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71話 貴方、リーサが好きだったの?
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暗い面持ちで自信なさそうに立つ姿は王とは呼びがたいけど、前から口調やら態度から王らしさはなかったから今更かな。
「久しぶりですね」
「……」
「あれはサラマンダーであってます?」
こくりと頷き、気まずそうに返した。
「ごめん」
「私が冷遇されたから黙っていられなかった?」
エフィたちの推測だ。
私が元婚約者から心無い言葉をぶつけられ理不尽な態度をとられた時に地震が起きる。
単刀直入にきけば精霊王は再び頷いた。
「ここでの時間はあちらにとって短い時間みたいだし、よければ話聞きますよ?」
「……」
暫くの沈黙の後、精霊王は語る。
聖女はいつだってパノキカトの王族に虐げられていた。私が受けていた責務は歴代延々と続いていて、それに我慢できなくなったのが私が聖女をしていた時。元婚約者に殺された二回。
「リーサを聖女にしなければ、こんな歴史にならなかった。リーサだって聖女でなければ、あんな死に方をしなかったのに」
魔物と人との和を取り成すために尽力したリーサは当時の夫に人を裏切った者として殺された。
「リーサ」
「イリニも知ってるだろ? 私はあの終わり方に納得している」
リーサは私と違って、その時全てを受け入れた。精霊王は苦しそうに呻いてリーサを見やる。
「だから何も出来なかった……少しでも後悔してくれれば、イリニみたく戻せたのに」
死を受け入れた人間は死に戻り対象外ってことか。
私は元婚約者の手にかかったあの時、なんでとしか思えなかったもの。
「イリニはリーサだから、今度こそ助けたかったのに。この国は次元が開いてるから、助けになる前世も呼べたし今度こそはって」
パノキカトは精霊王とやり取りできる特殊な土地だ。彼にとってやりやすい環境だったのだろう。
成功する未来、私が望む聖女をやめて穏やかな老後を過ごす未来の為に、精霊王は多くの前世から敢えてリーサと聖を選んで呼んだわけか。
にしてもだ。この人、私を助ける行為からその先、リーサを救うことに繋げている。聖女の歴史への後悔もリーサが基点、そしてリーサを救えなかったことも悔やんでいる。どこをとってもリーサが絡んでいる。それはつまり。
「貴方、リーサが好きだったの?」
私の言葉に精霊王の顔に朱がまじる。分かりやすい。
リーサに視線を送れば初耳だなと驚いていた。
「まあ好きかどうかはこの際置いといて、助けたいからサラマンダー出したは分かったけど、なんであんな怪獣映画みたくなってるの?」
「……ぼ、暴走してしまって」
リーサを想って怒りを表面化した形がサラマンダー。力を与えすぎて制止がきかなくなった。
「え、もしかして止められないとか言っちゃうやつ?」
「う……」
精霊王が唸り、目線を逸らした。
「嘘でしょ」
「……私の感情をうつしすぎて力をつけすぎた。一時的に繋がりが切れてしまって」
精霊王はここで一人自分の感情を抑えるだけで手一杯だったらしい。
もう王の力一つでサラマンダーを鎮めることができない。
まさか精霊王がここまで感情に引っ張られて暴走するタイプだったなんて思いもしなかった。
「人間みたいですね」
聖の言うことは一理あった。
精霊なのに人に近すぎる。感情の機微も行動の理由も。
「それは私と一緒にいたせいだな」
リーサが苦笑した。
聖が過剰に反応して口許を手で抑え悲鳴をこらえている。
「かつて精霊王が王として確立する為にリーサと共に奮闘していた時間が彼に感情を与えた……胸熱すぎるっ」
「聖、落ち着こう?」
当たらずといえども遠からずだろうなあ。人の感情が惨事を齎すなんてテンプレだもんね。
「君はずっと一人王として頑張ってきたからな」
「……っ」
リーサが精霊王の手をとって困ったように微笑む。
名の通り、精霊を束ねる王。全ての精霊をまとめる存在で、リーサと共にいた頃は精霊を束ねる為に尽力していた。
リーサが亡くなってから、ずっと彼は一人で王という役割をこなしてきたことになる。
その姿を想像したら、昔の自分と重なってしまった。
感情のある精霊王が私たち人の寿命よりも遥かに長く王という立場を担ってきたということは、それだけ孤独の時間が長かったことになる。
「そうだね、独りは辛いよ」
「イリニ?」
かつての私と同じ。
独りでどうにかしようとして、踏ん張って我慢してる。それではいつか崩れてしまう。私はたまたま死に戻りがあったから気づけたけど、精霊王は気づけないまま長い時間を過ごしていた。
「なら私が君の側にいよう」
「リーサ?」
「君も王としてやることが山のようにあるだろう? 私でも少しは役に立てるさ」
「リーサ……」
「それなんですけど~」
「聖?」
リーサと精霊王とのやり取りに悶絶していた聖が提案がと片手をあげた。
「仕事分散すればよいのでは?」
「はい?」
「繋がりさえあれば、他の精霊の暴走は止められるんですよね? というかそもそも未然に防げますよね?」
