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5話 ラッキースケベ
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「ふむ」
轟いていた雷が城の一部を壊していたらしい。
穴があいていたので、そこから城内に戻った。というか、爆発に巻き込まれた第三王太子殿下が少しずつ降下して城内に戻っていくから追いかけてという感じかな。
にしても、この人とっても丈夫。
俺つえええモードの攻撃って手加減してても意識は保てなかったはず。
ま、これで諦めてくれるでしょ。
城内に戻れば、焦る側近とお説教の一つでもたれそうな険しい顔のアステリが待っていた。
「帰ってくれる?」
「……しかし、」
「はいはーい、帰ります!」
ちゃら男くんはきちんと状況読んだ。えらいぞ。
「ま、また明日、来る」
「ええ? 結構だよ……」
肩を支えられながら、しぶとい第三王太子殿下は帰っていった。
静まる城内に長い溜息が響く。
アステリのものだ。
「お前……」
「ごめんて。モード解くにはやりきらないとだしさ」
「俺のダチだっつったろ」
「お友達割で、手加減したよ?」
アステリの友達だから快く迎えたいけど、国の代表として来てるなら、敢えて嫌われるぐらいやって二度と来ないようにしないと。
土地の使用権とか建築物や居住に対しての税金は後々お手紙でも出して払う手続きすればいいだろうし。
自国パノキカトからは無事婚約破棄の手続きも済んで受領の書類も届いていた。
後はさっさと精霊王にコンタクトとって聖女やめるだけなんだけどなー。
「アステリ、友達いたんだね」
「ひでえな。いるわ」
「どこで出会ったの? 社交界? でもあんまアステリ社交界来ないし」
社交界、第三王太子殿下なら公で顔を見た記憶はあったけど、挨拶があまりいらないような軽いものならいなかった気もする。
「貴族院でだ。エフィもカロも同じ学年だったろうが」
「そうだっけ?」
「あー……まあお前いつも一人でいるか、取り巻きいるかだったな」
「やめてよ、取り巻きと呼べるほどの仲じゃない」
聖女というだけで崇めようとするような人間はこちらからお断りだった。だから自ずと私の周囲に人は集まらなくなったし、婚約者である王太子殿下はピラズモス男爵令嬢に夢中で私の元に来ることはなかった。
学生時代の遊びだと思って見て見ぬ振りしてたけど、まさか卒業しても関係が続いていたのだから面白い。
というか、学生時代に見切りつけとけばよかった。一度目と二度目の私は浅慮だったなあ。
そして我ながらテンプレなルートを辿ってるなあ。
「はあ……いいわ、もう寝よ」
「エフィたぶん来んぞ」
「俺つえええモードの直撃くらって来るわけないじゃん」
「んー……あいつは特殊というかなあ」
「はいはい。随分お友達をかってるのね」
「イリニ」
アステリが何か言いかけるのを無視して自室に戻る。
学生時代、特別な友達は作らなかった。王太子妃になることもあり貴族の派閥のことで教育係からあれやこれや言われていたから。
「いいな……」
ベッドに潜り込んで、ぽつりと囁く。
アステリが力の強さ故に孤独だと勝手に思い込んでいたのは私だ。
その勝手を裏切られ、羨ましがるなんておかしいわね。
* * *
「うそ、来たの?」
掃除でもしようかなとはたきを持って玉座の間に入ったら、既に第三王太子殿下と側近が来て待っていた。
誰だ入れたの。
誰もいないと思ってたから油断していた。何事もなかったかのように三角巾をとる。
相手の眼差しが少し悲しそうに見えて、眉根を寄せて目を細めた。なに、私を見てその顔? 失礼じゃない?
