたわ。
驚きすぎて、一瞬息が止まったくらいです。
「この前、盗られちゃったから。今度は絶対失くさないようにペンダントにしたいの。できれば、穴とかあけない方法でお願いしたいんだけど…」
ふふふ。真剣になりすぎて、敬語をお忘れになっておりますわ。もっとも、敬語を遣われなくてもよいのですけど。
そんなことを思いながら、クリス様の手にある石を拝見します。
さすが、あの方が造られた石…きれいな色ですわ。半透明のクリスタルによく似ております。
形はでこぼこしていて、トップにするには大きすぎますわね。
これは、どのようにしてペンダントにするか迷いますわ。
そうやって、私がずっと黙って見ているのを不安に感じたのでしょうか、クリス様は心配そうなお顔で言われます。
「難しいかな?」
困った顔で首を傾げるクリス様もかわいらしいですわね。
そんな顔をされると、何が何でもその願いを叶えたくなりますわ。
「大丈夫ですにゃ。預かるのは…難しそうですにゃね。よろしかったら、次来られる時までにペンダントにする方法をいくつか提案させていただきますにゃ」
「わあっ、本当に?ありがとうございます!」
花がほころぶような笑顔とは、このような様を言うのですわね。
クリス様が笑うと、周りの空気までキラキラと輝くようです。
傍にいる三人も釣られて笑顔になっているところを見れば、クリス様の笑顔は周りを明るくする力がありますわね。
「一週間ほどお時間をいただければと思いますにゃ。それ以降であれば、いつでもよろしいので、クリス様のご都合のよい日に来てくださいにゃ」
「うんっ!ありがとうございます、白猫さん!」
クリス様はそう言って、私を抱きしめてくださいました。
まあ、本当にかわいらしいですわ。レガロ様が可愛がるのも頷けます。
「クリス様、私の名前はアメジストと申しますにゃ。どうぞ、アメジストとお呼びくださいにゃ」
「うんっ、アメジストさん!」
目をキラキラさせたクリス様は、本当にうれしそうにしておられて、私までうれしくなってしまいますわ。
その後、クリス様はお店で気に入ったアクセサリーをフラワーエルフの少女にプレゼントして、お帰りになりました。
帰り際に「またね」と手を振ってくださって、本当にかわいらしいですわ。
クリス様達を見送って、店の仕事に戻ります。
ペンダントにする方法も考えなければいけないですわ。
ふふ、これから忙しくなりそうです。
商品の確認とディスプレイを直しながら、店の中を見渡します。相変わらずの光景ですわ。
私のお店「猫の瞳」は、あまりお客様は見えません。
それは、とても特殊なアクセサリーを主に扱っているからですわ。
買い求めに来られる方といえば、レガロ様のような専門の研究者や、精霊、妖精ですわね。
ふふ、そう。見えないというのは文字どおりの意味です。
人には見えておりませんが、今、このお店にはお客様がたくさんいらっしゃるのです。
『あの子はかわいいねぇ』
『人間にしては透明な子だ』
『あの子と遊びたいなぁ』
口々に飛び交う言葉。
お店にいた妖精や精霊達はクリス様を見て、とても気に入ったようですわ。
あの方が選んだ者です、当然と言えば当然ですわね。
「あらあら。相変わらず、このお店は賑やかね」
突然発せられたその澄んだ声に、妖精や精霊達が喜びながら店の扉に向かいます。
まあ、今日はなんていい日なのかしら。
クリス様が来ただけでも、今日は幸せな日ですのに、あの方もお見えになるなんて。
「にゃ~。いらっしゃいませにゃ」
そよ風が吹くように現れたあの方を出迎えます。
今はきれいな黒髪の女性姿をしておいでですが、実は他にもたくさんのお姿をお持ちなのです。
「ふふ。猫として楽しく過ごしているようね?猫語もかわいらしいわ」
「そう言われると照れてしまいますにゃ。主よ、そのお姿では、にゃんとお呼びすれば?」
「精霊王のアンジェよ」
あら、久しく聞かなかった名ですわ。
精霊王というのは、この方のもう一つの名のようなものですわ。
