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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――
【015】縁切り地蔵
しおりを挟む土曜日が訪れた。
昨夜のうちに和成は説明しておいたので、待ち合わせの午後二時につくように、二人で家を出た。
「しっかし、縁切り地蔵か」
「お兄ちゃんは行ったことあるの?」
「んー、行かないかって言われたことがある。ことわったけどな」
「どういうこと?」
スミレが首をかしげると、和成がうでを組む。
「あそこは、地蔵のまわりにハサミをぶらさげるところがあって、縁結びをしたいときは、ハサミにお互いの名前を書いて糸でぐるぐる巻きにしてぶらさげるんだ。そいつは俺と縁結びをしたいって話だった。本人が名前を書くと力が強くなるとかで」
つらつらと語った和成を見て、スミレは半眼になった。
「それってもしかして、お兄ちゃんに告白しただれか?」
「まぁ、そうだな。だれだったっけな」
「わすれるのひどくない?」
「そうか? いつまでも『あいつは俺に告白してきた』とかっておぼえてる方がひどくないか?」
「そ、それは……」
ふくざつだなと思いつつ、二人で縁切り地蔵がある広場の入り口につくと、すでに龍樹が来ていた。
「アラームをセットしなきゃ」
スミレがスマホを取り出す。現在は二時五分なので、三時五分にセットした。
ちなみにスマホを入れてきたカバンには、きかいがあったらと思って、油性のマジックとハサミ、糸も入れてきた。
「行こう」
龍樹の声に二人がうなずく。
こうして広場に入り、まずは縁切り地蔵を見ることにした。そちらまで歩くにつれ、空気がおもおもしくかわっていく。今日は晴れていて、広場の入り口から外はまだまだ暑かったというのに、広場の中は冬のように寒い。広場はそんなに大きくはなくて、縁切り地蔵の前に立てば、全体が見わたせる大きさだ。
「これが縁切り地蔵か」
龍樹が言ったのでとなりに並びながら、スミレも見る。
中央に毛糸のぼうしをかぶったお地蔵様があり、それがある地蔵堂は開放されていて、内部にはたくさんのハサミがある。糸でぐるぐる巻き、あるいは、糸を切るよう片側だけに巻き付けられて、カベから下がっていたり、お地蔵さんの下に並べられている毛糸製の布や人魚につきたてられている。それらのハサミには、油性のマジックで名前が書かれている。
「あ」
思わずスミレは声を上げた。そこに、『天月和成』『天月スミレ』と書かれたハサミを見つけたからだ。縁が切れる形に糸が巻かれている。
「な、なにこれ」
「ん?」
和成がスミレのしせんを追いかける。そしたいやそうな顔をした。
「だれだよこんなのつり下げたのは。大体書く相手を間違えてるだろ。『菅原龍樹』『天月スミレ』にしておけばいいのに」
それを聞くと、龍樹がせきばらいをした。
「とりあえずそのハサミは撤去すればいいんじゃ?」
「まぁ、そうだな。一応な」
和成がハサミを手に取ると、糸をほどいてからポケットにしまった。
「それより早く人形を探さないと!」
気を取り直してスミレが言う。
「広場のどこかにあるはずだ。探そう」
「おう、じゃあ俺は右側から探す。龍樹とスミレは左側から探せ」
こうして人形探しが始まった。
スミレは龍樹とともに、左側の花だんやベンチの下、しげみなどを見て回る。ゴミ箱の中まで見たが、なにもない。すると広場の中央で和成と顔を合わせることになった。
「あったか?」
「ありません」
龍樹が答えると、和成がうなった。
「あと探してないのは……」
スミレはつぶやいて、何気なく縁切り地蔵へとふり返った。すると龍樹がはっとした顔をした。
「地蔵の周囲に、人形があった。昔からあったのかと思っていたが、灯台もと暗しだったのかもしれない。あそこにあった人形がもしかしたら?」
それを聞くと、和成も目を見開く。
スミレはうなずいて、縁切り地蔵の方へと足早に向かう。
「だけど、どの人形だろう……」
毛糸で出来た人形の数は、およそ三十はあった。スミレがこんわくしながら人形を見ていると、その左右に龍樹と和成がならぶ。
「龍樹。お前はなにかが見えるんだろう? 具体的にはなにが見えるんだ?」
「っ、俺は、ぞくにいうあやかしといった強い怪異や、邪気が見えます。和成先輩は?」
「俺はもっと低俗だ。人の霊の良い悪いは別として、うらみやかなしみ、すごい喜び――まぁそういった感情が見える。生き霊は見えない。でもな、あまりかかわりすぎると、一時間なんて時間がたたなくたって具合が悪くなる」
和成はそう言うと、じっと龍樹を見た。
「もしそうなったら、お前がきちんとスミレを神社まで連れて行けるか? 連れて行くと言うんなら、俺は人形にさわる」
「約束します」
龍樹がうなずく。だがそれを聞いていたスミレが目を見開いた。
「待って? そうしたら、お兄ちゃんはどうなるの!?」
「ここが心霊スポットじゃなくなれば、さわったあと少しすれば具合もよくなるから俺は一人でもどれる」
「だけどそんなの……」
不安げにスミレがつぶやくと、和成がニッと笑った。
「安心しろ。俺がそうそうやられるわけがないだろ。お兄様を信じなさい」
そう言うと、和成が一体目の人形にふれた。二体目、三体目、と、和成がふれていく。そして十五体目にふれた時だった。
「なぁ、スミレ? 俺の話を信じたか?」
「え? うん」
「気持ち、やっぱ悪いだろ? 幽霊が見えて、その感情がわかるなんていうのは」
「なに言ってるの? お兄ちゃんが気持ち悪いわけないじゃない」
「でもこわいだろ?」
「こわくなんかないよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」
スミレがそう言うと、人形からスミレへと顔を向けて、和成がやさしく笑った。
「これだ」
こうして十八体目にふれたとき、和成が言って、スミレに人形を差し出した。毛糸で編まれた小さな人形だ。そこにもハサミがささっている。
「っく」
するとその場で和成がうずくまった。
「龍樹、早く連れて行け」
「……はい」
「待って!」
スミレはそこで、はっとしてカバンからハサミとマジックを取り出した。
そして『悪霊のついた人形』『天月和成』と書いて、糸を片側の刃に巻き、切るように動かす。
「っ、あ」
すると和成が大きく息をはいた。スミレは、縁切り地蔵のカベにそれを立てかける。
「どう!? 効果はある!?」
「あ、ああ。体が急にらくになった」
「そうか、霊の感情とのリンクが切れたから、和成先輩は邪気から解放されたのか。元々この縁切り地蔵自体は、悪いものではないからな」
龍樹はそう言うと、うで時計を見た。
「時間が無い。早く出よう」
そうつげて龍樹が、和成の体を支える。こうして三人で広場から外に出てすぐ、アラームがピピピと音を立てたのだった。
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