27 / 59
27話 二人で銀箔作り
しおりを挟む
「?」
「いかがされましたか?」
「いや、見られてる気がして」
それはたぶん私を見ている。
王宮直轄の復興従事者たちだ。いくらか見たことある顔ぶれだから、あっちも同じように気づいたのだろう。けど、ここで正体がバレるわけにはいかない。スムーズに新しい銀で銀細工を作りたいからだ。
地元民に知り合いがいない自負はあったけど、まだ王宮直轄の復興従事者が残っていたなんて……一度戻ったはずなのに再開したのは理由があるのかしら。
「きっと他国の伯爵様が復興に従事しているからでしょう。ソッケ王国の貴族は普段率先して復興作業をあまりしないんです」
「そっか」
ふう。なんとか誤魔化せた。
あとでアリスにお願いしておくしかない。
「出来る限り進めたいから、銀箔と銀糸にしてみよう」
「楽しみです!」
当然銀細工作りが優先されるけど、空いた時間は復興の手伝いをすることになった。そのことを現場の方々に伝えると驚かれつつ復興従事を許される。
かつてはシャーリー様が行っていた。今はもうシャーリー様は復興作業ができないけど、代わりに私が少しでもできればいいなとも思えた。
なにより、バーツ様と一緒に銀をとるのも復興作業も充実した時間だ。
戦争という憂いもなく、やりたいことをやれる時間がこんなにも癒しになるとは新しい発見だった。
「ティルボーロン伯爵様」
宿に戻ると手紙が着ていてバーツ様は「すぐに返事をする」と言って部屋に戻る。銀箔作りは手紙の返事を書いてからになった。
「エーヴァ様にもございます」
「ありがとうございます」
アリスからの手紙だった。場所をソッケ王国に移したことは伝えていたから全文暗号で書かれている。仮に宿の関係者や辺境伯の手に渡っても問題ない。
「……え」
新しい銀が出る場所で鉱石が多く出ているからか、現場に視察として王宮の役職級が来る。
これは面倒なことになりそう。
加えて現場の復興従事者に私のことで箝口令をしいてくれたらしく、見るだけで声をかけてこなかったのはアリスのおかげだと分かった。ありがたいわね。
そして最後。あまりにこの現場の情報が入らなかったのはやはり内部で情報操作があったからのようだった。シャーリー様が復興活動に従事している部分を国民に知られると支持が上がり不利になるとあのろくでなしが考えて指示していたと。どこまでにいってもろくでなしね。
けど、私たちがここに来た。この場所に関することは今後動いていく。
「エーヴァ」
ドアを叩かれバーツ様が声をかけてくれた。
銀箔と銀糸作りをする時間になったようだ。私は簡単に返事を書いた手紙を階下、宿の担当者に渡して銀箔作りに入った。
「環境としては悪くなさそうだから、うまく銀糸まで作れると思う」
バーツ様が持っている流通ルートで、東の大陸から手に入れた紙と漆を使う。銀を溶かす道具は魔道具で魔法が使えない人間でも扱える代物だ。
私もバーツ様を習って職権乱用で銀の取り扱いをしている商人を特定して同じものを頼んだ記憶がある。私は滅多に会えなくて銀糸が手に入らなかったけどバーツ様は定期的に入手してるようだ。
「見たところは今までよく見る銀と変わりなさそうですが」
銀を溶かし固まらせ、それを叩いた時に違いが出た。
「柔らかい」
「銀箔にしやすいですね」
そのまま紙に貼り、バーツ様があらかじめ入手した箱の中にいれる。これは湿度というものが必要で、箱の中でそれが保てる魔道具だ。魔道具なしでもできるけど、こっちの方が圧倒的に精度が高い。
「これなら一昼夜でできる」
「全然違いますね!」
きっとこの銀の違いが判り、喜んでいるのは私達だけだろう。他の人には到底わからない。
けど、"私とバーツ様しか分からない"は特別な感じがして優越感もあって好きだ。
「食事まで時間があるけど少し作る?」
「ぜひ!」
あらかじめ持ってきていた銀糸で細工を作ることにした。
相変わらず作業中のバーツ様の表情は美しい。ずっと見ていられるけど、私も銀細工は作りたいから自分の手元にも集中しないと。
* * *
「気持ちが高ぶりすぎて作りすぎた」
「仕方ないです! あの銀箔を糸にして早く細工を作りたいですし!」
「そうなんだよね」
いつもよりハイペースで作ってしまった。
「うん。エーヴァの細工、良くなってる」
「ありがとうございます!」
「元々得意だったのかな。この部分いいね」
「私はバーツのこちらが好きです!」
「僕も」
その「僕も」がどういう意味合いなのかきちんと分かる。だって眦は下がっていつになく柔らかく微笑むのだもの。
好きな気持ちと失う怖さがせめぎ合う。大丈夫。バーツ様は、裏切るなんてことはない。
「……はい」
「うん、ありがとう」
でも無理しないで、と同じように微笑む。
全て筒抜けでも優しい言葉をかけてくれるバーツ様に胸が苦しくなった。
「いかがされましたか?」
「いや、見られてる気がして」
それはたぶん私を見ている。
王宮直轄の復興従事者たちだ。いくらか見たことある顔ぶれだから、あっちも同じように気づいたのだろう。けど、ここで正体がバレるわけにはいかない。スムーズに新しい銀で銀細工を作りたいからだ。
地元民に知り合いがいない自負はあったけど、まだ王宮直轄の復興従事者が残っていたなんて……一度戻ったはずなのに再開したのは理由があるのかしら。
