時はいつか、みちる

ケイオチャ

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後日譚と過去の話

四人の出会いと恋 前編

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 25年前の4月…
 時田 五花ときた いつか17歳は 
 春の新学期でクラス分けの発表にドキドキ
 していた。
 (琴美ちゃんと同じクラスになれるかな?
 新しいクラスになじめるか不安。)
 不安になりながら、クラス分け表をみる。
 (あった、琴美ちゃんもある。良かった。
 とりあえず話せる人いる。)
 ほっと息を漏らす五花。
「おっはよう、五花ちゃん。クラス分け見た?
 おっ、一緒じゃん。イェーイ!」
 後ろから、覆い被さるように抱いて、
 クラス分けに目線を向けてすぐに見つけ、
 両方の手のひらを五花に向ける市原 琴美いちはら ことみ
「イェーイ…おはよう、琴美ちゃん。
 やったね、嬉しいよ。」
 なんとかノリにのりつつ、微笑んで喜ぶ五花。
 二人はクラスに向かっていった。

 ~繋次と爽也~

 過去柄 繋次かこから けいじ無原 爽也むはら そうやはクラス分け表の前にいた。
「爽也、おはよう。どこだ?俺の名前は。
 見つからねぇな。分からん。」
 朝練の後で来た繋次。
「おはよう、バカ繋次。ここだよ、で、僕はここだ。
 なんか知らないけど、同じだな。」
 (嬉しい。話せる人がいて良かった。)
 表ではなんとも思っていない風を装うが、
 心の中では安心している爽也。
「バカは余計だぞ。嬉しいぜ!爽也と一緒でな。
 勉強教えて貰い放題だぜ!赤点回避は確実だ。」
 素直に喜び、勉強に関して安心する繋次。
「はぁ、赤点回避だけではなくて、ちゃんと成績
 残してほしいんだけどな。とりあえず行こうか、
 教室に。」
 ため息をつきつつ、促す爽也。
「おぅ、行こうぜ。」
 ついていく繋次。

 ~休み時間 移動教室~

 5月になり、クラスに慣れはじめている頃…
「次、どこだっけ?家庭科だから、家庭科室?」
 琴美が五花に聞く。
「うん、そうだね。裁縫楽しみだな。」
 裁縫にワクワクする五花。
「器用なの良いなぁ。私、そんなに得意じゃないの。
 集中力がね、あんまり続かなくて。
 途中で針が刺さりそうになるのよ。」
 途中で飽きるタイプの琴美。
「気をつけてね。」
 心配になる五花。
 反対側から男子二人組が歩いている。
「次は家庭科だな。裁縫は好きだぞ。爽也は?」
 やる気満々な繋次。
「うん、できるよ。好きでも嫌いでもないけど。
 繋次は意外と器用だから、できるんだよな。」
 意外と思っている爽也。
 お互いに話に夢中になって、ぶつかる距離にいる
 ことに気づかない。
 次の瞬間…
「わぁ!」
 五花が繋次にぶつかって転んでしまう。
「おぅ!?」
 繋次は驚くものの、体幹がしっかりしてるため
 転ばない。
「すまん、怪我ないか?前見てなかったからな。」
 すぐに謝る繋次。
「いてて、いえ怪我はないです。転んだだけで。
 私も前見てなかったのでごめんなさい。」
 ゆっくり立ち上がる五花。
「教科書拾ったぞ。これから気をつける。
 えっと…同じクラスの…あっ、時田さんだな。」
 教科書を渡す繋次。名前はなんとか思い出す。
「ありがとう、過去柄くん。」
 お礼を言って、自然と名前を呼ぶ五花。
「ぉ…おぅ。教室一緒にいかねぇか。」
 (笑顔、かわいいな。時田さん。なんだこの胸の
 あたりドキドキ?するぞ)
 顔を赤らめる繋次。
「うん、全然いいよ。いいよね、琴美ちゃん。」
 確認をとる五花。
「いいよ、クラスメイトだし。ごめんね、私も
 不注意だったよ。これから気をつけるよ。」
 (おおう?過去柄くん。五花ちゃんに恋したか?)
 もちろんといった感じで承諾し、自分も悪いと
 思って謝る琴美。
 心中では恋の始まりを察する。
「繋次どうした?もちろん、一緒に行こう。
 僕もごめんね。前方不注意だった。」
 (繋次、もしかして。いや、違うか?)
 繋次の様子に疑問に思うがすぐに切り替え、
 謝る爽也。
 心の中では恋の始まりを察しきれていない。
 これが、四人が仲良くなるきっかけである。

