魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
5 / 82

5話 ラッキースケベ

しおりを挟む
「ふむ」

 轟いていた雷が城の一部を壊していたらしい。
 穴があいていたので、そこから城内に戻った。というか、爆発に巻き込まれた第三王太子殿下が少しずつ降下して城内に戻っていくから追いかけてという感じかな。
 にしても、この人とっても丈夫。
 俺つえええモードの攻撃って手加減してても意識は保てなかったはず。
 ま、これで諦めてくれるでしょ。
 城内に戻れば、焦る側近とお説教の一つでもたれそうな険しい顔のアステリが待っていた。

「帰ってくれる?」
「……しかし、」
「はいはーい、帰ります!」

 ちゃら男くんはきちんと状況読んだ。えらいぞ。

「ま、また明日、来る」
「ええ? 結構だよ……」

 肩を支えられながら、しぶとい第三王太子殿下は帰っていった。
 静まる城内に長い溜息が響く。
 アステリのものだ。

「お前……」
「ごめんて。モード解くにはやりきらないとだしさ」
「俺のダチだっつったろ」
「お友達割で、手加減したよ?」

 アステリの友達だから快く迎えたいけど、国の代表として来てるなら、敢えて嫌われるぐらいやって二度と来ないようにしないと。
 土地の使用権とか建築物や居住に対しての税金は後々お手紙でも出して払う手続きすればいいだろうし。
 自国パノキカトからは無事婚約破棄の手続きも済んで受領の書類も届いていた。
 後はさっさと精霊王にコンタクトとって聖女やめるだけなんだけどなー。

「アステリ、友達いたんだね」
「ひでえな。いるわ」
「どこで出会ったの? 社交界? でもあんまアステリ社交界来ないし」

 社交界、第三王太子殿下なら公で顔を見た記憶はあったけど、挨拶があまりいらないような軽いものならいなかった気もする。

「貴族院でだ。エフィもカロも同じ学年だったろうが」
「そうだっけ?」
「あー……まあお前いつも一人でいるか、取り巻きいるかだったな」
「やめてよ、取り巻きと呼べるほどの仲じゃない」

 聖女というだけで崇めようとするような人間はこちらからお断りだった。だから自ずと私の周囲に人は集まらなくなったし、婚約者である王太子殿下はピラズモス男爵令嬢に夢中で私の元に来ることはなかった。
 学生時代の遊びだと思って見て見ぬ振りしてたけど、まさか卒業しても関係が続いていたのだから面白い。
 というか、学生時代に見切りつけとけばよかった。一度目と二度目の私は浅慮だったなあ。
 そして我ながらテンプレなルートを辿ってるなあ。

「はあ……いいわ、もう寝よ」
「エフィたぶん来んぞ」
「俺つえええモードの直撃くらって来るわけないじゃん」
「んー……あいつは特殊というかなあ」
「はいはい。随分お友達をかってるのね」
「イリニ」

 アステリが何か言いかけるのを無視して自室に戻る。
 学生時代、特別な友達は作らなかった。王太子妃になることもあり貴族の派閥のことで教育係からあれやこれや言われていたから。

「いいな……」

 ベッドに潜り込んで、ぽつりと囁く。
 アステリが力の強さ故に孤独だと勝手に思い込んでいたのは私だ。
 その勝手を裏切られ、羨ましがるなんておかしいわね。


* * *


「うそ、来たの?」

 掃除でもしようかなとはたきを持って玉座の間に入ったら、既に第三王太子殿下と側近が来て待っていた。
 誰だ入れたの。
 誰もいないと思ってたから油断していた。何事もなかったかのように三角巾をとる。
 相手の眼差しが少し悲しそうに見えて、眉根を寄せて目を細めた。なに、私を見てその顔? 失礼じゃない?

「アステリを呼ぶわ」
「いや、俺は君と話が」
「結構よ」
「しかし」
「アステリの友達なんでしょ? 今呼んで来るわ」

 友達かあいいなあなんて、また考えてしまったのがよくなかった。昨日は寝るっていうから誤魔化せたけど、今は誤魔化せない。

「待ってくれ」

 王太子殿下が去ろうとする私の手をとった。
 反射的に手を払い、振り返ろうとして足がもつれた。

「うわ」
「君、」

 玉座は段差の上、必然的に僅かな階段を転がり落ちることになる。
 それを王太子殿下は私を抱き寄せ守ろうとした。
 その時にやっと気づく。
 やば、モード発動してた。

「……」
「っ……大丈夫、か?!」

 状態に気づいた王太子殿下の語尾が跳ね上がる。
 そりゃそうだろうな。

「……大変申し訳ございません」

 ゆっくり顔を離した。
 私の顔はものの見事に王太子殿下の股の間、端的に言えば股間にダイブしていた。
 よりにもよって今発動するんかい。

「……い、いや、問題ない。そ、それよりも怪我は?」
「ないです」
「そ、そうか」

 すると聞き慣れた足音が聞こえた。
 遅いよもう。

「お、なんだお前ら……ああ、ラッキースケベモードか?」
「え? ラッキー?」
「アステリ……」

 側近の人が身体震わせながら笑いを堪え、アステリには見下ろされながら指さされる。

「股間を枕にでもしたんだろ?」
「アステリ!」
「なんだよ。ホームシックだろ? 昨日なかったから不思議だったけどよ」
「これ以上喋らないで!」

 恥ずかしいわ。
 初対面の人にラッキースケベのことは知られたくない。
 これが聖女の力なんておかしいもの。

「あ、待てイリニ」
「違うんだから!」

 城の天井から何かが降りてきた。
 途端、出入り用の大きな扉からなだれ込んで来る城に住んでる魔物たち。
 どれも植物の蔓が巻き付いている。

「やっぱりイリニだ」
「ラッキースケベね!」
「ひえ」
「ぎゅする?」

 天井から降りてきた蔓がアステリや側近を捕らえようとしなる。生易しいものではなく、それはとても速い。目の前の王太子もかわしつつも勘違いしているのか私を守ろうとしている。
 攻め狂う蔓をかわしながら、アステリがこちらを見た。

「くっそ、おいエフィ! 今すぐ! イリニを抱け!」
「え?!」

 素っ頓狂な声が真上から聞こえる。
 だめ、それはいや。

「ばか、抱きしめんだよ!」
「え?」
「だめ!」
「人恋しい時にラッキースケベが起きんだよ! さっさとハグしろ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ
恋愛
今宵の舞踏会は、聖女シルヴィアが二人の王子のどちらに薔薇を捧げるのかで盛り上がっていた。 薔薇を捧げるのは求婚の証。彼女が選んだ王子が、王位争いの勝者となるだろうと人々は囁き交わす。 しかし、シルヴィアは薔薇を持ったまま、自信満々な第一王子も、気取った第二王子も素通りしてしまう。 彼女が薔薇を捧げたのは、呪われ大公と恐れられ、蔑まれるマテウスだった。 拒絶されるも、シルヴィアはめげない。 壁ドンで追い詰めると、強引に薔薇を握らせて宣言する。 「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」 ぐいぐい押していくシルヴィアと、たじたじなマテウス。 二人のラブコメディが始まる。 ※他サイトにも投稿しています

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

処理中です...