クリスの魔法の石

Nao.

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

27. 友達とのひととき

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「クリスちゃん。今日は天気がいいから中庭でお弁当食べましょう?」
「うんっ、いいね!カイト君も行こう?」
「……おう」

 学園のお昼休みは、二回あります。
 お昼前の休み時間とお昼後の休み時間が、それぞれ三〇分あるのです。
 どうして二回あるのかというと、科や組、授業などによって、お昼ごはんを食べるタイミングが変わるからだそうです。

 教育科の中庭は、あまり広くありません。
 教育科の校舎がコの字に建てられていて、その建物に囲まれるように中庭が存在しています。
 中庭と言っても空組の研究用温室や花組の温室が三分の二を占めているので、自由に歩けるところは校舎の影になるところです。
 それでも太陽が真上に来れば、天気のいい日は、どこもぽかぽかになります。

 私達は、花組の温室に近いベンチでお弁当を食べることにしました。
 私の左にリィちゃん、右にカイト君が座ります。
 最近、この並びで座ることが多いような気がします。気のせいかな?

 ベンチに座って、お弁当箱の包みを広げると、リィちゃんがカイト君に声をかけます。

「カイト、まだ拗ねてるの?」
「うるせぇよ」

 カイト君は、あのおでかけの日に、失くしたポーチを一緒に探せなかったことが悔しかったようです。

「カイト君、仕方ないよ。カイト君だって用事があったから…」
「そうだけどよ……なんで俺がいない時にそんな面倒なことに巻き込まれてんだよ。助けられねーだろ…」

 不機嫌な顔をしながらも、そう言うカイト君は、やっぱり優しいなって思いました。
 その気持ちだけで、うれしいです。

「ありがとう、カイト君。次何かあった時はカイト君に頼るからね」
「…何かあっても困るけどな。だけど、当然、助けてやる」

 真剣な目が返ってきて、思わずびっくりしました。
 カイト君の目は、いつもの夕焼け色のはずなのに、どこか違う輝きがありました。

 そんなに助けられなかったのが悔しかったのかな?

「はいはい、それじゃ、お弁当食べましょうね~」

 リィちゃんが視界を遮るようにお弁当箱を掲げます。
 その顔はちょっと拗ねていました。

 あれ?今度はリィちゃんが拗ねちゃった?

 そんなこんなで私達はお弁当を食べながら、授業についてや魔法のことをおしゃべりしました。



「そういえば、クリスは、なんで魔導具が見たかったんだ?」

 お弁当も食べ終わって、カイト君が思い出したように言いました。

「あ、うん。丁寧に教えてくれた人がいて…ライゼンさんっていう人なんだけど、魔導具研究科の生徒なんだ。お話聴いてて、他の魔導具も見てみたいなぁって、ずっと思ってたの」
「あー…魔導具、今足りねーもんな。学園で見れるところは限られてるし、他の科の校舎にも入れねーしな」
「そうね。……じゃあ、この前のおでかけでは行けなかったから、今度のお休みにまた三人で行きましょう?」

 それはうれしい提案だと思って頷こうとした瞬間、ふと思い出しました。

 次の休み…そういえば、レガロお兄ちゃんが家にいる日だ!

 レガロお兄ちゃんは、いつも休みの日は空組の研究塔でいろいろ実験をしています。
 授業で習わないことや自分の趣味の一環というのもあって、休みの日じゃないとできないんだそうです。
 本当にレガロお兄ちゃんは研究熱心で尊敬します!
 そのレガロお兄ちゃんが、今度の休みは家でゆっくりすると言っていました。

 魔導具についての本を貸してもらえるチャンスかも…!

「…ごめん、リィちゃん。次の休みはレガロお兄ちゃんに魔導具の本を借りてみようかなって…」

 三人でおでかけ、すっごく行きたいけど!
 休みの日にレガロお兄ちゃんがいるのは、なかなか無いから…!