 ~テスト前の放課後~

「今日からテスト一週間前だ。
 しっかり勉強するように。赤点は補習だからな。
 日直挨拶。」
 厳しくいう担任。
「起立!礼、ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
 挨拶が終わる。
「ふー、やっと終わったぜ!柔道部はしっかり
 一週間前は休みなんだよな。先生が勉強してほしい
 からな。こっそりなら自主練してもバレないか。」
 柔道できないことに嘆く繋次。
「残って勉強するぞ、繋次。赤点回避するんだろ。」
 (赤点になりそうだな、このままだと。)
 もう気が重い爽也。
「お、おぅ…爽也から逃げられないな。」
 気まずそうに笑う繋次。
「勉強するの~、私たちもするから一緒にやってい?」
 (これは五花ちゃんと過去柄くんが仲良くなる 
 チャンスだ。)
 琴美が楽しそうに話しかけてくる。
「大人数の方が、楽しいと思うよ。」
 (二人ともっと仲良くなりたいな)
 琴美の言葉に乗る五花。
「いいぞ、二人がいれば赤点回避どころか、
 中間テストの真ん中ぐらいにいくかもな!」
 (時田さんもいるのか、なんかドキドキするな。
 なんでだ?)
「人数が増えても、繋次の順位が上がるわけじゃない けどな。理解しないと意味ないからな。
 一緒に勉強するのは良いね。やろうか。」
 繋次の言葉に反論するも提案には乗る爽也。
「うん、机よせよう。」
 (よしよし)
 机をくっつけ始める琴美。
「うん、ありがとう。」
 (大人数での勉強楽しみ)
 お礼を言って、琴美を手伝う五花。
 四人での勉強タイムが始まった。
「そうだ、二人のこと、下の名前で呼んで良い?
 せっかく、仲良くなってきたんだしさー。」
 下の名前で呼びたい琴美。
「私も呼びたいです。」
 控えめに言う五花。
「うん、いいよ。じゃあ僕も下の名前で呼んで良い
 かな?」
 あっさり承諾する爽也。
「おぅ、もちろんだ。俺も下の名前で呼んでいいか?」
 ノリノリで承諾する繋次。
「うん、よろしくー!爽也くん、繋次くん。」
 さっそく呼ぶ琴美。
「うん、よろしくね、爽也くん、繋次くん。」
 微笑んで言う五花。
「よろしくね、琴美さん、五花さん。」
 笑顔で返す爽也。
「……おっ、よろしくな!琴美さん、五花さん。」
 (やっぱり五花さんの笑顔良いな…じゃなくて
 挨拶返さねぇと。)
 しばらくポッと五花のことをみつめるが、
 なんとか切り替えて返す繋次。
「繋次大丈夫か、勉強まだ始まってないのに知恵熱
 でも出たか?」
 (なんか様子変だな、繋次。)
 繋次の恋には気づかずにからかって心配
 する爽也。
「出てねぇ、やろうぜ!勉強。」
 誤魔化して言う繋次。
「そうか、なら良いけど。」
 勉強に戻る爽也。
「繋次、また間違えてるよ、ここ、符号反対じゃん。」
 指摘する琴美。
「本当か?!助けてくれ!爽也。」
 爽也にすぐ頼る繋次。
「ここはな、こうして、こうするんだよ。」
 分かりやすく説明する爽也。
「おお~、やっぱ、爽也の説明分かりやすいぜ!
 ありがとな。」
 感謝する繋次。
「うん、それでちゃんとテストの点数に反映して
 くれればもっと良いんだけどな。」
 天を仰ぐ爽也。
「頑張ろう、みんなで良い点数取れるように。」
 元気づける五花。
「そうね、頑張る!」
 琴美はやる気が上がる。
「おぅ、頑張るぞ!」
 (なんかいつもよりやる気あるな。五花さんが
 言ったからか?なんなんだ?分からん。)
 混乱しているものの、やる気は爆上がりな繋次。
「うん、頑張ろう。」
 (繋次、珍しくやる気になってるみたいだな。
 今回はいけるかな。)
 繋次の点数に希望を見いだす爽也。
 (繋次くん、五花ちゃんに応援されてやる気が
 すごく出てる。爽也くんは気づいてないっぽい?
 ってことは私だけが気づいてる?うふふ。)
 楽しそうに様子を見る琴美。
「五花ちゃん、繋次くん、なんか頭パンクしそうに
 なってるね。」
 小声で言う琴美。
「そうだね。」
 (一生懸命だな、かっこいい。)
 小声で返す五花。
「爽也、ここはどうすればいいんだ?」
 聞く繋次。
「繋次、相変わらずだな。琴美さんや五花さんにも
 聞けよ。まぁ、いいけどさ。これはこうしてな。」
 (悪くないな、こういう時間も。大人数も楽しい。)
 ため息をつくもなにげに楽しそうにしている。
 (爽也くん。笑ったところ意外とかわいい。)
 ギャップに萌える琴美。
「琴美ちゃん?顔赤くなってるけど、大丈夫?」
 心配する五花。
「うん?大丈夫!勉強しよ。」
 切り替える琴美。
 一週間、四人で楽しく毎日勉強をして、
 より仲を深めた…

 ~中間テストの結果~

「五花ちゃん、中間テストどうだった?
 私は真ん中中の真ん中!」
 結果をみせて、ドヤ顔をする琴美。
「私は上の中だよ。」
 素直に言う五花。
「すごい!私がドヤ顔してるの恥ずかしい。」
 恥ずかしくなる琴美。
「そうかな、ありがとう。」
 お礼を言う五花。
「謙虚だな、もっと喜べば良いのに。
 そうだ、爽也くんはテストどうだった?
 というか、繋次くんは赤点回避できたの?」
 二人の元に突っ込んでいく琴美。
「琴美ちゃん、点数聞くのはさすがに私までに
 して…ごめんね。」
 さすがにまずいと思った五花。
「僕は、これだよ。大したことないけど…。」
 紙をみせる爽也。
「すごい!学年一位じゃん。なんで頭良い人は
 謙虚なのさ。」
 めっちゃ驚いて褒めて、少し不満を漏らす琴美。
「一位は本当にすごい!なかなか取れないよ。」
 尊敬する五花。
「俺は赤点回避できだぞ!しかも中の下になった。」
 満足そうに言う繋次。
「おお~、努力の成果でたね。繋次くん。」
 パチパチと褒める五花。
「うん、三人がかりで教えたかいがあったね。」
 喜ぶ琴美。
「今までで、一番いいな。
 努力の成果がやっとこでたか。」
 喜びを噛み締める爽也。
「そこまでか、嬉しいぜ!爽也に喜んでもらえてよ。」
 (五花さんにも褒められた、やべぇ嬉しい。)
 少し驚くも嬉しくなる繋次。
「そうだね、繋次くん。」
 笑顔で返す五花。
「爽也くん、繋次くんは五花ちゃんのこと好き
 みたいだから、協力してくれない?」
 小声で言う琴美。
「えっ?そういうことか、五花さんといる時
 なんか様子変だったりしたから、納得いったよ。
 それは喜んで協力するよ。」 
 (琴美さん、無邪気な顔かわいい。
 なんだ、なんかざわざわする。)
 小声で楽しそうに返す爽也。
 心の中で、無自覚に恋が芽生える。

 ~六月末 学校帰り 爽也と繋次~

「そろそろ期末テスト一週間前かー。
 気が重いぞ。…それ、いつもつけてるよな。」
 期末テストを嫌だと思いつつ、木で作った名前入りのチャームに目を向ける繋次。
「次のテストは真ん中になることが目標だな。
 これか、父さんがくれた大切なお守りだ。
 学業成就と厄徐かな、そうだ、バカ繋次に
 預けるか。これあればもしかしたらいけるかも
 しれないからな。真ん中。」
 丁寧に取り外して渡す爽也。
「いいのか!ありがとう。
 分かった。大切にするぜ!」
 素直にもらい、自分の鞄につける繋次。