遠い昔の時代、精霊を引き連れて世界を廻っていた時に、その威厳さと強さへの尊敬を込めて精霊王と呼ばれるようになったそうですわ。さすが私の主です。
この方の名は、呼ぶことが許されないものですので、精霊王と呼ぶ方が人にとっては呼びやすいかもしれませんわね。
「今は精霊王の方が浸透しているから、『こちら』では精霊王アンジェでお願いね」
「承知いたしましたにゃ」
アンジェ様は柔らかく微笑んでくださり、私の頭を撫でてくださいました。
私も、実は猫ではないのですが、この姿の方が「こちら」に馴染みやすいのです。
「アメジスト。クリスの魔宝石を取り戻してくれてありがとう。ペンダントにするそうね?」
「はい、アンジェ様。さすが情報がお早いですにゃん」
「私はどこにでもいるからね」
その慈悲深いお顔は、見ている者を包みこむようにお優しいもので、とても愛を感じますわ。
「わかっておりますにゃ、アンジェ様。それにしても、どうしてクリス様をお選びになったのですかにゃ?」
「ふふふ、そうね。クリスだからよ」
相変わらず、お考えになっていることがわかりませんわ。
いえ、今は、ですわね。
この方のお考えは、誰にも知ることはできないのです。この方が、この方であるが故に。
この方のお考えがわかるのは、いつも後になってからです。
その時は、何物にも代えられない宝を手にしているのですわ。
人は、いつもそれを見落としてしまっていますけど…。
「アメジスト。クリスだけが特別ではないのよ。この世界に生きる者達は、すべて私の特別。愛する子達なのよ」
「ええ。わかっておりますにゃ、主よ」
「クリスは、その特殊な魔力の性質故に他の人よりも大変な試練に遭うわ。その時は、力になってあげてね」
「もちろんですにゃん」
アンジェ様はもう一度微笑むと、その姿を変えていきました。
まばゆい光が収まり、現れたのは中年の男性ですわ。先ほどの美人な女性とは違い、市井にいれば紛れてしまうような姿です。
「では、アメジスト。クリスのことをよろしく頼むよ」
「はい、お任せくださいにゃ」
あの方は、来た時と同じように、ふわりと行ってしまわれました。
今度お会いするときは、また違う姿でお目にかかるのでしょう。楽しみですわ。
時計を見れば、そろそろ閉店の時間ですわね。
日が落ちて、月が昇ってきています。
お店を閉めましたら、クリス様のペンダントの仕様を考えましょう。
クリス様に似合う、とびきり素敵なものを。
私達はいつも見守っていますわ。
どんな時でも、どこにいても。
そこに「想い」があるのなら、私達はいつも傍にいるのです。
私は、猫町通りにアクセサリーショップ「猫の瞳」というお店を出している白猫、アメジストと申します。
他の猫からは、「紫の貴婦人」やら、「高貴なる花」などと呼ばれております。何故そう呼ばれるのか、意味がわかりませんわ。
先日、レガロ様の妹君、クリス様が通りで大変泣かれておいでだと部下が報告してきて、様子を見に行ったら、まあ、まあ。
大きなお目目が溶けてしまいそうなほど泣いていらっしゃって、これは一大事だと思ったのですわ。
私達、猫は人間とお付き合いはしますが、それは交流や商売のためであって、基本的に個人を心配したり助けたりはしませんわ。
ですが、あのクリス様が泣いておられるのです。助けないわけにはまいりませんでしょう?
幸い、泣いているクリス様の傍に、あの方が来てくださったので、私達はクリス様の失せ物を探すのに専念できましたわ。
まったく、犯人の男はあの石の価値を知らなかったようですが、あのようないたいけな子から盗むなんて、卑怯で最低な野郎ですわね。あら、ごめんなさい、汚い言葉を。
ですが、そう言われても仕方のないような男でしたのよ。クリス様の他にもご高齢の方やお遣いに来た小さい子のお金まで盗っていたと知ったときは、毛が逆立つ思いでしたわ。
ですので、クリス様の物を取り返したついでに、猫がトラウマになるほどの恐怖を植え付けて差し上げましたわ。
え?どうやってその男を見つけたかですって?
