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第三の瞳 前編
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胸元まで届く鬱蒼と繁る葉、足元を走るリス。
周囲を飛び回り闇夜を照らすホタルの合間を、俺は一歩一歩、土の感触を確かめながら進んでいく。
そうして現れたのは、円形の広場。
まるで人の手で作られたような広い空間に、俺は躍り出た。
反対側の端に誰かが立っている。
いや、誰かはわかっている。
あの男に付き従っていた、ローブを纏ったあの女だ。
「来ると思った……」
女は一言呟くと、数歩前に出た。
両手には、逆手に持ったナイフ。
しかもただのナイフじゃない。
付与スキルによって刻印が彫られた、魔剣のようだ。
厄介な。
「そりゃあれだけご丁寧に招待されればな」
「殺気、気が付いた?」
白々しい。
気が付くように俺にだけ殺気を送ってきた癖に。
「ああ、だからこうして今ここにいる。 あんたをここで倒す為に」
「うん、だね。 じゃあ、やろっか。 殺し合い」
少女はそう呟くと、身動ぎ一つせず急接近。
ナイフをクロスさせ斬りかかってきた。
「────ッ!」
ガキン。
「むう……今のを防ぐとは思わなかった。 やっぱりこの人、強い」
それはこちらの台詞だ。
およそ50メートルを一瞬で詰めてくるなんて誰が思う。
ほんの少しでも反応が遅かったら斬られていたに違いない。
「そういうお前も相当なものだがな……!」
「お兄さんに誉められるの、嫌いじゃないかも。 もっと誉めて良いよ」
と言いながら、少女は俺の肩に足を置きジャンプ。
空へ飛び上がると落下を利用して、目にも止まらぬ連撃を叩き込んできた。
「悪いが、お断りだ!」
しかしその全てを俺は目にも止まらぬ剣速で軽々と弾いていく。
幾重にも重なる刃から飛び散る火花。
その火花が剣戟の壮絶さを物語っている。
だが、久方ぶりに胸踊るこの剣劇も、いよいよ終わりが近づいてきたらしい。
少女は最後に渾身の一撃を放つ。
が……。
「お?」
それすらも俺の掌の上。
「ふんっ!」
簡単にあしらわれた少女は反動でのけ反りかえる。
俺はその一瞬の隙を逃さず、少女の胸ぐらを掴んでぶん投げた。
「ほっと」
まさか空中で反転して着地するとは……。
猫か、こいつは。
どんな身体能力してやがる。
「今ので殺せなかったの、お兄さんが初めて。 凄い。 じゃあこれはどう?」
フッ。
消えた。
またしてもなんの動作もなく、ただただ忽然と姿を消した。
だが気配が、殺気そのものが消えた訳じゃない。
恐らく少女は奇襲を仕掛けてくるはずだ。
それが、前なのか、上なのか、背後なのか、はたまた側面なのかはわからないが。
これだけ色んな方向から殺気を向けられてはな。
「人間の出せる速度を余裕で越えてるな。 いくら特殊な歩法を使ったとしても、この速度を出すのは不可能。 ということは、速度強化系のスキル。 ファストクイックか」
「外れ。 正解は、存在定義。 認識阻害のスキル」
これはまたかなりのレアスキルだな。
いや、ユニークスキルってやつか。
俺の誘因共鳴と同じく。
どうりで……。
「良いのか、そんな話しして。 スキルの子細は戦闘に響くだろ」
「問題ない。 だってお兄さんはもう死ぬから」
その刹那、殺気が俺の首筋に集中したのを感じた。
同時に肌がひりついた。
警告しているのだ、肉体が。
危機が迫っていることを。
しかし俺は焦らない。
待つ、ただ待つ。
彼女が近づいてくるのを。
彼女の存在を、意識を捉えられる状況になるまで。
彼女が鳴らす、微かな物音を聞き分ける為、俺はただただ待った。
冷たい殺気が心臓を掴む中。
そしてその時は来たようだ。
「終わり」
微かな音が止んだ瞬間、背後から気配が押し寄せる。
これがラミィやリアならもう手遅れだろう。
喉を貫かれて終了だ。
だが俺は違う。
どんな攻撃をしてくるか、どこから来るか、いつ来るか。
俺には既にわかっている。
「ああ、確かに終わりだな。 けど終わるのは俺じゃない」
少女が射程に入ったその時、俺は反転。
「終わるのは……お前の方だ!」
何も無い空間へ、袈裟斬りを放つ。
そこに居る筈の少女へと。
「……!」
案の定、剣は彼女のナイフを弾き飛ばし、ローブを切り裂いた。
地面に叩きつけられた少女の腹部から、朱色のペンキが少量地面へ広がっていく。
致命傷ではないが、あの怪我では先ほどのように戦えないだろう。
勝負あったな。
「ぐ……」
かと思いきや。
「おいおい冗談だろ、こいつ」
予想に反して少女は起き上がり、残る一本のナイフを構え、刻印を煌めかせ始めた。
「もうそこら辺でやめておけ! それ以上やると本当に死ぬぞ!」
「わかってる。 でもやめるわけには……いかない。 ロゼは傭兵……だから、お金が必要……だから、ここで倒れる訳には……」
傭兵?
こんな少女が傭兵だって?