 ~数日後 繋次の家にて~

「これがあれば、爽也みたいに頭よくなっかな。」
 眺める繋次。
「にいちゃん、それなんだ?貸せよ!」
 奪い取る弟。
「おい、返せ!三月みつき!」
 引っ張る繋次。
 負けじと三月も引っ張る。
 すると、パーンとはじけてしまった。
「あっ…やべ!三月がひっぱるからだろ。
 壊れちまったじゃねぇか。」
 急いで集める繋次。
「ごめん、にいちゃん。」
 泣きそうになって逃げる三月。
「おい、どうしろってんだよ。」
 (絶対爽也に怒られるよな。しかも大切にしてた
 やつだからな。余計と…工作は得意じゃねぇし。
 裁縫はできてもなぁ。)
 なんとか、パーツは集めたものの、直せそうに
 ない繋次。
 そのまま、鞄にしまった。

 ~次の日 放課後 期末テスト前の勉強会~

 壊したことを爽也に言い出せないまま、繋次は
 放課後を迎えた。
「今日、俺は帰って勉強するぜ。」
 隠し通したすぎて早く帰りたい繋次。
「いいや、ダメだ。家帰ったってまともに勉強
 しないだろ。」
 (なんか様子変だな、今日一日中。)
 違和感を覚えつつ、指摘する爽也。
「そうよ、そこの信頼はないよ。」
 (うん?繋次くんなんか隠し事してる?)
 指摘する琴美。内心で察する。
「琴美ちゃん、それは言い過ぎだけど、その、うん。
 家だと誘惑多いから、ここでみんなで勉強
 しよう。」
 (なんか、繋次くん、様子変?な気がする。)
 琴美の意見に共感できるとは思いつつ別の言い方で
 引き止める五花。
 内心では違和感を覚える。
「おぅ、そこまで言われたら仕方ねぇな。」
 (どうしよう、言えないぞ。)
 諦めた繋次。内心はずっと考えている。
 勉強中、爽也はあのチャームの話題を出す。
「実は今回、繋次にとっておきのものを渡してる
 んだ。僕が父さんからもらった手作り木のお守り
 なんだけど、繋次がもっと成績よくなるように
 預けたんだよ。なっ繋次。」
 そう楽しそうに言って繋次のかばんに注目する
 爽也。
「あれ、なんでないんだ?あのチャーム?」
 ないことに気づき、聞く爽也。
「それは…実は…今…家にあるんだ。」
 目が泳ぎながら壊したとは言えなかった繋次。
「はぁ、ちゃんと身につけろよ!てか、鞄に入ってん
 じゃねーのか?表に見せるのが恥ずかしいのか?
 あんな手作りのチャームが!鞄みるからな。」
 (なんか隠してる!嘘がバレバレなんだよ。)
 怒り、察して、鞄を取る爽也。
「おい、本当に家にあんだって、つけんの忘れた
 んだ!」
 慌てる繋次。
「これが…家にあるはずなんだけどな!」
 鞄から見つけた爽也。
「あっ…いや…えっと…」
 言葉が出ない繋次。
「もういい、どうせ俺のことバカにしてんだろ。
 こんな古いチャームつけてんのを。」
 (信じてたのに…)
 泣きそうになりながら、教室を飛び出す爽也。
「違うぜ!待ってくれ、爽也!」
 叫ぶが体は動かずに爽也が出ていくのを見る繋次。
「爽也くん!私が追いかけてくる!」
 (まずい、私が追いかけて話聞かなきゃ!
 そして。五花と繋次くんを二人きりして親密度
 アップ!仲直りもしてほしいのが一番だけど。)
 琴美が爽也の後を追って行った。

 ~五花と繋次~

「えっ!?琴美ちゃん?分かった。」
 (今日も楽しい勉強会のはずが…でも繋次くん。
 なんで嘘なんかついたんだろう。いつもそんなこと
 しないのにな。一番純粋なのにな。)
 びっくりしつつ、今の状況にどうしようとなる
 五花。
「あぁ、やっちまった。なんで俺、あんなすぐに
 バレる嘘ついちまったんだろ。」
 椅子に座って、落ち込む繋次。
「繋次くん、本当のこと教えてもらえませんか?
 なんで嘘までついて隠したかったことって。」
 繋次の目の前に座り直して真剣に聞く五花。
「おぅ、爽也にもらったお守りが嬉しくてな。
 眺めてたらよ。弟が奪ってよ。それを取り返そう
 と引っ張ったら、壊れちまって。
 いや、まぁ、引っ張るのが悪いんだが。
 直そうにも材料ねぇし、変にいじれなくてよ。
 絶対爽也怒るから、怖くて素直にいなかった 
 んだ。バカにはしてない。
 そんなことは思わねぇ。気持ちこもったもんは
 バカにしない。それは事実だ。
 でも、嘘ついたのも事実だ…」
 少し早口になって話す繋次。途中から
 泣きそうになっている。
「そうだったんだね。」
 (たしかに私も同じ状況だったら嘘をついてしまう
 かもしれない。)
 共感する五花。
「幼稚園からずっと一緒なのにな。
 これで大親友でなくなっちまうな…。辛いな。」
 諦めな繋次。
「素直に言いましょう。その方が良いよ。
 嘘が一番いけないことなんだと思うから。」
 素直に言う五花。
「あ…そうだな。嘘が一番ダメだな。
 分かってるならそれを謝れば良いだもんな。
 ありがとうな、五花さん。」
 表情が明るくなる繋次。
「はい、とりあえず戻ってくるの待った方が良い
 よね。」
 待つことにする五花。
「うーん、戻ってくるか?まぁ、待つしかねぇな。
 信じて…。」
 待つことに同意する繋次。

 ~琴美と爽也~

「はぁはぁ、爽也くん、待って~。」
 呼びかける琴美。
「えっ…琴美さん?!追いかけてきたの?」
 気づいて後ろを向き、驚く爽也。
「うん、五花に繋次くんのことまかせてね。
 爽也くん、いっかい冷静になろう。
 繋次くんが嘘つくなんてよっぽどなんかあった
 んだよ。あの…一番純粋な人だからね。」
 意外だと思っているため、素直に言う琴美。
「それは分かってるんだ…僕も。」
 目がうるんでいる爽也。
 校庭の近くのベンチに座る。その隣に琴美も座る。
「じゃあ、なんで、飛び出したの?」
 疑問を投げかける琴美。
「嘘つかれたことがとてもショックだったんだよ。
 幼稚園からずっとあんなバカ正直で柔道が大好き
 なやつだったから。」
 初めて素直な気持ちを言う爽也。
「そうなんだ、昔から変わらないのか、すごいね。
 素直に聞くしかないかな。繋次くんに理由を。
 今、相当反省していると思うし。」
 (容易に想像できるな、昔の繋次くん。
 反省してるんだろうなダメなことしたって。)
 内心、昔の繋次を想像して面白いと思いつつ、
 反省している姿も想像できて、アドバイスする
 琴美。
「うん、繋次なら僕のこと待ってるかもな。
 戻るよ、ありがとう琴美さん。」
 立ち上がって、礼を言う爽也。
「うん、どういたしまして。」
 その後をついていく琴美。

