魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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38話 シコフォーナクセー王城へ

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「エフィにとって、どれも大事なだけでしょ? 私は素敵なことだと思うけど」
「……イリニは自分を犠牲してないか? 少しは我が儘を言っても」
「してないよ。私は自分最優先にしてるもの」

 にしても我が儘……うーん。
 確かにエフィにはお願いあまりしてないかな?
 ハグ係やめてとか、ついてこないでとかはきいてもらえないし。

「しいていうなら、エフィの願い全部叶えて」
「え?」
「どれかが叶わないなんてないでしょ」

 そう言えたのがなんだかすごい気がした。
 今までの私なら、真っ先に自分の感情を抑えて周囲の幸せをとるだろう。
 今のエフィの立場で例えるなら、私を王城に軟禁してシコフォーナクセーの利をとる。勿論、賓客として扱うから贅沢な暮らしを保証されるけど、そこに私の求める自由はない。その自由を諦める、これが以前の私。
 けど今の私は、私自身の自由を最善でとりつつ、周囲も幸せにする方法をがあると知っているし、それが叶うと思っている。だから、エフィにああ言えた。

「俺は……あの城に戻る」

 イリニと一緒に、とぽつりと話すエフィの握る手に力が入った。

「分かった。私も諦めてたとこあったけど、王陛下にお願いしてエフィと帰れるよう頑張るよ」
「いいのか」
「うん」

 エフィは戻らないと思っていてそれが伝わっていたから、エフィをこんなに落ち込ませたのかもしれない。
 そこは私の望む気持ちを言わないとか。うっかりしてた。私もまだまだだな。

「イリニは一人がいいのかって」
「最初は一人がよかったけど……その、今は、」

 少し恥ずかしいけど、今のエフィにはきちんと伝えた方がいい。

「エフィいないと、淋しくなりそうだし」
「え?」
「今の賑やかさがないと、嫌だなーって」

 というか、きっかけになった魔力枯渇の時にきちんとエフィに城にいてほしいってことは言ったし。
 なんでもう一度伝えなきゃいけないの。

「そうか」
「あー、色々誤解を招いてごめんね?」
「本音を隠すな」
「ごめんて」

 恥ずかしいし、あまり真面目に語りたくないんだって。
 
「あ、戻ってくるならハグ係とか、いつもついてくるとかはいらないよ?」
「それは譲れない」

 エフィってば、そこ譲れないのに城追い出されるって思ってたわけ?

「住民票移動と固定資産税納付だから、すぐ終わるよ」
「前から言ってる、そのじゅうみんひょうはなんだ」

 ここの言葉じゃなかったね。でもおかげでエフィの極端な落ち込みはなくなった気がする。
 エフィの肩が少し抜けたし、変わったウンチク話して、もうちょっと和んだ空気にしようかな。

「お二人さん、ついたよー」

 話をしてしばらく、カロが呼んだ。
 エフィが先に出て、おりようと身を乗り出したらエフィが当たり前のように手を差し出す。

「ありがと」
「ああ」

 カロか反対側から耳打ちしてきた。

「イリニちゃん、ありがと」
「ん?」
「エフィのテンション、どうにかしてくれたっしょ?」
「ああ、そこね」
「どうした」
「なんでもない」

 エフィに連れられ先を進む。

「カロと何を」
「たいしたことじゃないよ」
「……」
「エフィ?」
「ヘソ曲げんなよー」
「っ! 誰がっ!」

 後ろからカロが揶揄する。
 思わず笑ってしまうとエフィが驚きつつも妙な戸惑いを見せながら、しどろもどろになっていた。

「エフィ可愛い」
「か、かわ?」
「あ、ごめん。男性に可愛いはなしだね」
「いや、別に、それは」

 うんうん、やっと私の前でかたいのが柔らいできたな。
 心置きなく付き合える仲になれた感。素直に嬉しい。

「もー、いちゃつくなら別でやってよー」
「いちゃついてない!」
「はいはい。分かったから、イリニちゃん連れて行けって」
「く……覚えてろよ」

 さすがに城の中に入るというところで、エフィは王太子殿下の顔になった。
 すごいなと思いつつ、彼に連れられシコフォーナクセー王城の敷居を跨ぐ。
 城で公的な謁見なんて久しぶりだ。毎日のようにこなしていたことなのに、不思議と遠く感じる。

「イリニ」
「なに?」
「その、父上の事なんだが……少し変わっていて」
「変わってる?」

 まあ、何かのトップに立つ人間だし、多少個性はありそうだけど。社長が変わり者だと会社大きくなる的な。

「今日はそれを出さないとは思う」
「ふうん?」

 もうすぐやめるとはいえ、聖女がシコフォーナクセーに居を構えるとなれば、国内外に影響を与える案件。しかも法的にきちんと手続きする。そういう真面目な場なら、王陛下も仰々しく対応するから、素は出さないだろうというのがエフィの見解。

「私は全然かまわないけど……おや」
「……すまない、人避けをしたつもりだったんだが」

 入城し、進む先は謁見の間なのはどの城も変わらない。
 その手前の部屋で多くの貴族や騎士が控えていた。
 奇異の目をこちらに向け、遠慮なく聞こえる声音でこちらのことを話している。
 慣れたものだ。いい子ちゃんしてた頃も、魔王になってからも。
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