ふふふ。それは秘密です。一つだけ言えるのは、猫の情報網を侮らないこと、ですわね。
クリス様の失せ物事件から、三日後のこと。
クリス様がお店にお見えになりました。
あの時一緒にいた、フラワーエルフの少女と騎士のエレナとジルディースも。
学校からの帰りに立ち寄ってくださったそうですわ。
「白猫さん、お礼が遅くなってごめんなさい。この前は私の宝物を取り返してくれてありがとうございました」
クリス様は礼儀正しく礼をして、私に小さな包みをくださいましたわ。
中には、私の大好物のロイヤルハニーの小瓶が入っておりました。
きっとレガロ様からお聴きになられたのですわね。
相手に気を遣わせない程度のお礼の品と礼儀正しいところもレガロ様に倣っておられて、本当によい妹君です。
「ご丁寧にありがとうございますにゃ。あれは、こちらが勝手にやったことですにゃん。お気ににゃさらにゃいでください」
「はい。その気持ちがうれしかったんです。本当にありがとうございました」
あらまあ。本当にできた子ですわね。
あの方とレガロ様から伺ってはおりましたが、とても七歳とは思えない言動ですわ。
ですが、通りで大泣きしたり、自分の大事なものを想う気持ちは、子どもらしい一面ではありますわね。
その上、今のように笑顔で返してくださって、クリス様は本当にかわいらしい方です。
ちらりとクリス様の後ろを見れば、一緒に来た三人がクリス様をわが子のような目で見守っていました。
特に、クリス様の後ろで微笑んでいるフラワーエルフの少女は、とてもクリス様を大切に思ってくれているようですわね。
エレナとジルディースは、いつ知り合ったのかしら?
何はともあれ、クリス様の周りの方々は、よい方達ばかりのようで安心しましたわ。
「白猫さん。このお店は持ってきたものをペンダントにしてもらうことができるって、レガロお兄ちゃんに聴いたのですが…」
あら、何かしら?レガロ様からお聴きになったと聞いては、断れませんわ。
ペンダントにするなんて、余程大切になさっているものなのですわね。
クリス様が目線を合わせるように屈んでくださったので、御前を失礼して、カウンターの方へ移動します。
「どうぞ、クリス様、こちらへ」
クリス様は、驚いた顔をされましたが、ゆっくりカウンターの方へ来てくださいました。
ふふふ。床の装飾模様が気になるのですわね。目線が床に釘付けですわ。
「クリス、前を見ねーと危ないぞ」
ジルディースが注意をします。
クリス様は、それにはっとされて、今度は私に目を向けながら来てくださいました。
「クリス様、どのようにゃものをペンダントににゃさるのですにゃ?」
「うん。あのね、これなの」
クリス様が取り出しになったのは、先日私達が取り返した、あの石でした。
まさか、その石を持ってくるとは思いませんでしたわ。
驚きすぎて、一瞬息が止まったくらいです。
「この前、盗られちゃったから。今度は絶対失くさないようにペンダントにしたいの。できれば、穴とかあけない方法でお願いしたいんだけど…」
ふふふ。真剣になりすぎて、敬語をお忘れになっておりますわ。もっとも、敬語を遣われなくてもよいのですけど。
そんなことを思いながら、クリス様の手にある石を拝見します。
さすが、あの方が造られた石…きれいな色ですわ。半透明のクリスタルによく似ております。
形はでこぼこしていて、トップにするには大きすぎますわね。
これは、どのようにしてペンダントにするか迷いますわ。
そうやって、私がずっと黙って見ているのを不安に感じたのでしょうか、クリス様は心配そうなお顔で言われます。
「難しいかな?」
困った顔で首を傾げるクリス様もかわいらしいですわね。
そんな顔をされると、何が何でもその願いを叶えたくなりますわ。
「大丈夫ですにゃ。預かるのは…難しそうですにゃね。よろしかったら、次来られる時までにペンダントにする方法をいくつか提案させていただきますにゃ」
「わあっ、本当に?ありがとうございます!」
花がほころぶような笑顔とは、このような様を言うのですわね。
クリス様が笑うと、周りの空気までキラキラと輝くようです。
傍にいる三人も釣られて笑顔になっているところを見れば、クリス様の笑顔は周りを明るくする力がありますわね。
「一週間ほどお時間をいただければと思いますにゃ。それ以降であれば、いつでもよろしいので、クリス様のご都合のよい日に来てくださいにゃ」
「うんっ!ありがとうございます、白猫さん!」
クリス様はそう言って、私を抱きしめてくださいました。
まあ、本当にかわいらしいですわ。レガロ様が可愛がるのも頷けます。
「クリス様、私の名前はアメジストと申しますにゃ。どうぞ、アメジストとお呼びくださいにゃ」
「うんっ、アメジストさん!」
目をキラキラさせたクリス様は、本当にうれしそうにしておられて、私までうれしくなってしまいますわ。