「アステリを呼ぶわ」
「いや、俺は君と話が」
「結構よ」
「しかし」
「アステリの友達なんでしょ? 今呼んで来るわ」
友達かあいいなあなんて、また考えてしまったのがよくなかった。昨日は寝るっていうから誤魔化せたけど、今は誤魔化せない。
「待ってくれ」
王太子殿下が去ろうとする私の手をとった。
反射的に手を払い、振り返ろうとして足がもつれた。
「うわ」
「君、」
玉座は段差の上、必然的に僅かな階段を転がり落ちることになる。
それを王太子殿下は私を抱き寄せ守ろうとした。
その時にやっと気づく。
やば、モード発動してた。
「……」
「っ……大丈夫、か?!」
状態に気づいた王太子殿下の語尾が跳ね上がる。
そりゃそうだろうな。
「……大変申し訳ございません」
ゆっくり顔を離した。
私の顔はものの見事に王太子殿下の股の間、端的に言えば股間にダイブしていた。
よりにもよって今発動するんかい。
「……い、いや、問題ない。そ、それよりも怪我は?」
「ないです」
「そ、そうか」
すると聞き慣れた足音が聞こえた。
遅いよもう。
「お、なんだお前ら……ああ、ラッキースケベモードか?」
「え? ラッキー?」
「アステリ……」
側近の人が身体震わせながら笑いを堪え、アステリには見下ろされながら指さされる。
「股間を枕にでもしたんだろ?」
「アステリ!」
「なんだよ。ホームシックだろ? 昨日なかったから不思議だったけどよ」
「これ以上喋らないで!」
恥ずかしいわ。
初対面の人にラッキースケベのことは知られたくない。
これが聖女の力なんておかしいもの。
「あ、待てイリニ」
「違うんだから!」
城の天井から何かが降りてきた。
途端、出入り用の大きな扉からなだれ込んで来る城に住んでる魔物たち。
どれも植物の蔓が巻き付いている。
「やっぱりイリニだ」
「ラッキースケベね!」
「ひえ」
「ぎゅする?」
天井から降りてきた蔓がアステリや側近を捕らえようとしなる。生易しいものではなく、それはとても速い。目の前の王太子もかわしつつも勘違いしているのか私を守ろうとしている。
攻め狂う蔓をかわしながら、アステリがこちらを見た。
「くっそ、おいエフィ! 今すぐ! イリニを抱け!」
「え?!」
素っ頓狂な声が真上から聞こえる。
だめ、それはいや。
「ばか、抱きしめんだよ!」
「え?」
「だめ!」
「人恋しい時にラッキースケベが起きんだよ! さっさとハグしろ!」
轟いていた雷が城の一部を壊していたらしい。
穴があいていたので、そこから城内に戻った。というか、爆発に巻き込まれた第三王太子殿下が少しずつ降下して城内に戻っていくから追いかけてという感じかな。
にしても、この人とっても丈夫。
俺つえええモードの攻撃って手加減してても意識は保てなかったはず。
ま、これで諦めてくれるでしょ。
城内に戻れば、焦る側近とお説教の一つでもたれそうな険しい顔のアステリが待っていた。
「帰ってくれる?」
「……しかし、」
「はいはーい、帰ります!」
ちゃら男くんはきちんと状況読んだ。えらいぞ。
「ま、また明日、来る」
「ええ? 結構だよ……」
肩を支えられながら、しぶとい第三王太子殿下は帰っていった。
静まる城内に長い溜息が響く。
アステリのものだ。
「お前……」
「ごめんて。モード解くにはやりきらないとだしさ」
「俺のダチだっつったろ」
「お友達割で、手加減したよ?」
アステリの友達だから快く迎えたいけど、国の代表として来てるなら、敢えて嫌われるぐらいやって二度と来ないようにしないと。
土地の使用権とか建築物や居住に対しての税金は後々お手紙でも出して払う手続きすればいいだろうし。
自国パノキカトからは無事婚約破棄の手続きも済んで受領の書類も届いていた。
後はさっさと精霊王にコンタクトとって聖女やめるだけなんだけどなー。
「アステリ、友達いたんだね」
「ひでえな。いるわ」
「どこで出会ったの? 社交界? でもあんまアステリ社交界来ないし」
社交界、第三王太子殿下なら公で顔を見た記憶はあったけど、挨拶があまりいらないような軽いものならいなかった気もする。
「貴族院でだ。エフィもカロも同じ学年だったろうが」
