千年巡礼

石田ノドカ

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第3章 『雪解け』

16.教えろよ

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 目覚めたユウは、起き抜けの脳を全力で回転させ、そこに紗雪の姿がないことをすぐに察した。
 問い詰める相手は無論、今ここで唯一起きている漢那。
 しかし当の漢那は何も言わず、ただユウに強く厳しい視線を向けるばかり。

「漢那、雪姉はどこに行ったんだ?」

「言えん」

「威吹山の方?」

「言えん」

「頼むよ。どこに行ったんだ?」

「――言えん」

「漢那……これで最後だよ。どこに行ったんだ?」

「言えん…!」

「漢那、どうして…! お前、雪姉のことが好きなんだって言ってただろ? それで何で、あの妖魔の元へ行くのを止めなかったんだよ…! 口癖みたいに『俺が護る』って言ってたのは、嘘だったのか…!?」

「……言えん」

「漢那…!」

 思わず胸倉を掴み、引き寄せる。
 それでも漢那は、厳しい表情を綻ばせることはない。

「…………雪女さんの意志は、お前さんが思う程軽いもんじゃない。確たる覚悟とお前さんへの思いを以ってここを発ったのだ。それがどれほど大きいものか、お前さんには分かると言うのか? 少なくとも、儂には想像も出来ん程に大きいものだったが」

「そんなことは――」

 ない、とは言えなかった。
 分からなかったからだ。

 狙われているのは自分。
 誘い出されたのは自分。

 それなのに、紗雪が単身出て行ってしまった理由が。
 思い当たる節が、無かった。

 …………いや。思い当たる節なら、あった。分かっていた筈だ。

 紗雪が誰にも見せない、自分にだけ向けてくれる、あの柔らかく温かな笑顔。
 彼女が身を投じる理由なんて、それだけで十分だったのだ。

 他でもない、自分自身がそうだったのだから。

 だからだ。
 こんなにも、苛々してしまうのは。

「……なぁ、教えてくれよ」

「言えん」

「教えろよ…!!」

 耳を劈く程の声量にも、漢那は一点「言えん」とだけ張る。
 しかしすぐに、その身を包む雰囲気が変わっていっていることにも気が付いた。
 あの時のように――いや、それ以上に。

「ユウ、お前……」

 嫌な雰囲気の正体は、言い知れぬ、触れたことのない『妖気』。

「教えろよ、漢那――雪姉はどこへ向かったんだよ」

 更には聞いたことのない声色と口調で聞こえたことも加えて、漢那はいよいよ以って口を噤むことが出来なくなった。
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