 ~教室にて~

「戻ってこないな、やっぱり俺から向かった方が。」
 立ち上がって行こうする繋次。
「待って、荷物ここにあるから戻ってくるよ。」
 根拠を示して止めようとする五花。
「ただいまー、五花ちゃん、繋次くん。
 ほら、爽也くん。」
 明るく帰ってきた琴美。
「……ただいま。」
 少し声が震えて言う爽也。
「爽也、すまなかった!…俺、嘘ついた。
 弟から取り返そうとして引っ張ったら壊しち
 まった。大切なものって知ってて、預けて
 もらえたが嬉しくて眺めてたんだ。
 本当にすまなかった。」
 声が震えて、繋次は心臓の音が響いていた。
 五花と琴美はあえて先に下駄箱の方に向かって
 いった。
「バカ繋次…。」
 声が震えながらも少し嬉しそうで呆れている爽也。
「なら、最初から言えよ。嘘つく方が違うんだよ。
 判断間違えて、本当に…バカだ。」
 怒り口調ながらも最後に少し笑って言う爽也。
「そうだな、バカだったぜ。これからは嘘つかねぇ。
 約束だ。」
 にっと笑って、約束指の形を爽也に差しだす繋次。
「あぁ、約束だ!」
 応じて差し出す爽也。
 二人を歌を歌って、笑った。

 ~下駄箱~

「二人にして大丈夫かな?またケンカになったり
 しないかな?」
 心配になる五花。
「大丈夫よ、あの二人、幼稚園からずっと一緒で。
 正反対だけど、お互いの欠点を補って、楽しそう
 にしてるからね。」
 自信ありな琴美。
「そうだね、なんか私も大丈夫な気がしてきたよ。」
 微笑んで言う五花。
「おっ、まだいたのか?もう帰ったのかと思ってた
 ぜ!なら一緒に帰ろうぜ!」
 親しげに爽也と話しながら、階段から降りてきて、
 五花と琴美に気づいて、少し意外と顔しながらも
 嬉しそうに言う繋次。
「琴美さん、五花さん、ありがとう。
 仲直りできたよ。」
 繋次の肩を軽く叩いて、言う爽也。
「おぅ、ありがとうな。」
 大声で言う繋次。
「仲の良い二人の方がやっぱり良いね。」
 満面の笑みな五花。
「うんうん、お似合いの二人だね。」
 少しからかうように言う琴美。
「だろう、これからもずっと大親友だからな。」
 今日一番の笑顔で返す繋次。
「バカ繋次、腐れ縁だよ。ずっといることにはなり
 そうだけどさ。」
 照れているが、嬉しそうな爽也。
 歩いているうちに自然に前に琴美と爽也、後ろに
 五花と繋次になった。
「五花さん、ありがとうな。謝る勇気くれたこと。」
 目線は気恥ずかしさで合わせられないものの、
 感謝を伝える繋次。
「お…いえ、私は正直にやった方が良いと思う
 ことを言っただけだよ。」
 (目線が合わないなぁ、恥ずかしいのかな、可愛い。
 なんかドキドキするのはもしかして…)
 繋次の表情にドキドキしている五花。
「それはすごいことだぞ。誇っていいんだからな。」
 五花の方を見て思いっきり笑う繋次。
「うん、ありがとう。繋次くん。」
 嬉しそうに笑う五花。
「おぅ…。」
 (眩しいぜ。)
 小さく返事をした繋次。
 その一方で琴美と爽也は。
「琴美さん、話聞いてくれてありがとう。
 すごい助かったよ。」
 素直にお礼を言う爽也。
「仲直りできたなら良かったよ。
 目の前でケンカされて見過ごせるわけないけど。
 幼稚園から仲良いんだっけ?」
 安堵するとともに話題を振る琴美。
「うん、家が近いのもあって、母親どおしが
 仲良いんだ。それがきっかけで繋次とも仲良く
 なった。たまたまだよ。」
 偶然と言う爽也。
「そのたまたまが大事なんじゃない?
 五花ちゃんと親友になったのも席近くなったから
 だし。爽也くんと繋次くんに出会ったのも。
 ぶつかってなかったら仲良くなってなかったよ。」
 偶然が大事と語る琴美。
「はぁ、そうか。たしかに。そうかもしれないね。」
 (琴美さんといるとなんかそわそわするな。
 普通ではないというか、僕も恋してるのか?)
 恋を自覚し始める爽也。
 (爽也くん、かっこいいな。あれ?
 これってもしかして恋ってやつ?!
 まさかの?五花と繋次くんを応援してたら
 自分もしちゃってる?)
 恋を自覚して楽しくなってる琴美。
 仲良く四人で帰って行った…

 ~次の日 木のチャームの修理~

「さて、その木のチャーム直しますか!」
 琴美が言い出す。
「材料持ってきました。」
 五花がカバンから修理に使えそうなものを
 取り出す。
「これ、直せるのか?!」
 驚く繋次。
「本当に、直せるの?」
 驚く爽也。
「うん、木自体は壊れてないから、爽也くんの名前
 の通りに並べ替えて、五花ちゃん、細かいとこは
 お願い。」
 四角い木を並べ替えて終わる琴美。
「うん、紐を通して、縫えば完成。」
 結ぶのではなくあえて縫うことで元から一つの
 輪っかのようにみせた五花。
「すげー、めっちゃ良いな。元通りだ!
 ありがとうな。」
 めっちゃ笑顔で言う繋次。
「ありがとう、期末テスト終わったら返してね。
 元は僕のだからな。」
 礼を言って、冷静に突っ込む爽也。

 ~夏祭り~

 期末テストも無事に赤点回避し、目標の真ん中に
 いった繋次。もちろん、他三人は平均点以上
 である。
 夏休みは直前と最初は色々あったため、遊ぶこと
 ができなかったが、夏祭りにみんなで行くこと
 になった四人。

