38 / 45
第三章
8
しおりを挟む
「一つ、提案したいことがあるんだが」
二人が同時に、琉太に視線を向けた。琉太は迷いつつも、ゆっくりと口を動かした。
「──お前たちのこと、母さんたちに話さないか?」
とたんに彰太が表情を凍りつかせるのがわかった。やっぱり早すぎたかとも思ったが、琉太は続けた。
「彰太。怖いのはオレにだってわかる。でもな、母さんたちは本気で心配してるんだ。突然理由もわからないまま家族から離れて、遠くで一人暮らしをはじめたお前のことを」
彰太は視線を逸らし、一翔の背中にまわした腕の力を強めた。
「オレは理由を知ってる。そいつと万が一でも街中で会わないようにするためだったんだよな? でも母さんたちは何も知らないから、よけいに心配なんだよ」
一翔の指がぴくりと動く。それに気付く余裕もなく。彰太は一翔の胸に、額を擦り付ける。聞きたくない。そう拒絶するように。わかっていても、琉太はやめなかった。いずれは、絶対に言わなければいけないことだから。
「恋人もいなくて、このままずっと一人でいるのかって。それも心配してる。それに、これからそいつと一緒に暮らすんだろ? 遅かれ早かれ、いずれ気付かれるときがくる。だから」
彰太は一翔から離れないまま「──いやだ」とぽつりと洩らした。目は見開いたまま。全身が僅かに震えている。琉太は出来る限りの優しい声音で、諭すように告げる。
「すぐじゃなくていいんだ。でも、ずっと黙ってるわけにもいかない。それはわかるだろう?」
彰太は答えない。一翔は彰太の頭を撫でながら「琉太さんは、彰太のこと、ご両親のこと、すごく大事にしてくれているんだね」と囁いた。
「……うん」
わかっている。でも、どうして今そんなことを言うのか。一翔と再会したばかりなのに。この先もずっと一緒にいてくれる保証なんてない。なら、わざわざカミングアウトする必要なんてないのではないか。そんな考えが渦巻いていく。
彰太はうつ向きながら「……心配してくれてるのは知ってる。悪いとも思ってる。でも、無理だよ」と顔だけを琉太に向けた。
「……何が無理なんだ?」
琉太の問いに、彰太はつつけば泣きそうな不安定な表情をしながら顔を上げた。
「だって、否定されたら? お母さんやお父さんたちと、これまでみたいな関係じゃいられなくなる。それに、一翔と別れろって言われたら?」
彰太は一翔を見上げた。
「おれが親にそう言われても、一翔は傍にいてくれるの?」
一翔の瞳に、僅かな動揺が走った。それを見ぬいたのかどうかはわからない。彰太は双眸を潤ませ「やっと……やっとこれから一緒にいられるのに」と苦し気に吐露した。そして。
「……いつまで一緒にいられるか、わかんないのに」
消え入りそうな声音で呟き、再び一翔の腕の中におさまる彰太。琉太は、二人が別れてからのことは一切知らない。フラれてすぐに一翔が女の人と腕を組んで歩いていたこと。その女の人との結婚式を見たこと。子どもがいると聞いたこと。彰太はそれらのことに関しては何も話していない。ずっと一人で耐えてきた。事情を知った今でも、それは彰太の心の傷になっている。また、同じことが起こるのではないかと。
今度こそ本当に、一翔は帰ってこないのではないかと。
全てを知るわけではない。それでも彰太の様子から、これ以上の無理強いは出来ないと考えた琉太は、「今日はもう、帰るけど」と彰太の頭にぽんと手をのせた。
「これだけは忘れるな。オレの望みは、お前の幸せなんだからな」
きっと。母さんと父さん。瑠花も。
そう言って、琉太は部屋を後にした。
二人が同時に、琉太に視線を向けた。琉太は迷いつつも、ゆっくりと口を動かした。
「──お前たちのこと、母さんたちに話さないか?」
とたんに彰太が表情を凍りつかせるのがわかった。やっぱり早すぎたかとも思ったが、琉太は続けた。
「彰太。怖いのはオレにだってわかる。でもな、母さんたちは本気で心配してるんだ。突然理由もわからないまま家族から離れて、遠くで一人暮らしをはじめたお前のことを」
彰太は視線を逸らし、一翔の背中にまわした腕の力を強めた。
「オレは理由を知ってる。そいつと万が一でも街中で会わないようにするためだったんだよな? でも母さんたちは何も知らないから、よけいに心配なんだよ」
一翔の指がぴくりと動く。それに気付く余裕もなく。彰太は一翔の胸に、額を擦り付ける。聞きたくない。そう拒絶するように。わかっていても、琉太はやめなかった。いずれは、絶対に言わなければいけないことだから。
「恋人もいなくて、このままずっと一人でいるのかって。それも心配してる。それに、これからそいつと一緒に暮らすんだろ? 遅かれ早かれ、いずれ気付かれるときがくる。だから」
彰太は一翔から離れないまま「──いやだ」とぽつりと洩らした。目は見開いたまま。全身が僅かに震えている。琉太は出来る限りの優しい声音で、諭すように告げる。
「すぐじゃなくていいんだ。でも、ずっと黙ってるわけにもいかない。それはわかるだろう?」
彰太は答えない。一翔は彰太の頭を撫でながら「琉太さんは、彰太のこと、ご両親のこと、すごく大事にしてくれているんだね」と囁いた。
「……うん」
わかっている。でも、どうして今そんなことを言うのか。一翔と再会したばかりなのに。この先もずっと一緒にいてくれる保証なんてない。なら、わざわざカミングアウトする必要なんてないのではないか。そんな考えが渦巻いていく。
彰太はうつ向きながら「……心配してくれてるのは知ってる。悪いとも思ってる。でも、無理だよ」と顔だけを琉太に向けた。
「……何が無理なんだ?」
琉太の問いに、彰太はつつけば泣きそうな不安定な表情をしながら顔を上げた。
「だって、否定されたら? お母さんやお父さんたちと、これまでみたいな関係じゃいられなくなる。それに、一翔と別れろって言われたら?」
彰太は一翔を見上げた。
「おれが親にそう言われても、一翔は傍にいてくれるの?」
一翔の瞳に、僅かな動揺が走った。それを見ぬいたのかどうかはわからない。彰太は双眸を潤ませ「やっと……やっとこれから一緒にいられるのに」と苦し気に吐露した。そして。
「……いつまで一緒にいられるか、わかんないのに」
消え入りそうな声音で呟き、再び一翔の腕の中におさまる彰太。琉太は、二人が別れてからのことは一切知らない。フラれてすぐに一翔が女の人と腕を組んで歩いていたこと。その女の人との結婚式を見たこと。子どもがいると聞いたこと。彰太はそれらのことに関しては何も話していない。ずっと一人で耐えてきた。事情を知った今でも、それは彰太の心の傷になっている。また、同じことが起こるのではないかと。
今度こそ本当に、一翔は帰ってこないのではないかと。
全てを知るわけではない。それでも彰太の様子から、これ以上の無理強いは出来ないと考えた琉太は、「今日はもう、帰るけど」と彰太の頭にぽんと手をのせた。
「これだけは忘れるな。オレの望みは、お前の幸せなんだからな」
きっと。母さんと父さん。瑠花も。
そう言って、琉太は部屋を後にした。
27
あなたにおすすめの小説
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる