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出逢い。それから
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「……。……。……は?」
じっくり沈黙してから、アルオはようやく口を半開きにした。魔王はもう止まらぬ想いを存分に吐き出していく。
「好きじゃ。主が好きじゃ。愛している」
ぐいぐいくる魔王に、アルオが困惑しながら後退る。距離をとりながら二人の闘いを見守っていたモンタギューと上位魔族は、口元を抑えながら下を向き、笑いを耐えた。
「わらわは敗けた身ゆえ、そなたとどうこうなりたいとは思わん。その資格もない。ただ気持ちを抑え切れなかっただけじゃ。けれどもし叶うのならば……」
魔王は両手で赤くなった頬を覆った。
「ま、また会うことはできぬだろうか!?」
密林に響き渡る声。思わぬ純情っぷりに、どんな要求をされるのか思いっきり構えていたアルオは、拍子抜けしてしまった。
「いや……特に用もないからな」
そうか。
アルオの応えに、魔王が目に見えて肩を落とす。それ以上何も言ってこない。案外素直なんだなとアルオは思った。
「ともかく、約束は守ってもらうぞ」
「……うむ。魔族は全て、この密林に引き上げさせるよう言い渡す」
しょぼん。そんな音が聴こえてきそうなほど、落ち込む魔王。だが、何か声をかけてやる義理もないアルオは「行くぞ、モンタギュー」と、ゆっくり立ち上がった。笑いのおさまったモンタギューは、もう真顔に戻っていた。
「はあ。もう空が暗くなりはじめていますが、今から密林を抜けますか? 一昼夜の闘いで、だいぶ消耗しているようですし、もうマナも残ってはいないのでしょう? 大丈夫ですか?」
「そうは言うが、どうしろと──」
「と、泊まっていけばよいのではないか?!」
魔王が息を荒くする。敵の城に泊まれと言うのか。アルオの問いに、魔王は「もう敵ではない!」と声を荒げた。
「わらわは主に恋するただの乙女じゃ!」
目をキラキラさせる魔王を横目に、上位魔族は冷静に語った。
「魔王様のことは置いておくとして。マナが回復するまで此処にいた方がよいとは思いますよ。今のあなた様では、上位魔族に出会えば命はない」
アルオは目尻を尖らせた。
「例えばお前、とかか?」
「いえいえ、まさか。ただ、此処にいればそうそう他の魔族に襲われることはないかと」
「魔王がいるからか? けれどわたしと同様、あいつのマナも尽きているだろう」
「ですね。けれど、ワタシがいますから」
「お前がいたところで、魔王ほどの牽制にはならないだろう。上位魔族には効き目がないのではないか?」
「確かに魔王様ほどではありません。ですがワタシより強い者は、おそらく魔王様だけですので。多少の牽制にはなるかと」
上位魔族がにっこり微笑む。アルオとモンタギューは固まった。目の前の上位魔族は、まさかの魔族のNo.2だった。
アルオは魔王城の一室。寝台の上で思案していた。隣の寝台ではモンタギューが背を向け横になっている。寝ているのか、起きているのかは分からない。ただ、流石に熟睡はしていないだろう。
魔王との戦闘。勝ちはしたが、魔王の魔法コントロールは見事なものだった。ただ威力のある魔法をがんがん打つアルオに対し、魔王の攻撃魔法は多彩だった。火を複数に分け、四方から攻撃。あるいは水を細く長く操る。そして最も驚いたのは、風で空を舞っていたこと。
(……魔法は基礎しか習わなかったからな)
一晩考えたすえ、アルオは決意した。
「──魔王。わたしに、魔法を教えてくれないか」
夜明け前、アルオは寝室の扉を開けた。そこには聞き耳を立てた格好のまま固まる魔王がいた。あたふたする魔王に、アルオはそう提案してみた。
魔王の応えは、言うまでもなかった。
