婚約破棄された家出令嬢の私、大好きな人に弟子入り! 溺愛は全然必要ありません!

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27話 二人で銀箔作り

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「?」
「いかがされましたか?」
「いや、見られてる気がして」

 それはたぶん私を見ている。
 王宮直轄の復興従事者たちだ。いくらか見たことある顔ぶれだから、あっちも同じように気づいたのだろう。けど、ここで正体がバレるわけにはいかない。スムーズに新しい銀で銀細工を作りたいからだ。
 地元民に知り合いがいない自負はあったけど、まだ王宮直轄の復興従事者が残っていたなんて……一度戻ったはずなのに再開したのは理由があるのかしら。

「きっと他国の伯爵様が復興に従事しているからでしょう。ソッケ王国の貴族は普段率先して復興作業をあまりしないんです」
「そっか」

 ふう。なんとか誤魔化せた。
 あとでアリスにお願いしておくしかない。

「出来る限り進めたいから、銀箔と銀糸にしてみよう」
「楽しみです!」

 当然銀細工作りが優先されるけど、空いた時間は復興の手伝いをすることになった。そのことを現場の方々に伝えると驚かれつつ復興従事を許される。
 かつてはシャーリー様が行っていた。今はもうシャーリー様は復興作業ができないけど、代わりに私が少しでもできればいいなとも思えた。
 なにより、バーツ様と一緒に銀をとるのも復興作業も充実した時間だ。
 戦争という憂いもなく、やりたいことをやれる時間がこんなにも癒しになるとは新しい発見だった。

「ティルボーロン伯爵様」

 宿に戻ると手紙が着ていてバーツ様は「すぐに返事をする」と言って部屋に戻る。銀箔作りは手紙の返事を書いてからになった。

「エーヴァ様にもございます」
「ありがとうございます」

 アリスからの手紙だった。場所をソッケ王国に移したことは伝えていたから全文暗号で書かれている。仮に宿の関係者や辺境伯の手に渡っても問題ない。

「……え」

 新しい銀が出る場所で鉱石が多く出ているからか、現場に視察として王宮の役職級が来る。
 これは面倒なことになりそう。
 加えて現場の復興従事者に私のことで箝口令をしいてくれたらしく、見るだけで声をかけてこなかったのはアリスのおかげだと分かった。ありがたいわね。
 そして最後。あまりにこの現場の情報が入らなかったのはやはり内部で情報操作があったからのようだった。シャーリー様が復興活動に従事している部分を国民に知られると支持が上がり不利になるとあのろくでなしが考えて指示していたと。どこまでにいってもろくでなしね。
 けど、私たちがここに来た。この場所に関することは今後動いていく。

「エーヴァ」

 ドアを叩かれバーツ様が声をかけてくれた。
 銀箔と銀糸作りをする時間になったようだ。私は簡単に返事を書いた手紙を階下、宿の担当者に渡して銀箔作りに入った。

「環境としては悪くなさそうだから、うまく銀糸まで作れると思う」

 バーツ様が持っている流通ルートで、東の大陸から手に入れた紙と漆を使う。銀を溶かす道具は魔道具で魔法が使えない人間でも扱える代物だ。
 私もバーツ様を習って職権乱用で銀の取り扱いをしている商人を特定して同じものを頼んだ記憶がある。私は滅多に会えなくて銀糸が手に入らなかったけどバーツ様は定期的に入手してるようだ。

「見たところは今までよく見る銀と変わりなさそうですが」

 銀を溶かし固まらせ、それを叩いた時に違いが出た。

「柔らかい」
「銀箔にしやすいですね」

 そのまま紙に貼り、バーツ様があらかじめ入手した箱の中にいれる。これは湿度というものが必要で、箱の中でそれが保てる魔道具だ。魔道具なしでもできるけど、こっちの方が圧倒的に精度が高い。

「これなら一昼夜でできる」
「全然違いますね!」

 きっとこの銀の違いが判り、喜んでいるのは私達だけだろう。他の人には到底わからない。 
 けど、"私とバーツ様しか分からない"は特別な感じがして優越感もあって好きだ。

「食事まで時間があるけど少し作る?」
「ぜひ!」

 あらかじめ持ってきていた銀糸で細工を作ることにした。
 相変わらず作業中のバーツ様の表情は美しい。ずっと見ていられるけど、私も銀細工は作りたいから自分の手元にも集中しないと。

* * *

「気持ちが高ぶりすぎて作りすぎた」
「仕方ないです! あの銀箔を糸にして早く細工を作りたいですし!」
「そうなんだよね」

 いつもよりハイペースで作ってしまった。

「うん。エーヴァの細工、良くなってる」
「ありがとうございます!」
「元々得意だったのかな。この部分いいね」
「私はバーツのこちらが好きです!」
「僕も」

 その「僕も」がどういう意味合いなのかきちんと分かる。だって眦は下がっていつになく柔らかく微笑むのだもの。
 好きな気持ちと失う怖さがせめぎ合う。大丈夫。バーツ様は、裏切るなんてことはない。

「……はい」
「うん、ありがとう」

 でも無理しないで、と同じように微笑む。
 全て筒抜けでも優しい言葉をかけてくれるバーツ様に胸が苦しくなった。
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