桜の木の下でイケメンとモブは何をするか。

本編

20.

　春のうららかな陽気が窓から差し込み、私に眠気を誘う。
　気持ち良い日差しに、窓から見える瑞々しい光景。
　映り込んでいるそれは、まだ大人になりきれない少年少女達が、明るい未来に、楽しい高校生活に想いを馳せていることが一列空けて観察できる。
　
　ふっ、鼻からこぼれ落ちたものの矛先は誰に対するものなのか。

　周りの声が、動きが一枚越しに見える。
　少しでも角度を変えると、校庭にある桜の木が何度も風にそよそよと優しく揺らされては落とされていくのが見える。

　屍体が埋まっているその場所に目を向ける。　
　視力2の私が目を凝らしてもその実どうなっているのかは分からない。ただ私は、それを見て安心して美しいと叫べるあの人が、羨ましいと思っていることは分かる。








　自己紹介も全員終わり、先生は明日の予定と注意事項を話し、ホームルームは終わった。

　今日はこの後、帰宅してもいいし、部活見学など自由にしていいそうだ。
　他の学年もこの時間で終わることも聞いた。部活動勧誘をする絶好のチャンスであると皆んな考えるようで、だんだんと廊下が騒がしくなってきた。これが毎年の恒例行事であることは想像に難くない。

　先程あった先輩のことを思い出し、部活に行くことは憚られた。
　帰宅しようかどうか悩んでいるところまだ教室にいた先生に呼ばれる。
　多分遅れたことにだろうと当たりをつけて側へ行く。
　先生は、私が体調不良で保健室に行っていたと聞いていたようで心配する素振りと軽い挨拶をしただけですぐに別れた。

　これから担任としてよろしくお願いします、と言う先生は好感が持てそうだ。ちなみに名前は、金沢　真矢。40代くらいで、薬指に指輪をはめていることから既婚者。柔和そうな雰囲気を纏い、真摯に生徒に接する様は俗にいう良い先生だ。第一印象がこんなに高いのはさすがAクラスの担任と言うべきか。

　後ろのロッカーからカメラを取り出し、チラリと見てから教室を出た。

　首からカメラを下げ、廊下を歩きだす。先程、りんから用事があるから一緒に居られないことを伝えられた。

　先輩という懸念事項がいることは変わらないが、美術部に入る気がある以上、いつまでも行かないわけにはいかない。それに先輩がいるとは限らないし。

　ひっきりなしの勧誘の手を潜り抜けて、部室に足を進める。
　離れの校舎への道は、本校舎と全面ガラス張りの通路でつながっている。
　これだと雨の日も濡れなくて済むなと、上を見上げた。
　空は澄み切っていて、雨は降りそうにない。
　右手で眉に触れる。