魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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75話 エフィ、助かる

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 雨が降り始めた。

「イリニ」
「……ドラゴン」

 濡れなくなって顔を少しあげると私とエフィの上だけ影になって雨に当たらない。
 雨から防いでくれているのは、ドラゴンの大きな翼。覆うように大きく羽を広げている。

「フェンリル」
「ああ」

 正面からフェンリルがやってきた。
 そのまま私たちの側まで来て、エフィの傷に顔を寄せる。僅かな火の粉が舞った。

「これで精霊の炎は消えた。程なく魔法も効く」
「ほんと?」
「聖女の魔法が効きにくく、アステリの魔法が効かなかったのは、エフィが精霊の炎を内に残していたからだ」

 それを除けば魔法は通用すると。
 見ればあれだけ塞がらなかった穴がなくなり、綺麗な肌が見えた。
 エフィを抱き止めたまま、震える手で触る。
 確かに塞がっていた。
 そこからあたたかい鼓動が聞こえて安堵する。やっと息ができた気がした。

「……よかった」
「遅くなってすまなかった」
「ううん、ありがと」
「エフィも随分タフだな」
「?」
「これだけのものなら意識を飛ばしておかしくなかった」

 エフィを地に横たわらせる。
 前髪を避けて額から頬にかけて触れればあたたかく顔色もよくなった。規則正しい息遣い。もう大丈夫なんだと分かる。

「雨が逆に功を奏したな」
「ドラゴン?」

 サラマンダーが放つ火が王都を焼き始め、消火もままならないところに、私が雨を降らせた。聖女の雨だから鎮火でき、嵐になる前だったから水害に至らず、結果火だけを消す。
 その雨ももう止みそうだ。ポツポツと小さく叩くだけ。

「精霊には人が使う魔法が効かない。加えて騎士の剣では太刀打ちできない」
「近寄れもしないからな」
「だから今は我々が抑えている」

 魔物たちがサラマンダーを足止めしている。
 アネシス率いる魔法使い一個師団とパノキカト王陛下、エクセロスレヴォの王太子殿下が海上へ向かい、海で他国船舶と交えていた魔物たちを呼び戻した。
 間に合った。エフィも傷を塞いだから、しばらく療養していれば問題ないはず。
 ドラゴンとフェンリルを見れば、二人が静かに頷いた。

「イリニ、君にしか出来ない」
「サラマンダーを倒すこと?」
「そうだ」

 聖女の魔法は効きにくいだけで、全く効かないわけじゃない。
 かつ今の私は聖女をしてた頃と比べて、精霊王の祝福によってパワーアップしている。二人の意識がまだ内に混じりあってる今しかない
 
「俺つえええモードで叩くね」
「ああ」

 ラッキースケベ以外はほぼ調整できる。そもそも充分怒ってるんだから。サラマンダーを規格外レベルにして、エフィの命の危機まであった。
 もう本当情けないぐらい心が乱れた。その悲しさが今怒りに変わっている。
 思いの外あっさり巨大な剣が現れた。俺つえええはこの剣による物理と魔法。
 今現れているのは雷。雨の中の雷なんてテンプレすぎて笑えるわ。

「ドラゴン、連れてってくれる?」
「ああ」
「イリニ」

 慌てた様子でアステリが戻って来た。ということは、サラマンダーは押さえ込んでいるってことね。

「エフィは」
「もう大丈夫」

 アステリにエフィを任せることにした。できれば転移で安全なところに運んでほしいと伝える。
 ドラゴンは私を運び、フェンリルは地上で私の攻撃のタイミングを見て引き際を指示しないといけない。

「真上から突っ込んでけば、被害少なくできるよね?」
「まー可能性は高いけどよ、お前それでい」
「いいの」

 パノキカトに限らず三国に俺つえええの被害が及んでも責任は私だけがとればいい。
 そうならないようにやるつもりだけど。どっちに転んでも私が責任をとる。私だからとりやすい。

「私、魔王だし」
「そーじゃねーだろ」
「悪役でもいいんだって」

 アステリはまだ何か言いたそうだったけど飲み込んでくれた。私が譲らないの分かってる。ありがたい限りね。
 ドラゴンが首をもたげてアステリを呼んだ。

「私が頼んだ」
「分かってる。俺もそれぐらいしか浮かばねーし」

 なら益々話が早い。
 私はドラゴンの背に乗った。
 さっき話した通り、真上から俺つえええで一撃終了といこう。

「エフィをよろしく」

 ドラゴンと共に雨が残る空へ飛び立った。
 ドラゴンに乗って空を飛べば、転移で空に移動してもらうより狙いが定まりやすい。

「……」

 抵抗はしているけど、サラマンダーの動きは完全に止まっている。火事はほぼ鎮火、住民避難は済んだ。後はうまいこと私がやるだけ。
 俺つえええモードが生んだ雷は健在で頭上雲の上で燻っている。
 大丈夫。
 エフィは助かったもの。
 後は私が一人で最後を決めるだけ。

「大丈夫」

 瞳を閉じる。
 やれる、絶対にやれる。
 そんな時だった。

「イリニ」

 心地のいい低い声が聞こえた。
 ふわりと好きな、好きになってしまった匂いが鼻腔をくすぐる。
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