UBER -ユベル-

石田ノドカ

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第1章 『吸血鬼』

1-3 人影

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 コンビニに寄った帰り道。
 いつもなら、このまま真っ直ぐ家に帰るが、今日は、ほんの気まぐれから、少しだけ遠回りをした。
 すっかり通らなくなっていた街並みに、心の中で感嘆する。

 当時と同じ赴きを残す駄菓子屋。
 いつの間にか廃屋になっている理髪店。
 まだやっていたのかとさえ思うようなクリーニング屋。

 古き良き、田舎の街並みだ。
 心が落ち着くし、落ち着けば嫌なことも少し和らぐ。
 何でもないただの風景――触れなくなっても見慣れたその風景らの方が却って、少年に現実を忘れさせた。

 懐かしいついでに、皐月は昔よく通った公園へと足を運んだ。
 幼少の頃、母と、たまに父とも遊んだ公園だ。
 時間も世の中のことも、何も考えなくて済んだ子どもの頃は、今からするととても気楽なものだった。
 何でもないあの時間が、一番楽しかった。
 設置されている遊具も、ひと際目を引く桜の大木も、ぱっと見の空気感さえも、何一つ当時と変わらない……自分だけが、全てを置いて変わっていってしまう。

 時間が経ってしまった。
 歳を重ねてしまった。
 伴う責任が大人に近付いて来た。

 それら現実を、逃げ場なく突き付けられている気分だった。

「…………はぁ」

 帰ろう。
 皐月は、溜め息交じりに目を伏せ、公園の前からいなくなろうと身体を捻る。
 そんな矢先のこと。

「ん……?」

 公園の端に置かれているジャングルジム――その上に座る、一つの人影に気が付いた。
 長く艶やかな髪が、風に揺られ、楽し気に踊っている。
 遠目に見えるそのシルエットは、どのような服装かまでは分からないが、その顔立ち、長い髪、身体の凹凸から、おそらく女性だろうと思う。

 その女性は、自身を照らす月明かりを見上げ、どうやら右手をかざしているらしかった。
 何をしているのだろう。
 寒くないのだろうか。

 そう思うのと同時に、

(綺麗だなぁ……)

 若さとは時に怖いもので。
 誰とは知らなくとも、見てくれの良い女性には、簡単に目が引かれてしまった。
 若く見えるのに全てが真っ白な髪であること、身体の凹凸が思ったよりハッキリしていていやらしく見えたこと……だけじゃない。

(なんか……寂しそうな目)

 昔日に思いを馳せるような、或いは故人を悼むような。
 何とも言えず寂しい目をしていたところに引かれたのか。
 思わず見とれている内、気が付けば、女性の方もこちらに目を向けていた。

 視線が交錯する。
 女性は、疑いようもなく自分の目を真っすぐ捉えている。
 ――その瞳は、暗がりでも分かるくらいに真っ赤で。

 …………まずい。
 本能的に、そう思った。

 意識が、現実に引き戻された。
 都会の方では、立ちんぼ、援助交際、パパ活なんてものが横行しているという話を聞いたことがある。
 互い了承の上であっても、それを後々訴えられて刑事事件にまで発展したり、どちらか或いは両方ともが、自殺他殺と命を落とすケースもあるという。

 そんなのはごめんだ。
 いくら綺麗な人だと見惚れたところで、自分がその人と何かなるようなことには、なりたくない。
 こういう時は、何か一つでも情報を得てしまう前に、与えてしまう前に、さっさと退散してしまうのが吉。

 思い立ってからは早かった。
 そして、速かった。

 皐月は思い切って踏み込むと、大きな足音は気にしないまま、家を目指して全力で走り始めた。
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