魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
71 / 82

71話 貴方、リーサが好きだったの?

しおりを挟む
 暗い面持ちで自信なさそうに立つ姿は王とは呼びがたいけど、前から口調やら態度から王らしさはなかったから今更かな。

「久しぶりですね」
「……」
「あれはサラマンダーであってます?」

 こくりと頷き、気まずそうに返した。

「ごめん」
「私が冷遇されたから黙っていられなかった?」

 エフィたちの推測だ。
 私が元婚約者から心無い言葉をぶつけられ理不尽な態度をとられた時に地震が起きる。
 単刀直入にきけば精霊王は再び頷いた。

「ここでの時間はあちらにとって短い時間みたいだし、よければ話聞きますよ?」
「……」

 暫くの沈黙の後、精霊王は語る。
 聖女はいつだってパノキカトの王族に虐げられていた。私が受けていた責務は歴代延々と続いていて、それに我慢できなくなったのが私が聖女をしていた時。元婚約者に殺された二回。

「リーサを聖女にしなければ、こんな歴史にならなかった。リーサだって聖女でなければ、あんな死に方をしなかったのに」

 魔物と人との和を取り成すために尽力したリーサは当時の夫に人を裏切った者として殺された。

「リーサ」
「イリニも知ってるだろ? 私はあの終わり方に納得している」

 リーサは私と違って、その時全てを受け入れた。精霊王は苦しそうに呻いてリーサを見やる。

「だから何も出来なかった……少しでも後悔してくれれば、イリニみたく戻せたのに」

 死を受け入れた人間は死に戻り対象外ってことか。
 私は元婚約者の手にかかったあの時、なんでとしか思えなかったもの。

「イリニはリーサだから、今度こそ助けたかったのに。この国は次元が開いてるから、助けになる前世も呼べたし今度こそはって」

 パノキカトは精霊王とやり取りできる特殊な土地だ。彼にとってやりやすい環境だったのだろう。
 成功する未来、私が望む聖女をやめて穏やかな老後を過ごす未来の為に、精霊王は多くの前世から敢えてリーサと聖を選んで呼んだわけか。
 にしてもだ。この人、私を助ける行為からその先、リーサを救うことに繋げている。聖女の歴史への後悔もリーサが基点、そしてリーサを救えなかったことも悔やんでいる。どこをとってもリーサが絡んでいる。それはつまり。

「貴方、リーサが好きだったの?」

 私の言葉に精霊王の顔に朱がまじる。分かりやすい。
 リーサに視線を送れば初耳だなと驚いていた。

「まあ好きかどうかはこの際置いといて、助けたいからサラマンダー出したは分かったけど、なんであんな怪獣映画みたくなってるの?」
「……ぼ、暴走してしまって」

 リーサを想って怒りを表面化した形がサラマンダー。力を与えすぎて制止がきかなくなった。

「え、もしかして止められないとか言っちゃうやつ?」
「う……」

 精霊王が唸り、目線を逸らした。

「嘘でしょ」
「……私の感情をうつしすぎて力をつけすぎた。一時的に繋がりが切れてしまって」

 精霊王はここで一人自分の感情を抑えるだけで手一杯だったらしい。
 もう王の力一つでサラマンダーを鎮めることができない。
 まさか精霊王がここまで感情に引っ張られて暴走するタイプだったなんて思いもしなかった。

「人間みたいですね」

 ひじりの言うことは一理あった。
 精霊なのに人に近すぎる。感情の機微も行動の理由も。

「それは私と一緒にいたせいだな」

 リーサが苦笑した。
 聖が過剰に反応して口許を手で抑え悲鳴をこらえている。

「かつて精霊王が王として確立する為にリーサと共に奮闘していた時間が彼に感情を与えた……胸熱すぎるっ」
「聖、落ち着こう?」

 当たらずといえども遠からずだろうなあ。人の感情が惨事を齎すなんてテンプレだもんね。

「君はずっと一人王として頑張ってきたからな」
「……っ」

 リーサが精霊王の手をとって困ったように微笑む。
 名の通り、精霊を束ねる王。全ての精霊をまとめる存在で、リーサと共にいた頃は精霊を束ねる為に尽力していた。
 リーサが亡くなってから、ずっと彼は一人で王という役割をこなしてきたことになる。
 その姿を想像したら、昔の自分と重なってしまった。
 感情のある精霊王が私たち人の寿命よりも遥かに長く王という立場を担ってきたということは、それだけ孤独の時間が長かったことになる。

「そうだね、独りは辛いよ」
「イリニ?」

 かつての私と同じ。
 独りでどうにかしようとして、踏ん張って我慢してる。それではいつか崩れてしまう。私はたまたま死に戻りがあったから気づけたけど、精霊王は気づけないまま長い時間を過ごしていた。

「なら私が君の側にいよう」
「リーサ?」
「君も王としてやることが山のようにあるだろう? 私でも少しは役に立てるさ」
「リーサ……」
「それなんですけど~」
「聖?」

 リーサと精霊王とのやり取りに悶絶していた聖が提案がと片手をあげた。

「仕事分散すればよいのでは?」
「はい?」
「繋がりさえあれば、他の精霊の暴走は止められるんですよね? というかそもそも未然に防げますよね?」

 聖の言わんとすることにパチパチ大きく瞬きをしつつも、精霊王ははっきり縦に首を振った。

「四大元素なら後三体いますよね? ざっくり世界を四分割して、四匹? の精霊にお任せしては?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...