千年巡礼

石田ノドカ

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第3章 『雪解け』

20.脱退

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 後日。
 ユウは、咲夜の元を訪れていた。
 狐乃尾脱退の旨を伝える為だった。

「――承知致しました」

 心の内までは話さなかったが、表情と声音から、それは咲夜にも痛い程伝わっていた。
 その為か、咲夜はあまり何も言わないまま、ユウの言葉を飲み込み頷いた。

「貴方には、元よりそのつもりで過ごして頂く筈だったのです。これまで、よく頑張ってくださいました。改めて御礼を申し上げます」

「いえ……人の身には過ぎた目標でした。僕の力では妖を――仲間を護ることは、出来ません。大人しく、咲夜様が巡礼を終えるまで待っています」

「……ええ。ゆっくりなさってください」

 最後に一度小さく会釈をすると、ユウはそのまま庭園を後にした。
 その後ろ姿を、後からやって来ていた菊理は、厳しい視線で見送っていた。

「私たちには、当たり前のような出来事ですが――まだ十数年しか生きていない彼には、重過ぎる出来事だったようですね」

「選んだのはあいつだ。努力も本物だった。しかし、だからといって親しい者を失う悲しみは、我々とて同じくらい辛い。紗雪は、尾っぽの中でもとりわけ民衆と仲が良かった。それでどれだけ上層部の我々が救われてきたか。馬鹿弟子も、紗雪とは本当の姉弟同然に仲が良かったのだからな」

「ええ……そうですね」

「前を向くにも立ち止まるにも、今はとにかく時間が必要だ。私だって、それは理解している。だがそれには、我々が何かを尽くしたところで意味はない」

「妖だから、ですか?」

「いや。私たちが、あいつより遥かに強いからだ」

 その言葉の真意を汲み取ることが出来ず、咲夜は首を傾げて続く言葉を待った。

「なに、じきに分かるさ。あの子・・・はあいつにとって、とびきり効果のある特効薬になるだろうからな」

 意味深なことを言うだけ言って、菊理は踵を返す。

「クク、この後はまだ――」

「すまんが、今日はお前とハクに任せる。私は別件を思い出した」

「えっ――って、ちょっと、クク…!」

 咲夜の言葉もサラリと躱して、菊理も庭園を後にする。
 取り残された咲夜は、何のことやら分からず、ただその背を見送った。
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