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第3章 『雪解け』
10.目的
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ふたりが連れ立って監視所を出たその後で、他と比べて幾らか綺麗な瓦礫の上に美弥を寝かせ、自分たちも腰を落ち着けた。
紗雪の隣にちょこんと座るミツキは、取り乱してこそいないものの、相当に衝撃の大きな出来事だったのか、一言も発さない。
ただ紗雪の袖を掴み、俯き、黙り込んでしまっている。
「奴の目的は何なのでしょう……」
「分からないけど――酒吞童子を親父だって言っていた以上、やっぱり妖と、僕の元居た世界ってことになるのかな」
ユウがそれを当然のことのように言うのは、紗雪も巡礼への参加が決まっており、予てよりそれら情報については口頭と文面で説明を受け、ある程度知っているからである。
ミツキに関しては知らないことだろうが、元より世界の何も知らない身、知られたところでさほど害はない。
「でもそうなると、美弥さんだけ生かしていた理由が分からない。あれじゃあ、まるで……」
「挑発、のつもりなのでしょうね。私たちを嘲笑い、楽しんでいるのでしょう。美弥さんをわざわざ生かしておいたのも、そこに自身について名乗ったのも、私たちへの伝達目的――一つ残らず命を奪ってしまっては、自身の存在を仄めかせる口がなくなってしまいますから。本当に、癪に障る下郎です」
紗雪は唇を強く噛み、怒りの色を露わにする。
一行を誘い、楽しんでいるのは明白だった。
被害箇所が、一行の目指す先である東方の第一監視所であること。
わざわざ非戦闘員である、それも癒術師である美弥を選び、残しておいたこと。
ざっと見回している中で気付いた、他非戦闘員に限って、不必要に酷い殺され方であったこと。
「空と漢那が戻って来るまででも、生存者がいないかもう少し調べておくよ」
立ち上がり、辺りを見回しながらユウが言う。
「ええ、そうですね。ユウはあちらを、私は――」
「雪姉は、ミツキと一緒にいてあげて。こんな中をあまりあちこち連れまわす訳にもいかないし」
「……そうですね。すみません、頼みました、ユウ」
「うん。雪姉は怪我もしてるんだし、一緒にちょっとゆっくりしてて」
それだけ言うと、ユウは監視所の中を散策し出した。
紗雪の隣にちょこんと座るミツキは、取り乱してこそいないものの、相当に衝撃の大きな出来事だったのか、一言も発さない。
ただ紗雪の袖を掴み、俯き、黙り込んでしまっている。
「奴の目的は何なのでしょう……」
「分からないけど――酒吞童子を親父だって言っていた以上、やっぱり妖と、僕の元居た世界ってことになるのかな」
ユウがそれを当然のことのように言うのは、紗雪も巡礼への参加が決まっており、予てよりそれら情報については口頭と文面で説明を受け、ある程度知っているからである。
ミツキに関しては知らないことだろうが、元より世界の何も知らない身、知られたところでさほど害はない。
「でもそうなると、美弥さんだけ生かしていた理由が分からない。あれじゃあ、まるで……」
「挑発、のつもりなのでしょうね。私たちを嘲笑い、楽しんでいるのでしょう。美弥さんをわざわざ生かしておいたのも、そこに自身について名乗ったのも、私たちへの伝達目的――一つ残らず命を奪ってしまっては、自身の存在を仄めかせる口がなくなってしまいますから。本当に、癪に障る下郎です」
紗雪は唇を強く噛み、怒りの色を露わにする。
一行を誘い、楽しんでいるのは明白だった。
被害箇所が、一行の目指す先である東方の第一監視所であること。
わざわざ非戦闘員である、それも癒術師である美弥を選び、残しておいたこと。
ざっと見回している中で気付いた、他非戦闘員に限って、不必要に酷い殺され方であったこと。
「空と漢那が戻って来るまででも、生存者がいないかもう少し調べておくよ」
立ち上がり、辺りを見回しながらユウが言う。
「ええ、そうですね。ユウはあちらを、私は――」
「雪姉は、ミツキと一緒にいてあげて。こんな中をあまりあちこち連れまわす訳にもいかないし」
「……そうですね。すみません、頼みました、ユウ」
「うん。雪姉は怪我もしてるんだし、一緒にちょっとゆっくりしてて」
それだけ言うと、ユウは監視所の中を散策し出した。
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