「きっと他国の伯爵様が復興に従事しているからでしょう。ソッケ王国の貴族は普段率先して復興作業をあまりしないんです」
「そっか」
ふう。なんとか誤魔化せた。
あとでアリスにお願いしておくしかない。
「出来る限り進めたいから、銀箔と銀糸にしてみよう」
「楽しみです!」
当然銀細工作りが優先されるけど、空いた時間は復興の手伝いをすることになった。そのことを現場の方々に伝えると驚かれつつ復興従事を許される。
かつてはシャーリー様が行っていた。今はもうシャーリー様は復興作業ができないけど、代わりに私が少しでもできればいいなとも思えた。
なにより、バーツ様と一緒に銀をとるのも復興作業も充実した時間だ。
戦争という憂いもなく、やりたいことをやれる時間がこんなにも癒しになるとは新しい発見だった。
「ティルボーロン伯爵様」
宿に戻ると手紙が着ていてバーツ様は「すぐに返事をする」と言って部屋に戻る。銀箔作りは手紙の返事を書いてからになった。
「エーヴァ様にもございます」
「ありがとうございます」
アリスからの手紙だった。場所をソッケ王国に移したことは伝えていたから全文暗号で書かれている。仮に宿の関係者や辺境伯の手に渡っても問題ない。
「……え」
新しい銀が出る場所で鉱石が多く出ているからか、現場に視察として王宮の役職級が来る。
これは面倒なことになりそう。
加えて現場の復興従事者に私のことで箝口令をしいてくれたらしく、見るだけで声をかけてこなかったのはアリスのおかげだと分かった。ありがたいわね。
そして最後。あまりにこの現場の情報が入らなかったのはやはり内部で情報操作があったからのようだった。シャーリー様が復興活動に従事している部分を国民に知られると支持が上がり不利になるとあのろくでなしが考えて指示していたと。どこまでにいってもろくでなしね。
けど、私たちがここに来た。この場所に関することは今後動いていく。
「エーヴァ」
ドアを叩かれバーツ様が声をかけてくれた。
銀箔と銀糸作りをする時間になったようだ。私は簡単に返事を書いた手紙を階下、宿の担当者に渡して銀箔作りに入った。
「環境としては悪くなさそうだから、うまく銀糸まで作れると思う」
バーツ様が持っている流通ルートで、東の大陸から手に入れた紙と漆を使う。銀を溶かす道具は魔道具で魔法が使えない人間でも扱える代物だ。
私もバーツ様を習って職権乱用で銀の取り扱いをしている商人を特定して同じものを頼んだ記憶がある。私は滅多に会えなくて銀糸が手に入らなかったけどバーツ様は定期的に入手してるようだ。
「見たところは今までよく見る銀と変わりなさそうですが」
銀を溶かし固まらせ、それを叩いた時に違いが出た。
「柔らかい」
「銀箔にしやすいですね」
そのまま紙に貼り、バーツ様があらかじめ入手した箱の中にいれる。これは湿度というものが必要で、箱の中でそれが保てる魔道具だ。魔道具なしでもできるけど、こっちの方が圧倒的に精度が高い。
「これなら一昼夜でできる」
「全然違いますね!」
きっとこの銀の違いが判り、喜んでいるのは私達だけだろう。他の人には到底わからない。
けど、"私とバーツ様しか分からない"は特別な感じがして優越感もあって好きだ。
「食事まで時間があるけど少し作る?」
「ぜひ!」
あらかじめ持ってきていた銀糸で細工を作ることにした。
相変わらず作業中のバーツ様の表情は美しい。ずっと見ていられるけど、私も銀細工は作りたいから自分の手元にも集中しないと。
* * *
「気持ちが高ぶりすぎて作りすぎた」
「仕方ないです! あの銀箔を糸にして早く細工を作りたいですし!」
「そうなんだよね」
いつもよりハイペースで作ってしまった。
「うん。エーヴァの細工、良くなってる」
「ありがとうございます!」
「元々得意だったのかな。この部分いいね」
「私はバーツのこちらが好きです!」
「僕も」
その「僕も」がどういう意味合いなのかきちんと分かる。だって眦は下がっていつになく柔らかく微笑むのだもの。
好きな気持ちと失う怖さがせめぎ合う。大丈夫。バーツ様は、裏切るなんてことはない。
「……はい」
「うん、ありがとう」
でも無理しないで、と同じように微笑む。
全て筒抜けでも優しい言葉をかけてくれるバーツ様に胸が苦しくなった。
12
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される
夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。
さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。
目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。
優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。
一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。
しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる