ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒

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「っ……」

 ズキリと頭が痛む。なんだろうかと手を当てながら上半身を起こすと、包帯の感触がした。それは、分かる。視線を右手の窓に向け、続いて正面、それから椅子の方を見ると、険しい顔をしているブレザー姿の人がいた。右腕には、『風紀』と書かれた腕章をつけている。

「やっと目が覚めたのか。全く……弁えて行動しないからこうなるんだ。よりにもよって風景写真を撮ろうとして木から落ちるとは何事だ? 別の位置があっただろう」

 厳しい声が飛んでくる。
 俺を睨み付けている相手。だが――俺には、なんの事なのかさっぱり分からない。

「えっと……」
「周藤、とりあえずナースコールを押すから、大人しくしていろ」

 その人は、立ち上がると俺の頭のそばにあったコールに手をかける。

「……誰?」

 ぽつりと、俺は気づくと聞いていた。すると怪訝そうに俺を見たその人は、眉間に皺を刻む。

「記憶喪失ごっこでもする気か? この状況で。どれだけ不謹慎なんだお前は」
「え……」

 その単語を耳にした時、俺は目を見開いた。
 俺は、ええと、誰だ? 名前が思い出せない。目の前の相手は愚か、自分の名前が分からない。ビービービーとナースコールの音が響くのを、俺は呆然と聞いていた。

「よかった、目が覚めたのか」

 入ってきたのは白衣の人物で、首から保健医というカードを下げている。

「痛みはどうだい?」
「あの……俺は……」
「うん?」
「ええと……えっと」

 気づくと俺は、無理に笑っていた。同様と混乱から、自分を落ち着けようとするかのように。でも自分でも顔が引きつり、口元が歪んでしまったのが分かる。

「ゆっくり話してごらん? どうかしたのかい?」

 安心させるような保健医の先生の声に、俺は俯いた。

「あの……ここは何処で、俺は……その……」

 ありきたりな台詞だっただろう、記憶喪失と聞いた時、俺はこういう言葉を放つ人間の小説をどこかで読んだことがあった。けれど我が身に起きてみれば、他に言葉も出ては来ない。保健医の先生はハッとした顔をした。

「私のことは、分かるかい?」
「……すみません」
「自分の名前は?」
「……」
「では、こちらの彼は?」

 保健医の先生が、険しい顔の生徒を示した。そちらを見ると、相手は虚を突かれたように、目を丸くしている。

「……誰だ?」
「なっ、冗談は――」
「風紀委員長、落下による衝撃で、健忘を起こしている可能性がある。珍しい事じゃない。一過性の場合が多いけれど、もう一度頭部を検査しなければ。周藤くんは、記憶喪失の可能性が非常に高いよ」

 険しくなった保健医の先生の声。
 その声に、風紀委員長と呼ばれた彼は、暫しの間、驚愕したように俺を見ていた。



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