「五花ちゃん、赤色の浴衣似合ってるね。」
 神社の鳥居の前で男子二人を待ちながら、
 五花の浴衣を褒める琴美。
「そう?琴美ちゃんの水色の浴衣もすごく似合ってるよ。」
 褒め返す五花。
「そう!良かった。初めてだから浴衣着るの。
 それにしても爽也くんと繋次くん遅いのね。」
 喜びつつ、二人が遅いことを気にする琴美。
「うん、そろそろ来ても良さそうな頃だね。
 人いるから、迷ってなければ良いけど。」
 心配になってきた五花。
「ごめん、繋次早くしろ。
 人がいて、うまく進めなくて遅くなった。」
 爽也が説明しながら来た。
「すまん、上手く人を避けられなくてな。」
 体が大きいために不便な繋次。
「繋次は体を理解できてないから、そこからだな。
 じゃないと巻き込まれる僕の身にもなって欲しい。
 はぁ。」
 繋次が人に当たりまくって爽也は謝りまくって
 いたので
 もう祭りの前から疲れている爽也。
「お疲れ様、爽也くん。」
 琴美と五花は困った顔をして同時に言う。
「……浴衣着てるんだな。」
 (めっちゃ綺麗だ、五花さんが特に赤の浴衣
 めっちゃ似合ってるぞ。)
 見惚れてそのままのことを言ってる繋次。
「そりゃ、祭りだからね。みんな着てるし。
 はじめてきたんだけどね、浴衣自体。
 爽也くんと繋次くんは普通に普段着って感じ
 だね。」
 (褒めてくれないかなぁ、爽也くん。)
 内心期待しつつ、いつもの調子で話す琴美。
 アピールは袖をひらひらしてみる。
「浴衣は着る機会少ないからね。
 夏祭りは数少ない絶好の機会だよ。」
 (繋次くんの純粋な反応面白いな。
 浴衣似合ってるかな?お母さんに借りたからなぁ)
 内心自信ないものの、笑顔で説明する五花。
「腹ごしらえしねぇ?腹空いた。」
 空腹に耐えられない繋次。
「素直だな、僕もお腹はすいてるよ。
 屋台回ろうか。」
 少し呆れつつ、共感する爽也。
「うん、りんご飴とかチョコバナナとか。」
 甘いもの大好きな琴美。
「まずは、焼きそばやお好み焼きとか。
 食事系で行こうよ。」
 デザートは最後にしたい五花。
「まぁ、なんでもいいじゃねぇか。とりあえず
 好きなの食おうぜ。」
 なんでもいいので食べたい繋次。
「そうだね、屋台はたくさんあるからゆっくり
 行こう。」
 冷静な爽也。
 それぞれ好きなものを食べながら歩いていく。
 すると、金魚掬いがある。
「金魚掬い!やろう!」
 テンション上がりまくりな琴美。
 金魚は赤いのから黒いのから様々な大きさでいた。
「うわ、またやぶれた。うーん、難しいな。」
 琴美はシンプルに下手だった。
 テンションは下がる一方である。
「それ、とれた。今度はここかな。それ。」
 的確に狙いを定めてとる爽也。
「すごいね、爽也くん。私、まだ一匹もとれないよ。」
 尊敬の眼差しで爽也をみて褒め、自分の現状に
 悲しむ琴美。
「えっ、そうかな。」
 照れる爽也。
「静かに静かにそっと、とれた。」
 丁寧に金魚を掬う五花。
「えいや、お?またやぶれたな、なんでだ?」
 豪快にやるのですぐにやぶれる繋次。
「繋次くん、そんなにポイは強くないからそっと
 やらないとやぶれちゃうよ。」
 (このままだと、繋次くんのお金がどんどん
 なくなる。一匹でもとれるようにアドバイス
 しなきゃ。)
 見ていられなくてアドバイスする五花。
「ほぇ、そういうもんか。がはは、向いてないな。
 俺、静かにするのは向いてねぇ。」
 潔く諦めた繋次。
「そっかぁ。」
 笑顔にほっこりする五花。
 金魚掬いを終えて、また歩き出す一行。
「琴美さん、金魚あげるよ。」
 プレゼントする爽也。
「えっ?いいの?爽也くんとったものだよ。」
 戸惑う琴美。
「いいんだよ、僕は琴美さんが喜んでくれるなら
 それで。」
 自然な笑顔で言う爽也。
「…!!あ、ありがとう。ならもらっとく。」
 (はわぁ、自然にキュンとすることを言われた。
 嬉しいけど、なんかめっちゃ恥ずかしい。)
 顔が赤くなる琴美。
 (うん?なんか自然にとんでもないこと
 言わなかったか?)
 後から恥ずかしくなった爽也。
 (爽也、琴美さんのこと好きなのか?
 なんか俺にもできる屋台ないか?)
 疑問に思いつつ、できそうな屋台を探す繋次。
「射的しませんか?景品けっこうあるよ。」
 (これなら、繋次くんも楽しめるかな?)
 自然に繋次のことを考えている五花。 
「本当だー、いいね。」
 琴美は目をキラキラさせながら言う。
「五花さん、なんかほしいのあるか?」
 お金を払い、銃をかまえる。
「えっ、あー、あの、ぬいぐるみ欲しいかな。」
 慌てるが、ぬいぐるみを見つけて控えめに言う
 五花。
「おぅ、ぬいぐるみだな!」
 狙いを定める繋次。
「…。」
 (かまえてる姿、かっこいいな。頑張れ。)
 繋次のことを見つめて心の中で応援する五花。
「ドーン!」
 一発でぬいぐるみを落とした繋次。
「すごいな、にいちゃん。はい、これ景品ね。」
 屋台のおじちゃんは感心して渡す。
「ありがとうございます!やるよ、ぬいぐるみ。」
 しっかりお礼を言って、五花に渡す繋次。
「ほ…ありがとう。大切にするね。」
 ぎゅっとぬいぐるみを抱いて、繋次の方に笑顔で
 答える五花。
「おぅ…良かったぜ。」
 照れながらも言う繋次。
「これはいい感じだね。二人。」
 爽也にひそっと言う琴美。
「そうだね、上手くいきそう。」
 ひそっと返す爽也。
「良かったね、五花ちゃん。」
 嬉しそうに言う琴美。
「うん。」
 嬉しそうに返す五花。
「すごいな、バカ繋次のくせにやるな。」
 からかうように言う爽也。
「だろ、集中力は自信あるんだぜ!」
 誇るように言う繋次。
「そうか。」
 (からかったのつもりが、普通に喜んでるな。
 純粋だな。)
 少し悔しい爽也。
 その後も屋台周りをしていた。
「あれ、五花ちゃんいない?どっかではぐれた?」
 気づかないうちに五花がいなくなり慌てる琴美。
「えっ、ほんとだ。いねぇ。」
 気づかなかった繋次。キョロキョロする。
「うーん、どこだろう。」
 周りを見る爽也。
「おっ…あの浴衣…もしかして…ちょっといって
 くるぞ。」
 人を押し除けていく繋次。
「おい、バカ繋次!勝手にいくな…って…。
 ごめん、どっか見つかりやすいところに
 いようか。」
 (琴美さんと二人きり?!どうしよう。
 話題分からない。)
 繋次に大声で呼ぶものの、間に合わず
 どこかで休むことを提案する爽也。
「うん…見えない。そうね。
 これは待つしかないね。」
 (爽也くんと二人きりだ。これは浴衣褒めてもらう
 チャンス?って変なこと考えてる。)
 繋次の走っていく姿に圧倒されつつ、爽也に笑顔で
 答える琴美。
 (笑った、かわいい。)
 少し顔が赤くなる爽也。

