うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

文字の大きさ
12 / 45
第一章

12

しおりを挟む
 年が明けた、元旦。
 高くて青い寒空が広がっている。

 自宅から歩いていける距離にある神社に両親と初詣に行った帰りの彰太は、白沢からのラインに気付いたとたん、嬉しさに震えた。

「お母さん。友達のとこ行ってくる!」

 やけに嬉しそうな彰太に「お夕飯までには帰ってくるのよ」と母が微笑む。父はその後ろで「……親より友達か。琉太も彼女のとこ行っちゃうし」とぶつぶつ言っていたが、彰太はまるで気付かず、背を向けて走っていってしまった。


「白沢!」

 駅前にいた白沢が軽く手を上げる。数日ぶりの白沢に、彰太は顔がにやけるのを止められなかった。

「明けましておめでとう、多比良」

 荒くなった息を整えつつ「おめでとう。元旦に会えるなんて思ってなかった」と彰太は満面の笑顔だ。白沢も何だが嬉しくなった。

「ごめんね。急に。何か予定とかあったんじゃない?」

「ううん。ちょうど、親と近くにある神社に初詣に行った帰りだったから」

 そう。
 白沢が笑う。まわりにいる女子たちが白沢を見ながら赤い顔をして騒いでいる。彰太は何だか、自慢したくて仕方がなかった。

(白沢は、わざわざおれに会いに来てくれたんだよ)

 女のみんなのためじゃなくて、男のおれに。

「学校に用事でもあったの? それとも仕事?」

 この駅は学校の最寄り駅だ。白沢が何処に住んでいるのかは知らないが、電車通学ということだけは知っている。

「ううん。多比良に会いたくて」

 ──またそういう期待を持たせるようなことを、ぺらっと言う。
 
 彰太は顔を赤くしながらも舞い上がりそうになる心をぐっと静め「ふうん」と何でもないふりをした。白沢は分かりやすすぎる彰太に、口元に手を当て、笑いを堪えた。そして──確信した。

「多比良。このあと時間ある?」

 彰太が「あ、あるよ!」と意気込む。白沢が「ちょっと付き合ってほしいところがあるんだ」と口元を緩める。

「何処に行くの?」

 そうだな。
 白沢はしばらく悩む素振りを見せたあと「人目のつかないところ」と笑った。


「──ここなら大丈夫かな」

 住宅街から少し外れた場所にある、ブランコとシーソーしかない小さな公園。回りは鬱蒼と繁った草、木々に囲まれており、忘れられた公園といった感じのところだった。

 何だろう。やっぱり、ああいうことはもう止めたい。そういう話しかな。それならラインでもすれば済むことなのに。

 ──律儀だな、白沢は。

 思わず、笑みがこぼれた。嫌う要素がなくて、ホントに困る。どんどん好きになっていってしまう。でも、怖くはなかった。だって、はじめから何も期待してないから。

「多比良」

 白沢は公園の回りにある大木の下で止まった。振り返り、両腕を広げる。彰太は頬を緩め、白沢の腕の中におさまった。幸せ。胸中でこっそり呟く。

「……やっぱり、あったかいな」

 心に染み入るように、ゆっくりと白沢が言葉を紡いだ。いつもの白沢とは何処かが違うような気がして、彰太は顔を上げた。

 顔が、とても綺麗で整った顔が近付いてくる。目を見開いていると、口と口が軽く触れあい、そっと離れた。

「ほら」と、白沢が彰太の手を取り、自分の胸に当てた。

「分かるかな。鼓動が早いの。それとね。俺は今、すごく満ち足りた気分なんだ。幸せっていうのかな」

 白沢は真っ直ぐに、彰太を見た。

「これって、好きってことだよね?」

「────」

「違う?」

 彰太は事態が呑み込めず、目を丸くしたまま「……もう一回、して」と、意図しないところで呟いた。白沢が嬉しさに笑う。

「いいよ。何度でも」

 唇に、柔らかくて、ほんの僅かなあたたかい感触。あり得ないほど近くにある白沢の綺麗な顔。

 夢じゃない。夢じゃないんだ。

(……キス、してる。白沢と)

「多比良と会わなかったこの数日間、ずっと考えていたんだ。俺は多比良のこと、本当に恋愛対象として見てないのかなって」

 白沢は顔を離し、静かに語り始めた。

「まず想ったのは、会えなくて、寂しいってこと。そして、他の人が多比良に触れるのが嫌なのは、本当に、友達としての嫉妬なのかなって」

 これが白昼夢というものか。彰太は頭の隅で思いながらも、白沢の言葉を一つも聞き漏らすまいと耳を全力で傾けていた。

「友達ならキスなんてしないよね。でも俺は、多比良を見て、キスしたいと思った」

 真っ直ぐで、真剣な双眸とぶつかる。

「好きだよ、多比良。俺と付き合ってくれませんか?」

 彰太は目をはち切れんばかりに見開いたあと、がくがくと膝を震わせ、ぺたんと地面に座り込んだ。

「た、多比良? 大丈夫?」

「……へーき」

 彰太の腕をとり、立たせた白沢はぎょっとした。彰太がボロボロと、涙を流していたからだ。

「……白沢がおれのこと好きだって言った。付き合ってって」

「うん。言ったね」

「おれは女じゃないけど、本当にいいの?」

 白沢が「うん。多比良がいい」と、彰太の涙を親指でぬぐう。優しい微笑みに、思わずみとれる。

「おれも、白沢が好き」

 想いの重さは、きっと違うだろうけど。すぐに、女の子がいいって気付いてしまうかもしれないけど。

 白沢の首に両腕をまわし、何度も囁いた。白沢はその度「うん」と応えてくれた。

 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

処理中です...