「そうだっけ?」
「あー……まあお前いつも一人でいるか、取り巻きいるかだったな」
「やめてよ、取り巻きと呼べるほどの仲じゃない」
聖女というだけで崇めようとするような人間はこちらからお断りだった。だから自ずと私の周囲に人は集まらなくなったし、婚約者である王太子殿下はピラズモス男爵令嬢に夢中で私の元に来ることはなかった。
学生時代の遊びだと思って見て見ぬ振りしてたけど、まさか卒業しても関係が続いていたのだから面白い。
というか、学生時代に見切りつけとけばよかった。一度目と二度目の私は浅慮だったなあ。
そして我ながらテンプレなルートを辿ってるなあ。
「はあ……いいわ、もう寝よ」
「エフィたぶん来んぞ」
「俺つえええモードの直撃くらって来るわけないじゃん」
「んー……あいつは特殊というかなあ」
「はいはい。随分お友達をかってるのね」
「イリニ」
アステリが何か言いかけるのを無視して自室に戻る。
学生時代、特別な友達は作らなかった。王太子妃になることもあり貴族の派閥のことで教育係からあれやこれや言われていたから。
「いいな……」
ベッドに潜り込んで、ぽつりと囁く。
アステリが力の強さ故に孤独だと勝手に思い込んでいたのは私だ。
その勝手を裏切られ、羨ましがるなんておかしいわね。
* * *
「うそ、来たの?」
掃除でもしようかなとはたきを持って玉座の間に入ったら、既に第三王太子殿下と側近が来て待っていた。
誰だ入れたの。
誰もいないと思ってたから油断していた。何事もなかったかのように三角巾をとる。
相手の眼差しが少し悲しそうに見えて、眉根を寄せて目を細めた。なに、私を見てその顔? 失礼じゃない?
「アステリを呼ぶわ」
「いや、俺は君と話が」
「結構よ」
「しかし」
「アステリの友達なんでしょ? 今呼んで来るわ」
友達かあいいなあなんて、また考えてしまったのがよくなかった。昨日は寝るっていうから誤魔化せたけど、今は誤魔化せない。
「待ってくれ」
王太子殿下が去ろうとする私の手をとった。
反射的に手を払い、振り返ろうとして足がもつれた。
「うわ」
「君、」
玉座は段差の上、必然的に僅かな階段を転がり落ちることになる。
それを王太子殿下は私を抱き寄せ守ろうとした。
その時にやっと気づく。
やば、モード発動してた。
「……」
「っ……大丈夫、か?!」
状態に気づいた王太子殿下の語尾が跳ね上がる。
そりゃそうだろうな。
「……大変申し訳ございません」
ゆっくり顔を離した。
私の顔はものの見事に王太子殿下の股の間、端的に言えば股間にダイブしていた。
よりにもよって今発動するんかい。
「……い、いや、問題ない。そ、それよりも怪我は?」
「ないです」
「そ、そうか」
すると聞き慣れた足音が聞こえた。
遅いよもう。
「お、なんだお前ら……ああ、ラッキースケベモードか?」
「え? ラッキー?」
「アステリ……」
側近の人が身体震わせながら笑いを堪え、アステリには見下ろされながら指さされる。
「股間を枕にでもしたんだろ?」
「アステリ!」
「なんだよ。ホームシックだろ? 昨日なかったから不思議だったけどよ」
「これ以上喋らないで!」
恥ずかしいわ。
初対面の人にラッキースケベのことは知られたくない。
これが聖女の力なんておかしいもの。
「あ、待てイリニ」
「違うんだから!」
城の天井から何かが降りてきた。
途端、出入り用の大きな扉からなだれ込んで来る城に住んでる魔物たち。
どれも植物の蔓が巻き付いている。
「やっぱりイリニだ」
「ラッキースケベね!」
「ひえ」
「ぎゅする?」
天井から降りてきた蔓がアステリや側近を捕らえようとしなる。生易しいものではなく、それはとても速い。目の前の王太子もかわしつつも勘違いしているのか私を守ろうとしている。
攻め狂う蔓をかわしながら、アステリがこちらを見た。
「くっそ、おいエフィ! 今すぐ! イリニを抱け!」
「え?!」
素っ頓狂な声が真上から聞こえる。
だめ、それはいや。
「ばか、抱きしめんだよ!」
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