 ~迷子の五花~

 (あれー?いないよー。いつのまにかはぐれた
 みたい。どうしよう。人いっぱいで、私身長
 高くないから見つけるのも難しいよ。)
 絶望な五花。
 なんとか人混みを抜けようとする。
「あっ…」
 小さなとっきにあたって転びそうになる。
「よっ、危ねぇ。」
 繋次が手を掴み、自然とひきよせる。
「繋次くん…ありがとう。
 良かった、見つかったー。」
 安心する五花。
「おぅ、赤の浴衣のおかげだな。悪りぃ。」
 笑顔で返し、距離が近いことに気づき離れる繋次。
 目線をそらす。
「ううん。」
 目線をそらして言う五花。

 ~待っている二人~

 ベンチがあったので、そこで休む爽也と琴美。
「ねぇ、爽也くん。私の浴衣似合ってる?」
 勇気を出して聞く琴美。
「…!?うん、似合ってるよ、綺麗だと…思う。」
 (いきなり。あれ、勢いでなんかすごいこと言った。
 はぁ、これ、好きってことなのか琴美さんの
 こと。)
 目を見開くが、素直に言い、その後照れる爽也。
「…ありがとう。」
 (えっ、思ったよりまっすぐ言うの…)
 意外性に照れて、目線が下に行く琴美。
 沈黙の時間が続く。
「…来ないな、繋次。さすがに心配になってきた。」
 心配になる爽也。
「五花ちゃん、私も心配になってきた。
 探しに行こう。」
 共感してさがしに行くことにした琴美。
「爽也ー!琴美さん。見つけたぞ。五花さん。」
 大声を出しながら、五花を前にあえて歩かせる
 繋次。
「琴美ちゃん!爽也くん。ごめんなさい、迷惑
 かけました。」
 かけよっていく五花。
「良かったー、無事で。今から探しに行こうか
 ってなってたのよ。一緒に戻ってきて良かった。」
 安堵する琴美。
「繋次、遅いぞ。でも無事で良かった。
 五花さんのこと見つけて走ったのか?」
 安堵しつつ、質問する爽也。
「うん?おぅ、赤い浴衣が見えたからな。
 そしたら本人だったぞ。運良かったぜ。」
 嬉しそうに語る繋次。
「繋次くん、走っていったのよ。五花の赤い浴衣
 でも見えたのかな?わかんないけど。」
 繋次のことを見ながら、五花に伝える琴美。
「えっ…たしかに赤い浴衣のおかげって言ってた。
 見つけてくれて嬉しかったなぁ。」
 驚いて、繋次のことをみる五花。その目は
 輝いていた。その後で微笑んで気持ちを言う。
「そうなんだ…なんかあった?私たちが見てない
 ところで~。」
 楽しそうに言う琴美。
「別にないよ。秘密。」
 いたずらっぽく笑う五花。
「そっかぁ、教えてくれないか。まぁいいけどさ。」
 嬉しそうにする五花に安心する琴美。
「爽也、なんかあったか?俺たちがいない間に。
 なんか顔赤いぞ。」
 変に察しが良い繋次。
「別にないよ。繋次こそなんかあったんじゃねぇの。」
 誤魔化しつつ、にっと笑って質問返しする爽也。
「ねぇよ、別に。」
 顔にでている繋次。
「そうかぁ?まぁいいけどさ。」
 あえて聞かないことにした爽也。

 ~花火~

「そろそろ花火始まるよ、五花ちゃんはそっちね。
 で、繋次くんはその隣!爽也くんは私の隣ね。」
 強制的に位置を決める琴美。
「ほぇ、うん。どうぞ、繋次くん。」
 素直に座り、左手で位置をしめす五花。
「おっ…おぅ。五花さん、失礼するぜ。」
 ぎこちなく座る繋次。
「ほらほら、来なよ、爽也くん。」
 手を地面に叩いて呼ぶ琴美。
「あっ、えっ…うん。」
 (なんで、繋次は疑いなく座ってんだ。
 座るしかないな。断るのも違う状況。)
 緊張しながら座る爽也。
「繋次くん楽しみだね、花火。」
 純粋に楽しみな五花。
「そうだな、楽しみだな。」
 歯を出して笑う繋次。
「…!うん。」
 (笑顔…ドキドキする)
 顔を少し赤くしながら、空を見上げて言う五花。
「五花さん、俺…」
 何かを言いかける繋次。
 ドーンドーンと花火が上がる。
「うん?繋次くん、花火綺麗だね。」
 (なんか言いかけてた?花火の音で聞こえなかっ
 たな)
 疑問には思いつつ、感想を言う五花。
「そうだな、綺麗だな花火。」
 (俺のバカ、チャンスだったろ。)
 内心泣きになりながら、共感する繋次。
 そこからは無言の時間が花火が終わるまで続いた。
「繋次、あれ告白しようとして失敗してるな。
 それは置いといて、花火綺麗だね、琴美さん。」
 (奥手なんだよな、繋次。
 僕はどうなんだろう、琴美さんのこと恋愛的に
 好きなんだろうか…。)
 繋次の様子を実況しつつ、花火の感想を言う爽也。
「そうなの、爽也くん。繋次くん意外と奥手なんだ。
 本当に…花火綺麗だねー。」
 (爽也くんは私のことどう思ってんだろう。
 私は恋してるけど…片思いなのかな。)
 繋次の意外な一面に驚きつつ、花火にみとれて
 いる。
 二人は微妙な距離感のまま花火をみている。

