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―― Chapter:Ⅱ ――
【013】主治医
しおりを挟む木曜日、佳音は病院へと訪れた。
相変わらず家族にも学校でも無視をされているから、一人で、事故で搬送された病院へとやってきた。何故なのか、病院には絶対にいかなければならないと、そう頭の中の予定表にある。
佳音の主治医は、江崎瞳先生という男性の医師だ。近隣にある江崎寺と同じ苗字で、そこの次男だと佳音は知っている。この界隈の家々は、大体が江崎寺の檀家だ。
「江崎先生!」
どうやら休息時間らしく、自動販売機の前のソファに座っている江崎を、佳音は見つけた。他にひと気は無い。すると江崎が銀縁のフレームの奥から、ゆっくりと佳音に視線を流した。
「……」
「先生?」
まさか医師にまで無視されるのだろうかと、佳音は怯えた。だが、江崎は軽く頭を振ると、改めて佳音を見た。
「調子はどう?」
「あっ、はい。どこも痛くないですし」
「ふぅん。体感ではそうなんだね」
「え? 私まだ、どこか悪いんでしょうか?」
「外傷は治癒しているし、脳の検査でも異常は無いから、その感覚は正確だと思うけどね」
淡々と述べた江崎は、捲っていた袖を元に戻すと、静かに立ち上がった。
「早く家に帰った方がいい」
「診察がまだです!」
「ああ、それもそうだねぇ」
飄々としている理知的な江崎であるが、もしかしたら時々天然ぼけが入るのだろうかと、佳音は考えた。飲み終わった珈琲の入っていた紙コップを捨てた江崎は、そのまま歩きはじめる。佳音は、暫しその場で、江崎の姿を見送っていた。
それからハッとして、慌ててついていくと、江崎が診察室に入った。扉の前にいると、『七花さん』と、中から江崎の声が聞こえてきたので、静かに診察室へと入る。
椅子に座り、横のパソコンでは電子カルテを表示している江崎が、改めて佳音を一瞥した。
「なにか変わった事はある?」
「えっ、と……」
それは無視をされていることだが、肉体的な外傷に関する事柄ではない。
「ありません」
「そう。だったらやっぱり、早く帰りな」
「三分診療にもほどがありませんか?」
「俺は忙しいんだよ。君一人の相手をしている暇はない。君はあとは、帰るだけだ」
「……はい」
取り尽くし間もない様子の江崎に頷き、おずおずと佳音は立ち上がった。
「失礼します」
そして一礼して、病室を後にした。
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