千年巡礼

第３章 『雪解け』

26.手紙

　ユウへ。

　貴方がこれを読んでいる頃には、きっと私の身に何かが起きてしまったのでしょう。
　それが、悲しいものでないことを祈るばかりです。
　私は、この生涯を、貴方の為に使うと決めたのですから。

　十年、というのは、短いものですね。
　あの頃、私の腰ほどまでしかなかった背丈が、今では私を追い抜いているというのですから、驚きです。
　身も心も、本当に大きくなりましたね。
　けれど、数百年生きている私からすると、やっぱりどこか可愛くて。

　私は、ニンゲンというものについてそれほど詳しくはありませんが、我々妖とは随分と違う生き物であることは理解しています。
　そんな貴方が、異種族である我々の為、誰にでも優しく平等に手を差し伸べ、その所為で招集に遅れている姿を何度も見てきました。
　あのような無償の愛を、異種族である我々に向けられるなんて。
　普通のことではない、特別な気概を持った方なのだと、常々思っておりました。

　思えば、それを知ってからでしょうか。
　私は貴方に、とても強く惹かれるようになりました。

　我々妖は、転生輪廻すると信じられてはいますが、本当のところ、その真偽は分かりません。というのも、妖の中でもとりわけ長命な雪女ですら、過去存在した雪女の生まれかわりに出会った等という話は一切なかったのです。
　例に漏れず、私もそのような経験はございません。
　ですが私は、本当に生まれ変わることは出来るのだと思っています。ただの、予感です。
　でも、ユウも知っての通り、私の予感はよく当たりますから。
　そう信じて、次の生を待つことと致します。

　もし生まれ変われたなら、その時は、私は必ず貴方に会いに行きます。
　どれだけの年月を要するかは分かりませんが、なるべく早く新たな命で生まれ、貴方がどこにいようと探しに行きます。
　ですからどうか、しっかりと生きて、それまで待っていてください。
　その時に、私の気持ちへの返答を頂きたいと思います。

　また、次の生でお会いしましょう。

　紗雪