 ~帰り道~

「じゃあねー、登校日にまたー。」
 琴美が言う。
「今日は楽しかったよ、またね。」
 手を小さく振る五花。
「またな。」
 手を上げて言う繋次。
「またね。」
 手を振る爽也。
「あー、緊張したなぁ。男友達と出かけるの初めて
 だったから、いや前も喫茶店にいったか。
 いやでも、四人は初めてだよね。」
 ぐるぐるしている五花。
「私は初めてではないけど、なんか特別感あったな。」
 祭りを振り返り、少し寂しげな琴美。
「ほぉ、なんかあったの?琴美ちゃん。
 悩みがあるなら相談してね。」
 寂しげな様子が気になる五花。
「なんでもないよ、楽しかったー、夏祭り。」
 切り替える琴美。
「そうだね、楽しかった。」
 共感する五花。
 その一方で、男子たちは。
「繋次、五花さんに告白しようとしてたろ。」
 直球に聞く爽也。
「はぁ、なんでバレてんだ?できなかったけどな。
 花火がよ…。」
 花火に八つ当たりする繋次。
「……そうか、それはどんまいだな。
 繋次は普段豪快な割にこういう時は奥手なの
 意外だな。」
 (本当に告白しようとしてた…すごいな。
 花火のせいで最終的に失敗してはいるが。
 僕は気持ちもまだ分かり切ってないのに。)
 表ではからかうような言い草だが、繋次の勇気に
 素直に驚き、羨ましく思う爽也。
「仕方ないだろ、初恋なんだよ。
 恋ってなんなのか、よくわかんねぇしよ。」
 拗ねて言う繋次。
「初恋!?知らなかったわ、それは。
 応援してるから頑張れよ。」
 (柔道一本すぎたのか。)
 すごく驚く爽也。
「そんな驚かなくてもいいだろ。
 興味なかったし、そんな親しくなるような
 女子もいなかったからな。同級生どまりだ。
 頑張るぞ、爽也が応援してくれんなら、
 安心だな。」
 普通に答える繋次。
「何が安心だよ。繋次自身が告白できなきゃ
 意味ないんだからな。」
 ツッコむ爽也。
「わかってるぞ。」
 言い返す繋次。
 それぞれ帰って行った。

 ~夏の登校日~

 みんなわいわいな登校日。
 久しぶりに会うクラスメイト。
 カップルはいつのまにか増えている。
 そして、五花はなぜか気まずかった。
 (久しぶりに繋次くんに会う~、繋次くん普段は
 部活だから、なかなか会えないのもあるけど…
 夏祭りでの思い出がずっと頭に残ってるよー。)
 一人で考えながら歩いていく。
「爽也、おはよう。今日は何故か知らんが
 部活休みなんだ。遊ばないか?」
 理由は知らないが爽也と遊ぶチャンスだとばかり
 に言う繋次。
「繋次、おはよう。塾があるから無理だ。
 しかもテストだからな。わざと設定してるな。」
 塾の思惑にはまっていると考える爽也。
「残念だ、でも勉強は大事だからな。頑張れよ。
 おっ、おはよう五花さん。」
 爽也の応援した後、五花に気づいて挨拶する繋次。
「おはよう、五花さん。」
 続けて挨拶する爽也。
「……」
 聞こえていない五花。
 (俺、嫌われた?)
 ショックを受ける繋次。
「あれ、気づいてない?五花さん、五花さーん!」
 爽也が大声で呼ぶ。
「!?あっ、おはよう爽也くん、繋次くん。
 ごめんなさい、気づいてなかった。」
 ひどく驚いて、振り向き挨拶をして謝る五花。
「おはよう、五花さん。気にしなくていいぞ。
 考え事してたのか?」
 励まして、普通に話しかける繋次。
「えっ…いや…大したことは考えてないよ。
 気にしないでー。」
 顔を赤くして、教室に入っていく五花。
「おっ、繋次おはよう、なんか時田さんにした
 のかー。嫌われたな。」
「繋次、おはよう、もしかして好きなのかー。」
 柔道の部員たちが見て、冷やかしに来た。
「違げーよ、嫌われてねぇし。」
 内心は落ち込んでいる繋次。
「ほら、行くぞ繋次。」
 無理やり連れていく爽也。
「お、おぅ。」
 少し戸惑う繋次。

 ~教室~

「五花ちゃん、おはよう?どうした、顔赤いよ。」
 挨拶するまでは勢いよくして顔赤いことに驚く
 琴美。
「琴美ちゃん、おはよう。どうしよう、繋次くん
 から逃げちゃった。嫌われたかな。
 心配してくれたのに、答えずに教室に入って
 きちゃった。」
 後悔と恥ずかしさで必死な五花。
「落ち着いて、五花ちゃん。
 それは恋じゃない?繋次くんのこと意識
 しちゃって、考えちゃうんじゃない?」
 楽しそうに言う琴美。
「恋?これが…ハワワ~。でも、どうしよう。
 私、まともに繋次くんと話せる気がしないよ。」
 机につっぷす五花。
「あぇ、落ち着くまでしっかり考えて。」
 そういうしかなかった琴美。
「おっ?ちょっと挨拶してくるね。」
 繋次と爽也を見つけて席を外す琴美。
「おはよう、爽也くん、繋次くん…は
 明らかに落ち込んでるね。」
 (こっちはこっちで大変だ…)
 挨拶に来た琴美は繋次の様子に予想ついてた
 という反応をする。
「おはよう、琴美さん。そうなんだよ。
 繋次、五花さんが質問に答えてくれなくて
 嫌われたって、落ち込んでるんだよ。
 違うとはいってるんだけどさ。」
 困り果てている爽也。
「おはよう、琴美さん。俺、五花さんに嫌われた
 よな。なんか言ってたか、俺のこと。」
 気になる繋次。
「五花ちゃんは嫌ってないよ。
 むしろ逃げちゃったことに申し訳なく思ってる。
 でも、今は落ち着くまで待って欲しいな。」
 (これは変に嘘ついちゃいけないやつだな。)
 素直に明かす琴美。
「そうか、良かったぜ!分かった。
 今日、部活ないからよ。一緒に帰りてぇんだが、
 協力してくれないか?頼む!」
 懇願する繋次。
「うん、そんな頼まなくても一緒に帰るよ。
 五花に言っとくね。そろそろ先生来るから、
 戻るね。」
 少し戸惑うも冷静に答える琴美。
「五花ちゃん…まだ考えてたか。」
 状況が変わらない五花に戸惑う琴美。
「琴美ちゃん、どうしよう。」
 泣いてる五花。
「繋次くん、嫌われたと思って落ち込んでたよ。
 繋次くんは嫌ってないよ。ちゃんと話そう。
 帰り一緒にって約束したから、その時にね。
 五花、頑張ろう。」
 励ます琴美。
「ありがとう、頑張る。」
 感動な五花。

