うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

文字の大きさ
11 / 45
第一章

11

しおりを挟む
 十二月下旬。

 冬晴れの、染み渡った空。明日から冬休みに入るとあって、教室がいつもより明るい雰囲気に包まれている。

「多比良も抱き納めかあ」

 毎度お馴染みのように、男友達に後ろから抱き付かれながら彰太が帰り支度をしている。

「来年は彼女出来るといいね」

「多比良。それを言ってくれるなよ。彼女なんてのはな、つくろうと思って出来るもんじゃねーんだから」

 うんうん。
 男友達が全員頷く。その少し離れたところでは、白沢と葉山が女子に囲まれていた。「明日から会えなくなるの寂しいよお」「校門まででいいから、一緒に帰っていい?」などの声が次々に聴こえてくる。

「おーおー、相も変わらずモテモテで」

「あれは諦めろ。別格過ぎる」

 そんな中、白沢は「ごめんね。俺、寄るところがあるから」と教室を出ていくのが見えた。今日は終業式のみで、昼休みもなく、白沢と二人になれる時間がなかった彰太は、内心がっくりと肩を落としていた。

 明日からしばらく会えない。会えない間に白沢の気が代わって、もう二度とバグしてもらえないかもしれないのに。

「多比良。帰ろーぜ」

「……んー」

 部活のない男友達二人と並び、下駄箱までたどり着いたとき、ズボンのポケットに入れてあるスマホがバイブに揺れた。もしやと思い、素早く確認する。彰太はラインの内容にざっと目を通すなり、目を輝かせた。

「──おれ、忘れ物した!」

 あまりに突然で、大きな声だったので、男友達はびくっと身体を揺らした。

「お、おお。待ってるから、早く取ってこいよ」

「大丈夫。時間かかるかもしれないから、先帰ってて!」

 時間がかかる忘れ物って何だ。
 二人は首をひねったが、彰太は構うことなく校舎内へと戻っていった。


「白沢!」

 屋上へと続く階段をのぼりきったところに座る白沢を見つけ、彰太は駆けた。屋上には鍵がかかっていて入れず、さらにその手前の空間は荷物おきとして使用されているが、少しのスペースが空いている。二人はもう何度も、ここで待ち合わせしたことがある。

「多比良」

 白沢が一つの机に腰掛け、両腕を広げる。彰太の顔がぱああっと輝き、吸い寄せられるように腕の中におさまる。溶けてしまいそうなこの幸福感は、何度味わっても薄れることがない。

(……いい匂い。体温もあったかくて、気持ちいい)

 うっとりと幸福に酔いしれ、白沢の胸に頬を擦り付ける。

「今日はもう諦めてたから嬉しい」

 声に出てた。白沢が「うん。俺も」と答えてくれる。最近、これは本当の白沢の気持ちなのではないかと思うようになってきた。自惚れでも何でも、そう思っていた方が幸せだから。

 しばらくそうしていたが、白沢が「最近、さ」とぽつりと話しはじめた。

「誰かが多比良に触れるのが、嫌なんだ。これって嫉妬かな」

 彰太は白沢に悟られないように動揺を隠しながら「ああ」と笑った。

「友達でもね、そういうのあるらしいよ。でも、なんか嬉しいな。白沢が嫉妬してくれるなんて」

 そうなのかな。
 白沢が納得出来ていないように呟く。最近の白沢は心臓に悪いと思いながら、彰太は少しして「あの。一つ、お願いがあるんだけど」と顔を上げた。

「ん?」

「白沢の写真、撮っていい?」

「写真?」

「うん。明日からしばらく白沢に会えなくて寂しいから、白沢の写真が欲しいんだ。もちろん、誰にも見せたりしない。ネットにも絶対あげたりしないから」

 平静を装いながら、内心はバクバクだった。何処までなら引かれないのか。許されるのか。その境界線がよくわからなかったから。

「何だ、そんなこと。もちろんいいよ」

 白沢が何でもないことのように答え、彰太の顔色が安堵と喜びとで明るくなる。

 彰太はいそいそとポケットからスマホを取り出し「じゃあ、そのままで」と興奮し、後退りしながら距離をとっていく。

「あれ? 一緒に写らないの?」

「うん。白沢一人の写真が欲しかったんだ」

 とるよ。
 言葉のすぐあとに、小さなシャッター音が響いた。さすがに撮られ慣れている白沢は、笑顔も視線も完璧だった。でも。

 ──これは、おれだけの白沢だ。

 スマホを嬉しそうにぎゅっと胸に抱く。その様子を見ていた白沢が、そっと彰太に手を伸ばす。そこで、着信音があたりに響いた。白沢は慌てて電話に出た。

「はい、白沢です──え? ……わかりました。すぐに向かいます。はい」

 通話を切った白沢に、彰太が「仕事?」と尋ねた。白沢が気まずそうに頷く。

「うん。撮影の入りが急に、一時間早まったらしくて」

「そうなんだ。大変だね」

 おれは後から帰るから。
 彰太がにこやかに手をふる。白沢は後ろ髪を引かれる思いを残しながらも「それじゃあ、また」と階段をおりていった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...