年に数回。アルオが城から抜け出すのは、魔王に魔法を教えてもらうためだった。
じっくり沈黙してから、アルオはようやく口を半開きにした。魔王はもう止まらぬ想いを存分に吐き出していく。
「好きじゃ。主が好きじゃ。愛している」
ぐいぐいくる魔王に、アルオが困惑しながら後退る。距離をとりながら二人の闘いを見守っていたモンタギューと上位魔族は、口元を抑えながら下を向き、笑いを耐えた。
「わらわは敗けた身ゆえ、そなたとどうこうなりたいとは思わん。その資格もない。ただ気持ちを抑え切れなかっただけじゃ。けれどもし叶うのならば……」
魔王は両手で赤くなった頬を覆った。
「ま、また会うことはできぬだろうか!?」
密林に響き渡る声。思わぬ純情っぷりに、どんな要求をされるのか思いっきり構えていたアルオは、拍子抜けしてしまった。
「いや……特に用もないからな」
そうか。
アルオの応えに、魔王が目に見えて肩を落とす。それ以上何も言ってこない。案外素直なんだなとアルオは思った。
「ともかく、約束は守ってもらうぞ」
「……うむ。魔族は全て、この密林に引き上げさせるよう言い渡す」
しょぼん。そんな音が聴こえてきそうなほど、落ち込む魔王。だが、何か声をかけてやる義理もないアルオは「行くぞ、モンタギュー」と、ゆっくり立ち上がった。笑いのおさまったモンタギューは、もう真顔に戻っていた。
「はあ。もう空が暗くなりはじめていますが、今から密林を抜けますか? 一昼夜の闘いで、だいぶ消耗しているようですし、もうマナも残ってはいないのでしょう? 大丈夫ですか?」
「そうは言うが、どうしろと──」
「と、泊まっていけばよいのではないか?!」
魔王が息を荒くする。敵の城に泊まれと言うのか。アルオの問いに、魔王は「もう敵ではない!」と声を荒げた。
「わらわは主に恋するただの乙女じゃ!」
目をキラキラさせる魔王を横目に、上位魔族は冷静に語った。
「魔王様のことは置いておくとして。マナが回復するまで此処にいた方がよいとは思いますよ。今のあなた様では、上位魔族に出会えば命はない」
アルオは目尻を尖らせた。
「例えばお前、とかか?」
「いえいえ、まさか。ただ、此処にいればそうそう他の魔族に襲われることはないかと」
「魔王がいるからか? けれどわたしと同様、あいつのマナも尽きているだろう」
「ですね。けれど、ワタシがいますから」
「お前がいたところで、魔王ほどの牽制にはならないだろう。上位魔族には効き目がないのではないか?」
「確かに魔王様ほどではありません。ですがワタシより強い者は、おそらく魔王様だけですので。多少の牽制にはなるかと」
上位魔族がにっこり微笑む。アルオとモンタギューは固まった。目の前の上位魔族は、まさかの魔族のNo.2だった。
アルオは魔王城の一室。寝台の上で思案していた。隣の寝台ではモンタギューが背を向け横になっている。寝ているのか、起きているのかは分からない。ただ、流石に熟睡はしていないだろう。
魔王との戦闘。勝ちはしたが、魔王の魔法コントロールは見事なものだった。ただ威力のある魔法をがんがん打つアルオに対し、魔王の攻撃魔法は多彩だった。火を複数に分け、四方から攻撃。あるいは水を細く長く操る。そして最も驚いたのは、風で空を舞っていたこと。
(……魔法は基礎しか習わなかったからな)
一晩考えたすえ、アルオは決意した。
「──魔王。わたしに、魔法を教えてくれないか」
夜明け前、アルオは寝室の扉を開けた。そこには聞き耳を立てた格好のまま固まる魔王がいた。あたふたする魔王に、アルオはそう提案してみた。
魔王の応えは、言うまでもなかった。
年に数回。アルオが城から抜け出すのは、魔王に魔法を教えてもらうためだった。
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