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(……そうだ。おれが住んでいたところ、まだあいてるかな。後で調べてみよう)

 アパートの横に溶接された階段を、錆びついた鉄板を一段一段登りながら、今後のことを考える。

 甘えられる時間は終わった。
 夢はもう終わったのだ。
 これからは、現実をしっかり見て、生きていかなければ。

「ちょい汚いけど、勘弁な」

 階段を上ってすぐ右にある部屋の鍵を開けながら、前原が断りをいれる。

 別にいい。
 
 そう言おうとしたが、中を見た璃空は押し黙った。現実とはかくも汚いものか。璃空はいきなり現実を否定したくなった。

 入ってすぐにある、玄関と合わせて2畳の台所の流しには、何日分か分からないほどの洗い物があり、片手鍋には食べ物とは思えない何かが入っている。

 奥にある6畳の和室は、ほとんどがごみのようなもので埋め尽くされていた。

 微かに覗く白いものは、布団だろうか。

「……眩暈が」

 右手で顔を覆う璃空。心外だとばかりに前原が胸の前で腕を組んだ。

「言っとくけどな。男の一人暮らしなんて、これが普通だからな」

 果たしてそうだろうか。

 少なくとも自分一人で住んでいた時は、こうではなかった。それとも家事をしたことがない男にとって、はじめての一人暮らしは、前原が言う通りにこれが一般的なのだろうか。

 でも、優斗は。

 自分の考えに、ハッとする。優斗と比べてどうする。思ってどうする。今、自分がすべきことを見据えろ。

「……前原」

 靴を脱ごうとする前原の背に声をかけた。

「んー?」

「1時間。外で暇を潰してこい」

「へ?」

「部屋を片付ける」

「えーやだよ。腹減った」

 ごねる前原の眼前に、璃空は百円玉を差し出した。

「これでパンでも買って、空腹を紛らわせていろ。――いいな」


 妙に迫力のある声と表情に、前原は「はい」と小さく頷いた。

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