5 / 5
宴の後
しおりを挟む
さて、大騒ぎのバレンタインが終わった次の日。学校は何事もなかったように落ち着き、千紗と菊池は、学級委員会に出るために、廊下を歩いていた。千紗は今日もレモンエッセンスを振りかけてはいたが、昨日よりは控えめにしていた。
「昨日の放課後、一年生からチョコ貰ってたね。あたし、見ちゃった」
「おお。あれ、部活の後輩なんだよ」
それ以外にも、菊池がいくつか貰っているところを、千紗は目撃していた。菊池は結構、もてるのだ。
「菊池くんは、結構、チョコを稼いだんじゃないですか」
千紗がおどけてからかうと、菊池はちょっと声を潜めて、
「でも俺、実はチョコ、嫌いなんだ」
「うっっっそ!」
千紗は、思わず立ち止まった。
「しぃぃ、ゴリエ、でっかい声出すな」
「あ、ごめん。でも、でもさ、鮎川さんにミルクチョコが好きだって、言ってたじゃない。あんた、人でなしの嘘つきなの」
「だってお前、あそこでチョコが嫌いなんて言えるか。一対三だぞ。俺だって、ちょっとはびびるわ」
「ははぁ、まぁ、そう・・・だね」
そうだよな。いくら自分に気がある女子だとしても、三人いたら、ちょっと怖いか。
「じゃあさ、もらったチョコはどうするの」
「母ちゃんと姉ちゃんが食べるんだよ」
「なるほど」
「でさ、母ちゃんも姉ちゃんも、ミルクチョコが好きなんだよ。だから、俺はそう嘘は言ってないぜ」
必死に言いつのる菊池を見て、千紗はもう我慢ができなかった。
「あっははははははは」
千紗は、体を折り曲げるようにして、笑った。
「あ、何だよ、ゴリエ。笑うなよ」
「だって、だって」
菊池の困ったような顔が面白くて、千紗の笑いは止まらない。
「はぁ、やっぱ、菊池って面白いわ」
千紗につられて、菊池も笑顔になった。
「確かに、俺って、馬鹿かもしれないな」
「うんうん」
千紗が盛大にうなずくと、
「やかましいわ!」
と、菊池が千紗の頭を叩くふりをした。ま、素早くかわしたが。すると急に、
「あれ?」
と、菊池が鼻を鳴らした。
「なんか、匂いするな、お前」
「そう?」
「うん、レモンかなんかの匂い。お前、何か飴でも食った?」
「あほか」
「あれ、でも、本当にするぞ。レモンの匂い」
「そう? シャンプーかな」
そう言うと、千紗は菊池をおいて、会議室に向かって駆け出した。
これ以上は、情報はやらない。これが、レモンエッセンスの香りだなんて、菊池にだけは、絶対に教えてあげない千紗なのだった。
「昨日の放課後、一年生からチョコ貰ってたね。あたし、見ちゃった」
「おお。あれ、部活の後輩なんだよ」
それ以外にも、菊池がいくつか貰っているところを、千紗は目撃していた。菊池は結構、もてるのだ。
「菊池くんは、結構、チョコを稼いだんじゃないですか」
千紗がおどけてからかうと、菊池はちょっと声を潜めて、
「でも俺、実はチョコ、嫌いなんだ」
「うっっっそ!」
千紗は、思わず立ち止まった。
「しぃぃ、ゴリエ、でっかい声出すな」
「あ、ごめん。でも、でもさ、鮎川さんにミルクチョコが好きだって、言ってたじゃない。あんた、人でなしの嘘つきなの」
「だってお前、あそこでチョコが嫌いなんて言えるか。一対三だぞ。俺だって、ちょっとはびびるわ」
「ははぁ、まぁ、そう・・・だね」
そうだよな。いくら自分に気がある女子だとしても、三人いたら、ちょっと怖いか。
「じゃあさ、もらったチョコはどうするの」
「母ちゃんと姉ちゃんが食べるんだよ」
「なるほど」
「でさ、母ちゃんも姉ちゃんも、ミルクチョコが好きなんだよ。だから、俺はそう嘘は言ってないぜ」
必死に言いつのる菊池を見て、千紗はもう我慢ができなかった。
「あっははははははは」
千紗は、体を折り曲げるようにして、笑った。
「あ、何だよ、ゴリエ。笑うなよ」
「だって、だって」
菊池の困ったような顔が面白くて、千紗の笑いは止まらない。
「はぁ、やっぱ、菊池って面白いわ」
千紗につられて、菊池も笑顔になった。
「確かに、俺って、馬鹿かもしれないな」
「うんうん」
千紗が盛大にうなずくと、
「やかましいわ!」
と、菊池が千紗の頭を叩くふりをした。ま、素早くかわしたが。すると急に、
「あれ?」
と、菊池が鼻を鳴らした。
「なんか、匂いするな、お前」
「そう?」
「うん、レモンかなんかの匂い。お前、何か飴でも食った?」
「あほか」
「あれ、でも、本当にするぞ。レモンの匂い」
「そう? シャンプーかな」
そう言うと、千紗は菊池をおいて、会議室に向かって駆け出した。
これ以上は、情報はやらない。これが、レモンエッセンスの香りだなんて、菊池にだけは、絶対に教えてあげない千紗なのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる