魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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8話 ラッキースケベからのまたぎモード

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 ラッキースケベモードの解除方法は私の淋しさがまぎれること。
 その中で手っ取り早いのがハグ。だからラッキースケベが起きたら、とりあえず引っ付いてもらうことにしている。
 昨日に引き続き淋しさを少し抱えていたら、不可抗力とはいえラッキースケベでディアボロスのお尻を触ってしまって、仕方なしに抱きしめてもらった。
 本を読んでいれば、ただの椅子になっちゃうけど、余計なことを考えないためには手っ取り早い。
 なのにラッキースケベを忘れてきた頃にエフィたちがやってきて、エフィが変なことを言うから、ラッキースケベを忘れられない。
 まあ今淋しくないからいいんだけど。

「で、エフィ代わるか?」
「ああ、そうだな」

 ディアボロスとエフィの間でまとまった話通り、エフィが私のハグ係になろうとソファに座ろうとしてくる。

「いやだからいいってば」

 急いで立ち上がる。
 人恋しいのが知られることは恥ずかしいけどこの際仕方ない。
 けどそれとハグが同義にはならないでしょ。

「何故だ。ディアボロスが良くて俺が駄目な理由は」
「誰かが専属でなるものじゃないでしょ」
「不特定多数である必要もないだろ」
「てかもうモード解除してるから必要ないし。アステリ、城の案内引き続きよろしく」

 そう言って書庫から去る。
 エフィはまだ話足りなそうだけど無視だ。
 なんだか変なのが居座ることになったなー。
 後ろからディアボロスがついてきて、途中一度振り向いて彼らを確認してから小首を傾げた。

「イリニいいのか? エフィ置いていって」
「いいの。彼はお客様よ。すぐに帰るから」

 そうだ彼には帰るべき場所がある。こんな魔王の住む城ではなく、王子としているべき正しい城が彼にはあるのに。

「じゃ、俺もいく」
「うん、じゃあね」

 大きな背中の羽をはためかせ飛んでいった。
 エフィに慣れるまで時間かかりそうだし、何か気晴らししようかな。
 美味しいご飯でも作って食べるか。いや折角ならもっとこうワイルドに攻めたいというか、ストイックにいきたいというか。

「あ」

 モードきたわ。
 せっかくだし、モード解除まで楽しもうかな。

* * *

「……その姿は?」
「またぎモードがきた」

 毛皮を羽織って、藁で仕上げた被り物の編み笠被っている。こっちの世界の文化になさそうだもんね。
 引き気味なのも分かるけど、そこまで見なくてもいいと思う。
 隣でアステリが半笑いでエフィに声をかけた。

「あー……自分で狩りして自分でジビエ料理したい時に出るやつ」

 ちなみにただ美味しいご飯作るだけのモードはシェフモードだ。
 またぎモードはより野性的で男料理みたくなる。
 まあ分かってもらわなくていいんだけど。

「……ふむ、ならば俺も行こう」
「ええ?」

 なんでそうなるのよ。

「まさか監視のため? シコフォーナクセーにとって聖女が害になるか監視してるの?」
「? 何言ってるんだ。俺は君の近くにいたいから一緒に行くんだ」
「あ、そ……」

 分からない。しらばっくれているのかもしれないんだけど、どうにもエフィの本音が見えない。
 私は聖女で強い力を持っているけど、アステリみたく人の心内とか中身が見えるスキルはなかった。
 だから、エフィの意図するところが分からない。 
 でもついてくることだけは譲る気もなさそうだったから、狩りの同行を許した。
 森の中を駆け走る私に息を乱さずついてくるエフィ。
 さすが騎士。

「私たち話したことある? あ、社交界抜いてね」
「……貴族院にいた時に数える程しか」
「あー、そこねえ」

 三国集まる貴族院という名の学び屋。
 王太子殿下ももれなくここに通う。

「同い年だっけ?」
「そうだ。俺はアステリとカロとよく行動を共にしていて」
「ふうん」
「……よく、君を見かけた」

 一人裏庭のガゼボで本を読んでいたり、書庫の端っこにある窓辺にいたりとかその程度。
 この程度の認識なら、結婚云々はやっぱりシコフォーナクセー国王陛下の指示なんだろうな。
 結婚して聖女を国に縛り付ける。そして利を得る。今度はシコフォーナクセーに結界でも張れって?
 それは最悪だな。
 私はもう聖女やめるんだから勘弁して。

「そんな見かける程度だったのに……貴方もいい子ちゃんが好きなの?」
「エフィだ」

 妙なところにこだわりあるな。

「エフィは聖女の私がいいわけ?」
「? イリニが聖女であってもなくても変わりないだろ?」
「え? 私今魔王呼ばわりだよ? 癒しの象徴から恐怖の象徴にジョブチェンジしてるんだけど?」

 ジョブ? と小首を傾けてるけど説明面倒だから無視した。
 全部見たアステリはこの言葉遣いに綺麗に対応してくれるからな。

「最初にあんなに驚いていたから、エフィも聖女をお求めなのかと思ってた」
「ああ、確かに驚いたが……」

 今の姿ほどではないとエフィ。
 まあ、またぎですから。
 と、樹海の中、気配を察知して止まる。屈むように伝えれば、背の高い身体を低くして私の隣に控えた。

「よしよし、鹿だ」

 とはいっても、鹿に近い味がする魔物なんだけど。見た目も鹿なんだよねえ。

「それで仕留めるのか」
「うん。またぎといえば猟銃、狩りといえば猟銃よ」

 魔法で具現化した猟銃。服装的には槍かなとも思うけど、出てきたのは猟銃だから、これで狩りをしろということ。
 この世界には馴染みないものだから、エフィも興味があるらしい。
 本当は魔法を使って捕らえた方がいいんだろうけど、そこはモード。不自由さがややある。

「まあ見てて」

 狙いを定めて一撃、乾いた音と共に鹿が倒れる。
 近寄れば一発で仕留めていた。さすがまたぎモード。
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