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魔甲剣マイダスメッサー

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「旦那、こっちなんだなぁ」

 朝方。
 寝坊したラミィを待つ間、修練に励んでいるとグレイがやってきて、兄が呼んでいると言ってきた。
 これから修行もあるしどうしようかと俺は一瞬迷ったが、どうせ寝ぼすけのラミィの事だ。
 直ぐにはこないだろうと、リアに言伝てを残し、グレイに同行する事にした。
 そうして連れていかれたのは此処。
 工房近くのガラドとグレイの自宅だった。

「待たせたな、ガラド。 なんか俺に用があるとか聞いたが、どうした?」

「おう、わざわざ済まねえな旦那。 ご注文の品がついさっき完成してな。 自信作なもんだから、早く自慢したくてよ」

 言いながらガラドがテーブルに置いたのは、今まで見た事のない形状の武器だった。
 装着型なのか、ガントレット状となっており、手の甲辺りの部分に宝石のような丸い魔石が嵌め込まれている。
 そのガントレットの先には、剣の柄らしき物が添えられているが、肝心の刃がない。
 なんだこれ。
 魔剣を頼んだのだから、まともな武器ではないだろうとタカを括ってはいたものの、予想以上に意味のわからない形状に頭がパニックを起こしそうになっている。

「これ、本当に剣なのか? どう見ても剣には見えないぞ」

「はっはっは! そりゃそうだ! こいつは魔工炉の機能をフル稼働して造り出した、剣という概念をぶっ壊した、全く新しい盾剣……いや、甲剣だからな! 旦那が困惑するのも無理ねえってもんだ!」

 甲剣?
 初めて聞く名称だ。
 名称的にガントレットと剣が一体化した武器か?

「……どうやって使うんだ? この……甲剣ってのは」

「ああ、これはこう使うんだよ。 よっと!」

「……!」

 こいつは……。



「なにこの変な武器。 ガントレット?」

 またしてもガラドの使いっぱしりにされたグレイによって連れてこられたラミィは、渡された甲剣をまじまじ眺めながら、いかにも不審な物を見るように眉を吊り上げている。
 その気持ちはよくわかる。
 俺も最初見た時は似たリアクションを取ったもんだ。
 
「良いから嵌めてみろよ。 驚くぞ」

「まあ別にそれぐらい良いけどさぁ。 ……どうやってつけんのよ、これ。 ああ、こうやって嵌めんのね」

 装着の仕方は実にシンプル。
 軽装用のガントレットと同じく、穴に腕を通すだけ。
 それだけで装着完了だ。

「……おし、装着したわよ。 んで、こっからどうすんの?」

「なに、使い方も非常に簡単だ。 甲の部分に嵌められている魔石から延びている柄があるだろう? それを掴んで、イメージすれば良い。 嬢ちゃんが望む、剣の形を」

「はぁ? 剣の形ぃ? 意味わかんないんだけど」

 助けを求めるよう俺に焦点を合わせてくるが、良いからやってみろよと言われたラミィは渋々柄を掴み、力を込める。

「掴んだわよ。 イメージもした。 それで?」

「後はそのまま引き抜くだけで良い。 それでその甲剣は嬢ちゃんの望む形となる。 イメージのまま、な」

「マジで意味わかんないんだけど。 ……はいはい、わかったわよ。 やりゃあ良いんでしょ、やりゃあ。 そんじゃやるわよ…………ふん!」 

 もう破れかぶれだと言わん感じで、ラミィは柄を引っ張った。
 すると次の瞬間。
 引き抜かれた柄から、先程まで存在しなかった筈の刃が唐突に出現したのである。
 
「……な、なにこれ。 剣……? なんか淡く光ってんだけど」

 ラミィの言ったように、引き抜くと同時に魔石により形成された刃から青色の優しげな光が、継続的に放たれている。
 まるで蛍のように。
 しかも、変化があったのは、剣だけじゃなかった。

「ん……? うわっ、今度は一体なんなのよ! 急に透明な盾が出てきたんだけど!」

 そう、ガントレットに嵌められた魔石を中心に、半透明のガラスのような物が突如出現したと思ったら、それがラミィの体格に合わせた小盾へと変形したのだ。
 その動きは意思を持ったスライムのよう。
 若干気持ち悪い。
 形成されてからはカチカチになったが。
 どういう原理でああなってるんだ、あれ。

「すご……殆んどイメージ通りになっちゃった」

 材質や質感はまったく違うが、愛用していたラミィの盾剣にどことなく似ている気がする。
 ロングソードやヘビーバックラーっぽい。
 しかし、その威圧感や存在感は、以前の武器とは比べ物にならないくらい圧倒的。
 あれぞ業物、という雰囲気を纏っている。

「ちょっと何よこの武器。 異様に軽いし、刃の部分を自由に変えられるし、なんか凄いんだけど。 どうなってんの、これ。 どうやって造ったのよ、こんなの」

「なあに、原理そのものはそこまで難しくはねぇ。 この魔工炉にはよ、魔石に様々な機能を施す機能もあってな。 例えば、装着者のイメージ通りに魔力の形を変えられる機能を魔石に刻む、だとかな。 たったそれだけのこった」

 それだけってレベルじゃないだろ、明らかに。
 素人目に見ても常軌を逸した技術じゃないか?
 あんたみたいな凄腕鍛冶師じゃないと出来ないと思うんだけど。

「ふぅん、よくわかんないけど凄い剣って事はわかったわ。 なかなか面白いじゃない、気に入った。 大事にさせて貰うわね、この剣。 ちなみに名前ってあるの?」

「おう、あるぜ。 とっておきのが。 そいつの名は、守護獣の刃マイダスメッサー。 魔甲剣マイダスメッサーだ。 覚えておいてやれ。 そいつも喜ぶ」

「ええ、覚えておくわ。 ……これからよろしくね、マイダスメッサー。 私の守護の剣」

 よっぽど気に入ったらしい。  
 日光に照らすよう剣を掲げたラミィが、ニッと良い笑顔を浮かべながら、マイダスメッサーを見つめている。

 パチッ。

 その光景を余所に、俺は魔工炉の中で揺らめく青色の炎を見つめながら、あの会話を思い返していた。
 アルドンにあの剣。
 フルグラムを返そうとした時の事を。

 
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