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番外編③
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「可愛い? 誰が?」
「いや、中身はドン引きだけど。顔は可愛いよ」
優斗は眉を寄せ「どこが」と心底不思議そうに口調を強める。
「……あの、おれに気を使わなくていいよ。そんなことで怒ったりしないから」
「ごめん。本当に分からないんだ。俺は璃空以外に、可愛いと思えたことがないから」
真剣な眼差しに、璃空が「……えと」と戸惑う。本気かどうか。璃空には判断しかねた。
「とにかく。俺にとってあの人は、何を考えているか分からない恐怖の対象でしかなかった。だから結婚するって聞いた時は焦ったよ。あんな人が親族になるのかってね。でも、結婚してすぐ兄さんと一緒にアメリカに行くことになって、ほっとしたんだ。一生帰ってこなくていいのにって思ってたけど……無理だったみたいだね」
はあ。
大きくため息をつく優斗。
「実家にも帰りづらくなったおかげで母さんへの言い訳も毎回大変だし」
璃空が首を傾げる。
「何で実家に帰りづらくなったの?」
「それがね。たまに予告もなく、日本に帰ってきてたりするんだよ。万が一にも実家で鉢合わせたら最悪だから、自然と足が遠のいて。親にこんな経緯を話すわけにもいかないし、信じてくれるかどうかも怪しかったし……ずっと黙っていてごめんね」
なんだ。
理由を知り、璃空は安心した。あれやこれやとマイナス方向に考えていたのが馬鹿みたいだ。
「璃空は、信じてくれる?」
優斗が視線を向ける。珍しくも不安気な表情に、璃空は「うん。信じる」と笑って見せた。
ありがとう。
優斗がほっと息をつく。
「でもあと少しだけ、質問いい?」
「もちろん。何でも」
璃空はずいっと顔を近付け「どうしてあの人を部屋に上げたの? 何で服、脱いでたの? 何でキスしてたの?」との、怒涛の質問をしてきた。
最初こそ驚いたものの、優斗は逆に安心していた。全ての経緯を丁寧に説明し終えた優斗は「他に聞きたいことある?」と問いた。
璃空は「それじゃあね」と口火を切った。
「優斗は彼女ができても、早くてひと月。長くても半年でフってたって聞いたけど」
「……誰に」
「佳菜子さん」
優斗は胸中で舌打ちする。本当にあの人は、余計なことしかしない。
「今まで、何人の女の人と付き合ったことあるの?」
優斗は「……その前に。俺がどうして好きでもない子と付き合うようになったか、聞いてほしいんだけど。いいかな」と、顔を両手で覆った。
「ふん?」
「俺は高校まで、誰かと付き合ったことは一度もなかった。興味がなかったんだ。でもあの人とのことがあって、早く好きな子を作らないといけないって焦るようになって……告白してくれた子と、とりあえず付き合うようになったんだ。好きになれる子を探すために」
璃空は、黙って優斗を見詰めている。
「でも無理だった。結局、心は動かなくて……思えば、あの人はそれを見透かしていたのかな」
優斗はすまなそうに「ごめん。言い訳ばっかりだね。ええと、何人と付き合ったかだけど」と璃空に視線を向ける。すると、璃空はがばっと両手を上げた。何かを振り払うように。
「もういいや。この話しは終わり!」
優斗が目を見張る。
「いいの?」
「いい。優斗を信じる。あんな女の人の言うこと信じてごめん」
話してくれてありがとう。
璃空が笑ったので、優斗は心底ほっとした。
「良かった。──じゃあ。一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「? うん」
優斗は璃空の耳にそっと触れた。
「キスしていい? もう、限界なんだけど」
優斗の熱を帯びた双眸は、真剣だった。
璃空は高鳴る鼓動を自覚しながら「いいよ」と応えた。
「いや、中身はドン引きだけど。顔は可愛いよ」
優斗は眉を寄せ「どこが」と心底不思議そうに口調を強める。
「……あの、おれに気を使わなくていいよ。そんなことで怒ったりしないから」
「ごめん。本当に分からないんだ。俺は璃空以外に、可愛いと思えたことがないから」
真剣な眼差しに、璃空が「……えと」と戸惑う。本気かどうか。璃空には判断しかねた。
「とにかく。俺にとってあの人は、何を考えているか分からない恐怖の対象でしかなかった。だから結婚するって聞いた時は焦ったよ。あんな人が親族になるのかってね。でも、結婚してすぐ兄さんと一緒にアメリカに行くことになって、ほっとしたんだ。一生帰ってこなくていいのにって思ってたけど……無理だったみたいだね」
はあ。
大きくため息をつく優斗。
「実家にも帰りづらくなったおかげで母さんへの言い訳も毎回大変だし」
璃空が首を傾げる。
「何で実家に帰りづらくなったの?」
「それがね。たまに予告もなく、日本に帰ってきてたりするんだよ。万が一にも実家で鉢合わせたら最悪だから、自然と足が遠のいて。親にこんな経緯を話すわけにもいかないし、信じてくれるかどうかも怪しかったし……ずっと黙っていてごめんね」
なんだ。
理由を知り、璃空は安心した。あれやこれやとマイナス方向に考えていたのが馬鹿みたいだ。
「璃空は、信じてくれる?」
優斗が視線を向ける。珍しくも不安気な表情に、璃空は「うん。信じる」と笑って見せた。
ありがとう。
優斗がほっと息をつく。
「でもあと少しだけ、質問いい?」
「もちろん。何でも」
璃空はずいっと顔を近付け「どうしてあの人を部屋に上げたの? 何で服、脱いでたの? 何でキスしてたの?」との、怒涛の質問をしてきた。
最初こそ驚いたものの、優斗は逆に安心していた。全ての経緯を丁寧に説明し終えた優斗は「他に聞きたいことある?」と問いた。
璃空は「それじゃあね」と口火を切った。
「優斗は彼女ができても、早くてひと月。長くても半年でフってたって聞いたけど」
「……誰に」
「佳菜子さん」
優斗は胸中で舌打ちする。本当にあの人は、余計なことしかしない。
「今まで、何人の女の人と付き合ったことあるの?」
優斗は「……その前に。俺がどうして好きでもない子と付き合うようになったか、聞いてほしいんだけど。いいかな」と、顔を両手で覆った。
「ふん?」
「俺は高校まで、誰かと付き合ったことは一度もなかった。興味がなかったんだ。でもあの人とのことがあって、早く好きな子を作らないといけないって焦るようになって……告白してくれた子と、とりあえず付き合うようになったんだ。好きになれる子を探すために」
璃空は、黙って優斗を見詰めている。
「でも無理だった。結局、心は動かなくて……思えば、あの人はそれを見透かしていたのかな」
優斗はすまなそうに「ごめん。言い訳ばっかりだね。ええと、何人と付き合ったかだけど」と璃空に視線を向ける。すると、璃空はがばっと両手を上げた。何かを振り払うように。
「もういいや。この話しは終わり!」
優斗が目を見張る。
「いいの?」
「いい。優斗を信じる。あんな女の人の言うこと信じてごめん」
話してくれてありがとう。
璃空が笑ったので、優斗は心底ほっとした。
「良かった。──じゃあ。一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「? うん」
優斗は璃空の耳にそっと触れた。
「キスしていい? もう、限界なんだけど」
優斗の熱を帯びた双眸は、真剣だった。
璃空は高鳴る鼓動を自覚しながら「いいよ」と応えた。
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