その後、クリス様はお店で気に入ったアクセサリーをフラワーエルフの少女にプレゼントして、お帰りになりました。
帰り際に「またね」と手を振ってくださって、本当にかわいらしいですわ。
クリス様達を見送って、店の仕事に戻ります。
ペンダントにする方法も考えなければいけないですわ。
ふふ、これから忙しくなりそうです。
商品の確認とディスプレイを直しながら、店の中を見渡します。相変わらずの光景ですわ。
私のお店「猫の瞳」は、あまりお客様は見えません。
それは、とても特殊なアクセサリーを主に扱っているからですわ。
買い求めに来られる方といえば、レガロ様のような専門の研究者や、精霊、妖精ですわね。
ふふ、そう。見えないというのは文字どおりの意味です。
人には見えておりませんが、今、このお店にはお客様がたくさんいらっしゃるのです。
『あの子はかわいいねぇ』
『人間にしては透明な子だ』
『あの子と遊びたいなぁ』
口々に飛び交う言葉。
お店にいた妖精や精霊達はクリス様を見て、とても気に入ったようですわ。
あの方が選んだ者です、当然と言えば当然ですわね。
「あらあら。相変わらず、このお店は賑やかね」
突然発せられたその澄んだ声に、妖精や精霊達が喜びながら店の扉に向かいます。
まあ、今日はなんていい日なのかしら。
クリス様が来ただけでも、今日は幸せな日ですのに、あの方もお見えになるなんて。
「にゃ~。いらっしゃいませにゃ」
そよ風が吹くように現れたあの方を出迎えます。
今はきれいな黒髪の女性姿をしておいでですが、実は他にもたくさんのお姿をお持ちなのです。
「ふふ。猫として楽しく過ごしているようね?猫語もかわいらしいわ」
「そう言われると照れてしまいますにゃ。主よ、そのお姿では、にゃんとお呼びすれば?」
「精霊王のアンジェよ」
あら、久しく聞かなかった名ですわ。
精霊王というのは、この方のもう一つの名のようなものですわ。
遠い昔の時代、精霊を引き連れて世界を廻っていた時に、その威厳さと強さへの尊敬を込めて精霊王と呼ばれるようになったそうですわ。さすが私の主です。
この方の名は、呼ぶことが許されないものですので、精霊王と呼ぶ方が人にとっては呼びやすいかもしれませんわね。
「今は精霊王の方が浸透しているから、『こちら』では精霊王アンジェでお願いね」
「承知いたしましたにゃ」
アンジェ様は柔らかく微笑んでくださり、私の頭を撫でてくださいました。
私も、実は猫ではないのですが、この姿の方が「こちら」に馴染みやすいのです。
「アメジスト。クリスの魔宝石を取り戻してくれてありがとう。ペンダントにするそうね?」
「はい、アンジェ様。さすが情報がお早いですにゃん」
「私はどこにでもいるからね」
その慈悲深いお顔は、見ている者を包みこむようにお優しいもので、とても愛を感じますわ。
「わかっておりますにゃ、アンジェ様。それにしても、どうしてクリス様をお選びになったのですかにゃ?」
「ふふふ、そうね。クリスだからよ」
相変わらず、お考えになっていることがわかりませんわ。
いえ、今は、ですわね。
この方のお考えは、誰にも知ることはできないのです。この方が、この方であるが故に。
この方のお考えがわかるのは、いつも後になってからです。
その時は、何物にも代えられない宝を手にしているのですわ。
人は、いつもそれを見落としてしまっていますけど…。
「アメジスト。クリスだけが特別ではないのよ。この世界に生きる者達は、すべて私の特別。愛する子達なのよ」
「ええ。わかっておりますにゃ、主よ」
「クリスは、その特殊な魔力の性質故に他の人よりも大変な試練に遭うわ。その時は、力になってあげてね」
「もちろんですにゃん」
アンジェ様はもう一度微笑むと、その姿を変えていきました。
まばゆい光が収まり、現れたのは中年の男性ですわ。先ほどの美人な女性とは違い、市井にいれば紛れてしまうような姿です。
「では、アメジスト。クリスのことをよろしく頼むよ」
「はい、お任せくださいにゃ」
あの方は、来た時と同じように、ふわりと行ってしまわれました。
今度お会いするときは、また違う姿でお目にかかるのでしょう。楽しみですわ。
時計を見れば、そろそろ閉店の時間ですわね。
日が落ちて、月が昇ってきています。
お店を閉めましたら、クリス様のペンダントの仕様を考えましょう。
クリス様に似合う、とびきり素敵なものを。
私達はいつも見守っていますわ。
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そこに「想い」があるのなら、私達はいつも傍にいるのです。
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