聖の言わんとすることにパチパチ大きく瞬きをしつつも、精霊王ははっきり縦に首を振った。
「四大元素なら後三体いますよね? ざっくり世界を四分割して、四匹? の精霊にお任せしては?」
「久しぶりですね」
「……」
「あれはサラマンダーであってます?」
こくりと頷き、気まずそうに返した。
「ごめん」
「私が冷遇されたから黙っていられなかった?」
エフィたちの推測だ。
私が元婚約者から心無い言葉をぶつけられ理不尽な態度をとられた時に地震が起きる。
単刀直入にきけば精霊王は再び頷いた。
「ここでの時間はあちらにとって短い時間みたいだし、よければ話聞きますよ?」
「……」
暫くの沈黙の後、精霊王は語る。
聖女はいつだってパノキカトの王族に虐げられていた。私が受けていた責務は歴代延々と続いていて、それに我慢できなくなったのが私が聖女をしていた時。元婚約者に殺された二回。
「リーサを聖女にしなければ、こんな歴史にならなかった。リーサだって聖女でなければ、あんな死に方をしなかったのに」
魔物と人との和を取り成すために尽力したリーサは当時の夫に人を裏切った者として殺された。
「リーサ」
「イリニも知ってるだろ? 私はあの終わり方に納得している」
リーサは私と違って、その時全てを受け入れた。精霊王は苦しそうに呻いてリーサを見やる。
「だから何も出来なかった……少しでも後悔してくれれば、イリニみたく戻せたのに」
死を受け入れた人間は死に戻り対象外ってことか。
私は元婚約者の手にかかったあの時、なんでとしか思えなかったもの。
「イリニはリーサだから、今度こそ助けたかったのに。この国は次元が開いてるから、助けになる前世も呼べたし今度こそはって」
パノキカトは精霊王とやり取りできる特殊な土地だ。彼にとってやりやすい環境だったのだろう。
成功する未来、私が望む聖女をやめて穏やかな老後を過ごす未来の為に、精霊王は多くの前世から敢えてリーサと聖を選んで呼んだわけか。
にしてもだ。この人、私を助ける行為からその先、リーサを救うことに繋げている。聖女の歴史への後悔もリーサが基点、そしてリーサを救えなかったことも悔やんでいる。どこをとってもリーサが絡んでいる。それはつまり。
「貴方、リーサが好きだったの?」
私の言葉に精霊王の顔に朱がまじる。分かりやすい。
リーサに視線を送れば初耳だなと驚いていた。
「まあ好きかどうかはこの際置いといて、助けたいからサラマンダー出したは分かったけど、なんであんな怪獣映画みたくなってるの?」
「……ぼ、暴走してしまって」
リーサを想って怒りを表面化した形がサラマンダー。力を与えすぎて制止がきかなくなった。
「え、もしかして止められないとか言っちゃうやつ?」
「う……」
精霊王が唸り、目線を逸らした。
「嘘でしょ」
「……私の感情をうつしすぎて力をつけすぎた。一時的に繋がりが切れてしまって」
精霊王はここで一人自分の感情を抑えるだけで手一杯だったらしい。
もう王の力一つでサラマンダーを鎮めることができない。
まさか精霊王がここまで感情に引っ張られて暴走するタイプだったなんて思いもしなかった。
「人間みたいですね」
聖の言うことは一理あった。
精霊なのに人に近すぎる。感情の機微も行動の理由も。
「それは私と一緒にいたせいだな」
リーサが苦笑した。
聖が過剰に反応して口許を手で抑え悲鳴をこらえている。
「かつて精霊王が王として確立する為にリーサと共に奮闘していた時間が彼に感情を与えた……胸熱すぎるっ」
「聖、落ち着こう?」
当たらずといえども遠からずだろうなあ。人の感情が惨事を齎すなんてテンプレだもんね。
「君はずっと一人王として頑張ってきたからな」
「……っ」
リーサが精霊王の手をとって困ったように微笑む。
名の通り、精霊を束ねる王。全ての精霊をまとめる存在で、リーサと共にいた頃は精霊を束ねる為に尽力していた。
リーサが亡くなってから、ずっと彼は一人で王という役割をこなしてきたことになる。
その姿を想像したら、昔の自分と重なってしまった。
感情のある精霊王が私たち人の寿命よりも遥かに長く王という立場を担ってきたということは、それだけ孤独の時間が長かったことになる。
「そうだね、独りは辛いよ」
「イリニ?」
かつての私と同じ。
独りでどうにかしようとして、踏ん張って我慢してる。それではいつか崩れてしまう。私はたまたま死に戻りがあったから気づけたけど、精霊王は気づけないまま長い時間を過ごしていた。
「なら私が君の側にいよう」
「リーサ?」
「君も王としてやることが山のようにあるだろう? 私でも少しは役に立てるさ」
「リーサ……」
「それなんですけど~」
「聖?」
リーサと精霊王とのやり取りに悶絶していた聖が提案がと片手をあげた。
「仕事分散すればよいのでは?」
「はい?」
「繋がりさえあれば、他の精霊の暴走は止められるんですよね? というかそもそも未然に防げますよね?」
聖の言わんとすることにパチパチ大きく瞬きをしつつも、精霊王ははっきり縦に首を振った。
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