まだ15歳前後にしか見えないこんな女の子が傭兵って……。
だからか、あんな奴の良いなりになってるのは。
「金が必要なのはわかる。 世の中金だからな。 それは痛い程よくわかるつもりだ。 けどな、死んだらそれまでだろうが……! そこまでして金を稼いでなんに……!」
「う……」
どうやら相手をするまでもなく、限界だったらしい。
「ああくそ、言ったそばから!」
少女は気を失い、地面に伏してしまったのだった。
周囲を飛び回り闇夜を照らすホタルの合間を、俺は一歩一歩、土の感触を確かめながら進んでいく。
そうして現れたのは、円形の広場。
まるで人の手で作られたような広い空間に、俺は躍り出た。
反対側の端に誰かが立っている。
いや、誰かはわかっている。
あの男に付き従っていた、ローブを纏ったあの女だ。
「来ると思った……」
女は一言呟くと、数歩前に出た。
両手には、逆手に持ったナイフ。
しかもただのナイフじゃない。
付与スキルによって刻印が彫られた、魔剣のようだ。
厄介な。
「そりゃあれだけご丁寧に招待されればな」
「殺気、気が付いた?」
白々しい。
気が付くように俺にだけ殺気を送ってきた癖に。
「ああ、だからこうして今ここにいる。 あんたをここで倒す為に」
「うん、だね。 じゃあ、やろっか。 殺し合い」
少女はそう呟くと、身動ぎ一つせず急接近。
ナイフをクロスさせ斬りかかってきた。
「────ッ!」
ガキン。
「むう……今のを防ぐとは思わなかった。 やっぱりこの人、強い」
それはこちらの台詞だ。
およそ50メートルを一瞬で詰めてくるなんて誰が思う。
ほんの少しでも反応が遅かったら斬られていたに違いない。
「そういうお前も相当なものだがな……!」
「お兄さんに誉められるの、嫌いじゃないかも。 もっと誉めて良いよ」
と言いながら、少女は俺の肩に足を置きジャンプ。
空へ飛び上がると落下を利用して、目にも止まらぬ連撃を叩き込んできた。
「悪いが、お断りだ!」
しかしその全てを俺は目にも止まらぬ剣速で軽々と弾いていく。
幾重にも重なる刃から飛び散る火花。
その火花が剣戟の壮絶さを物語っている。
だが、久方ぶりに胸踊るこの剣劇も、いよいよ終わりが近づいてきたらしい。
少女は最後に渾身の一撃を放つ。
が……。
「お?」
それすらも俺の掌の上。
「ふんっ!」
簡単にあしらわれた少女は反動でのけ反りかえる。
俺はその一瞬の隙を逃さず、少女の胸ぐらを掴んでぶん投げた。
「ほっと」
まさか空中で反転して着地するとは……。
猫か、こいつは。
どんな身体能力してやがる。
「今ので殺せなかったの、お兄さんが初めて。 凄い。 じゃあこれはどう?」
フッ。
消えた。
またしてもなんの動作もなく、ただただ忽然と姿を消した。
だが気配が、殺気そのものが消えた訳じゃない。
恐らく少女は奇襲を仕掛けてくるはずだ。
それが、前なのか、上なのか、背後なのか、はたまた側面なのかはわからないが。
これだけ色んな方向から殺気を向けられてはな。
「人間の出せる速度を余裕で越えてるな。 いくら特殊な歩法を使ったとしても、この速度を出すのは不可能。 ということは、速度強化系のスキル。 ファストクイックか」
「外れ。 正解は、存在定義。 認識阻害のスキル」
これはまたかなりのレアスキルだな。
いや、ユニークスキルってやつか。
俺の誘因共鳴と同じく。
どうりで……。
「良いのか、そんな話しして。 スキルの子細は戦闘に響くだろ」
「問題ない。 だってお兄さんはもう死ぬから」
その刹那、殺気が俺の首筋に集中したのを感じた。
同時に肌がひりついた。
警告しているのだ、肉体が。
危機が迫っていることを。
しかし俺は焦らない。
待つ、ただ待つ。
彼女が近づいてくるのを。
彼女の存在を、意識を捉えられる状況になるまで。
彼女が鳴らす、微かな物音を聞き分ける為、俺はただただ待った。
冷たい殺気が心臓を掴む中。
そしてその時は来たようだ。
「終わり」
微かな音が止んだ瞬間、背後から気配が押し寄せる。
これがラミィやリアならもう手遅れだろう。
喉を貫かれて終了だ。
だが俺は違う。
どんな攻撃をしてくるか、どこから来るか、いつ来るか。
俺には既にわかっている。
「ああ、確かに終わりだな。 けど終わるのは俺じゃない」
少女が射程に入ったその時、俺は反転。
「終わるのは……お前の方だ!」
何も無い空間へ、袈裟斬りを放つ。
そこに居る筈の少女へと。
「……!」
案の定、剣は彼女のナイフを弾き飛ばし、ローブを切り裂いた。
地面に叩きつけられた少女の腹部から、朱色のペンキが少量地面へ広がっていく。
致命傷ではないが、あの怪我では先ほどのように戦えないだろう。
勝負あったな。
「ぐ……」
かと思いきや。
「おいおい冗談だろ、こいつ」
予想に反して少女は起き上がり、残る一本のナイフを構え、刻印を煌めかせ始めた。
「もうそこら辺でやめておけ! それ以上やると本当に死ぬぞ!」
「わかってる。 でもやめるわけには……いかない。 ロゼは傭兵……だから、お金が必要……だから、ここで倒れる訳には……」
傭兵?
こんな少女が傭兵だって?
まだ15歳前後にしか見えないこんな女の子が傭兵って……。
だからか、あんな奴の良いなりになってるのは。
「金が必要なのはわかる。 世の中金だからな。 それは痛い程よくわかるつもりだ。 けどな、死んだらそれまでだろうが……! そこまでして金を稼いでなんに……!」
「う……」
どうやら相手をするまでもなく、限界だったらしい。
「ああくそ、言ったそばから!」
少女は気を失い、地面に伏してしまったのだった。
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