 申し訳ない気持ちでリィちゃんに謝れば、優しく微笑み返されました。

「ううん、いいのよ。おでかけはいつでもできるもの。それに、知識があった方がもっと魔導具を楽しく見られるかもしれないわ」
「そうだな。俺はあんま興味ねーけど、道具を見るだけなら楽しそうだ。クリス、解説よろしくな」
「うんっ。まかせて!」

 カイト君に返事をしたら、リィちゃんは、「それと…」と目を伏せて言いました。

「オルデンでの魔導具破壊事件もまだ解決していないようだし、今はまだ行かない方がいいかもしれないわ」

 カイト君と一緒に目を見開きます。

 そっか…そうでした。
 魔導具破壊事件の犯人は子どもと言われています。
 今は、そう気軽に見れないかもしれません。

 うぅ、早く犯人が捕まってほしいな。

 本当に犯人が子どもなら、何か理由があるのでしょうか?
 子どもが好奇心で壊しているようには思えないし、簡単に壊せるものでもないと思います。

 私の沈んだ雰囲気に気がついたのか、リィちゃんが頭を撫でてきます。
 ふわふわと柔らかく撫でる仕草は、やっぱりお姉さんみたいだなと思いました。
 完全に小さい子ども扱いですが、それでもいいかと思っちゃいます。

「エレナさんとジルディースさん達も追いかけているみたいだから、きっとすぐに捕まるわ」
「オルデンの騎士団の奴らは強い奴ばっかだからな、大丈夫だ」

 確信を持つように言うリィちゃんとカイト君。
 その二人の言葉にほっとして頷きます。

「うん、そうだよね」

 魔導具のお店に行くのは、しばらくお預けです。

 事件が解決したら、三人で魔導具のお店に行きたいな。
 あ。ライゼンさんとも行ってみたいかも。
 きっと、たくさんお話してくれるよね。
 魔導具のお話をするライゼンさんは、とってもうれしそうだから…。

 独りでふふっと笑っていると、リィちゃんとカイト君に不思議そうな顔で見つめられました。
 「なんでもないよ」と首を振れば、リィちゃんが言いました。

「魔導具のお店には行けないけど、また三人でおでかけしたいわね」
「うんっ、また行きたい!」

 リィちゃんの提案に飛びつくように返事をすると、カイト君も賛成するように頷いてくれます。

 そうだ!それなら「猫の瞳」に行こう!
 早くペンダントにしてもらいたいし、次の次の休みの日なら、もう二週間以上経ってるから行っても大丈夫だよね。

「ね、次の次の休みは、三人で『猫の瞳』に行かない?」

 うきうきしながら提案してみると、二人はその日の予定を思い出すように考え込みます。

「んー…その日は見回り当番だ。この前代わってもらった奴と交代してるから行けねーな」
「私もその日、寮の掃除当番だから難しそうだわ…」

 カイト君は頭を掻きながら、ちょっと苦い顔をしています。
 それに続けて、リィちゃんもがっかりした様子でため息を吐きます。

「そっかぁ…それじゃ仕方ないね…」

 次の次の休みの日は、独りで「猫の瞳」に行くことになりそうです。
 残念に思いながら二人を見ると、真剣な目が返ってきました。

「おい。まさか独りで行く気じゃねーだろうな?」
「だめよ、クリスちゃん。絶対保護者の方と一緒に行くのよ?」

 ええっ!?なんでわかったの!?

 びっくりしていたら、二人はジト目で見つめてきます。
 それはどこかちょっと拗ねているような、怒っているような目です。

「クリスちゃんはかわいいんだから、人攫いに遭ったらどうするの?」
「え、えええー…」

 リィちゃんが少し怒った調子で言います。
 それに続けてカイト君も。

「人攫いに遭わなくてもよ、また何か盗まれたり、落としたりしたらどうする」
「う、うううー…」

 あのおでかけの日のジルディースさんとエレナさんの言葉がよみがえります。
 同じようなことを言われたのを思い出して、俯いてしまいます。
 この二人、なんだか過保護度が上がってきているような気がします。
 でも確かに、独りで行くのは危ないのはわかるので、素直に頷きました。
 決して二人の過保護に屈したわけではないです。むむむ。

「うん。クロードお兄ちゃんか、お母さんか…誰かと一緒に行く」

 二人は私の答えに満足して、にっこり笑います。
 そして二人がかりで頭を撫でて、「お土産話楽しみにしてるわ」とリィちゃんが言ったところで休み時間の終わりの鐘が鳴りました。




 家に帰って、「次の次の休みの日に『猫の瞳』に行きたい」と言ったら、お母さんが一緒に行ってくれることになりました。
 お母さんとのおでかけは、とても久しぶりなので、その日がとても待ち遠しくてたまりませんでした。

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