うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第三章

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 半年間。一翔は会社を辞めるための引き継ぎをしていた。重要な役職だっただけに、引き継ぎも時間がかかったのだと言う。けれど何より、全てのしがらみを断ち切るのが、精神的にきつかったと一翔は語った。

 一翔にとって唯一の救いは、義母がまともだったこと。

 義母は何も知らなかった。一翔と親の確執も。夫と娘が、一翔に他に好きな人がいることを知った上で結婚を迫ったこと。そして、娘の子供の父親が、別の男であること。義母を哀しませたくない義父が、必死に隠していたらしい。

 一翔は彰太とホテルで別れたその日に、妻と義理の娘が住むマンションに、義理の両親と、自分の両親を呼んだ。もともと元旦だったので、伺うつもりではいたのだと両家の親は笑っていた。

 離婚させて下さい。穏やかに食卓を囲む、義理の娘を除いた五人に向けて、一翔は頭を下げた。烈火のごとく怒ったのは、両親だった。そして、義母も最初は激怒した。妻と義父は、胸中はどうであれ、何も言わなかった。

 一翔は全てをぶちまけた。互いが互いに知らないこともあったから。例えば、娘の父親が別なことは、少なくとも一翔の親は知らなかった。けれど、親は唖然としたものの、お前が奥さんを放っておいたのが原因だと責めはじめた。

 ──やっぱり、言葉は届かないか。

 今さらのことを再確認し、このまま何もかも捨てて、彰太のところに行こうかと小さく苦笑していた一翔だったが。

 義母は口に手を当て『……何てこと』と顔を青ざめさせていた。次いで、ゆっくりと視線を夫と娘に向けた。

『──本当なの? あなたたちは、一翔さんに好きな人がいることを知っていて、それでも結婚を強要したの?』

 その上、父親が別だなんて。 
 義母の失望は、はかりしれなかった。

『……会社のためとはいえ、自分の子どもに望まない結婚をさせるなんて』

 ぽつりと吐露された言葉。義母は下を向いていたが、明らかに両親に向けられたものだった。両親の表情がとたんに険しいものに変わる。

 一翔は、父親が自殺未遂をはかったことまでは言わなかった。でも、両親が口にしてしまった。

『あのままでは、会社はつぶれていました。それなのにこの子は、追い詰められた父親が自殺未遂をするまで断固として首を縦にふらなかったのです。育ててもらった恩も忘れ、恩を仇で返そうとしたのですよ? なのに被害者ぶるなんて』

『そうです。こんなに綺麗な奥さんと結婚出来て、わしらも助かる道を、こいつは選択しようとはしなかった。わしの命をかけてやっとです。こいつは、加害者です』

 これには、妻も義父も絶句していた。今まで何度か顔を合わせてきたが、いつもにこやかで、こんな一面があるとは想像もしていなかったのだろう。

『──それでは脅迫ではないですか!!』

 椅子を蹴飛ばし『子どもに向かって加害者などと……っ』と、義母が声を荒げる。あまりの剣幕に、両親たちは口を閉ざした。けれどその双眸には、明らかに不愉快な色が宿っていた。どうして私たちが怒鳴られなければならないのか。口にはせずとも、目が語っていた。義母もそれを悟ったのか。

『こんな……こんな人たちだったなんて』
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