 ~下校の時間~

 みんなさっさと帰っていく。
「五花ちゃん行くよ、立って。」
 なかなか行く気になれない五花に奮い立たせる
 琴美。
「うん…立ちます。」
 (大丈夫かな、不安だよ。)
 なんとか立ちあがる五花。
「繋次、帰るんだろ。二人と。ちゃんと話して来い
 よ。僕は先に行くからな。バイバイ。」
 塾があるため、先に帰る爽也。
「じゃあな、爽也。」
 返す繋次。その後、教室を出て、下駄箱で二人を
 待った。
「おまたせ、繋次くん。帰ろう。」
 琴美が話しかける。
「おまたせ、繋次くん。」
 気まずそうに笑う五花。
「おぅ、帰ろうぜ。」
 気まずいとは思いつつ、なるべくいつも通りに
 接する繋次。
「……。」
 沈黙の時間が流れる。
 (話せ~、お願いだから。)
 きっかけは作るものの、自発的に話して欲しい
 琴美。
「繋次くん、あの…朝逃げちゃってごめんなさい。
 嫌いになったんじゃなくて、気恥ずかしくなった
 の。繋次くんと話すの楽しいです。」
 声が震えながらも頭を下げて謝る五花。
「おぉ、そんな頭下げるなよ。嫌われてないなら
 良いんだ。安心したぜ。」
 ほっとする繋次。
「良かった、誤解解けたみたいで。」
 安心する琴美。
「私、先に帰るねー。」
 走っていく琴美。
「またねー。」
 (あれ、これ、繋次くんと二人きり?)
 五花は素直に言う。
「またな。」
 (あっ、五花さんと二人きりだな。)
 素直に言う繋次。
 後から気づく二人。
「ちょっと、琴美ちゃーん、いない。」
 (これ、わざとだ。琴美ちゃんのおせっかいが発動
 しているよ。)
 慌てたところで遅かった五花。
「五花さん、二人で帰ろうぜ。」
 (よし、より仲を深めるチャンスだ。)
 少し恥ずかしそうにしながらも言う繋次。
「うん、急いでないからね。」
 (ドキドキが止まらないよー。)
 理由をつけないといられなかった五花。
「暑いな、おっ駄菓子屋でアイス買おうぜ!」
 純粋な食欲には勝てない繋次。
「えっ、うん、待ってー。」
 ついていく五花。
「これ、食べるか?」
 アイス食べながら、棒アイスを渡す繋次。
「うん、食べる。」
 素直にもらい、ペロペロなめる五花。
「あれ、二本目?いっぱい食べるね。」
 ゆっくり食べていてふと繋次の方を見ると
 別のアイスを食べていたのに驚いて言う五花。
「おぅ、暑いからな。そうだ、水族館行かないか。
 来週の水曜日休みなんだ。」
 思いつきと勢いで誘う繋次。
「うん、いいよ。これは二人でってことかな?
 琴美ちゃんと爽也くんも一緒かな?」
 (これはどういう意味なんだろう。冷静に人数
 気になっちゃった。)
 思わず正直に人数を聞く五花。
「二人で決まって…んだろ。変な意味じゃない
 からな。仲良くなりたいだけだからな。」
 (大変だ、これ完全にデートじゃねぇか。
 仲良くなりたいからな、嘘はついてねぇ。)
 嘘はついてないが、動揺がすごい繋次。
「…!うん、二人ね…分かった。
 もうすぐ家だから、じゃあね。」
 顔を赤くして、手を振って少し早口で言う五花。
「おぅ、じゃあな。」
 顔を赤くして手を振りかえす繋次。

 ~二人を置いて帰る琴美のその後~

「二人きりできたな、これはどうなるかな。
 後で五花に聞こう。」
 その後の展開が気になる琴美。
「あれ、ここ爽也くんの通ってる塾だ。
 うふふ、待ってようかな。予定もないし。」
 どんな反応するか想像しながら待っていることに
 した琴美。
 お昼頃、爽也が外にでてきた。
 (テスト一応解けたな。でもあの問題こうした方が
 …いやあの問題も…ミスがないか心配。
 結果は待つしかないんだけど、悪い癖だな。)
 テストの振り返りをする爽也。
 ふと辺りを見渡して、知ってる姿を見つける。
「うん?琴美さん?なんで!?」
 すごく驚く爽也。
「おっ、爽也くん。塾終わったんだ。
 一緒に帰ろう。」
 にんまりと笑って言う琴美。
「うん、それは良いんだけどなんでここにいたの?」
 (僕を待っててくれたのか、嬉しいけど、そんなの
 言えないし。)
 少し視線をそらしながら、言う爽也。
「うん?いやぁ、塾を見つけたから待ってたら
 来るかなぁってね。先に帰ったみたいだった
 から。それに繋次くんと五花ちゃんの二人は
 誤解を解いた後、帰ってもらったからさ。
 一人で帰るのもつまんないなって思って。」
 嬉しそうに言う琴美。
「そうなんだ、納得した。」
 (完全に待ってた。嬉しすぎる。)
 少し笑って素直に納得する爽也。
「ねぇ、来週あたりにさ一緒に映画館でも行かない?
 観たい映画あるんだ。ホラーなんだけど、
 五花ちゃんは苦手だから誘えないんだよね。」
 ただ爽也くんと二人で出掛けてみたい琴美。
「あぁ、いいよ。ホラーか。苦手ではないからな。
 繋次は大の苦手だから一人で観に行くことは
 あるよ。」
 強者な爽也。
「…!デートだね、じゃ、この辺でバイバイ。」
 (いいよって嬉しいー。)
 顔を少し赤くして、からかうようにデートと
 わざと言う琴美。
「…!バイバイ。」
 (そうだ、これ…あっさりいいよって言ったけど…
 デートだ。このお誘い。)
 顔が真っ赤になって手を小さく振るので限界な
 爽也。

 繋次と五花、爽也と琴美のデートはどうなる…

 















































































































































































 























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