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76話 俺にも背負わせてくれ
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ふわりと好きな、好きになってしまった匂いが鼻腔をくすぐる。同時、背中に感じるあたたかさと、腰に回される腕の強さに震えた。
「エフィ?」
「ああ」
その優しく低い声がひどく懐かしく感じた。
後ろから抱きしめられているのもあって振り返ることができないけど、それは言い訳かな。
顔を見たいけど、でも自分の今の情けない顔は見られたくなかった。こっちが本音。なんて矛盾だろう。
「なんで」
「言ったろ? 君の側にいると」
無理してる。
本当は安静にしてなきゃいけないのに。
そんなの一言も言えず、嬉しくて泣きそうになる。
エフィが私の名前を呼んでくれるだけで満たされて、吐く息が浅くなった。
その後ろでエフィが苦笑する。
「……君には助けられてばかりだな」
「え?」
いつか話すさとエフィが微笑んだ気配がした。
何度も命の危機から救ってくれたと言うけど、そんなことあったっけ? 直近の体液交換は未遂で終わったし、最初に城に来た時は私がエフィにとどめさしてたようなものだし。
頑張って思い出す作業をしていたら、旋毛に感触があった。
「え?」
前と同じ。これ、やっぱり、その。
顔に熱が集まる私に対し、エフィが穏やかに声を落とした。
「君一人でもどうにかしてしまうんだろうが、俺にも背負わせてくれ」
大きな剣を持つ手にエフィの大きな手が重なる。
一緒に振り下ろしてくれるということ?
「三国から了承を得ている」
「うそ」
早すぎる。許可が出ないだろうから、後の非難を覚悟で臨んでるのに。
「予防線というやつだな。一定の危機を超えたら多少の無茶を出来るようにした」
詳しくは語らないけど、ようは好き勝手していい権限をもらっていたということね。
緊急事態によく対応できてる。
「じゃあ遠慮なくできるね?」
「ああ」
エフィの手に力が入った。
「なんだ、前にイリニがやったように何か言わないと駄目か?」
「え……あー、あれはノリだよ」
最初からクライマックスだぜ! のことを言うなら、あんまり思い出したくないやつだ。
というか、たぶん今がリアルクライマックスだから、その台詞は場違いだよ。
「必殺技には名がつくんだろ?」
「それどこで知った」
アステリあたり? 余計な知識は吸収しなくていいよ。
「……そういうのいいから。ほら早くすませよ」
ドラゴンの背から飛び降りる為に立ち上がる。
エフィが私の隣に立った。剣を持つ私の手を包む。
「行ってくるね」
ドラゴンが頷いた。
エフィと目を合わせ、お互いに微笑んだ後、はるか上空からサラマンダーに向かって飛び降りる。
「エフィ」
「ああ」
一緒に振りかざす。雷が呼応した。
そういえば、エフィにあてた俺つえええモードも雷だったかな。
もうこんな時でもエフィのことばかり考えてるあたり、私も相当重症だ。
「イリニ」
一緒に振り下ろす。
雷と剣の衝撃にサラマンダーが周囲の建物ごと崩され地面が沈んだ。
衝撃に色んなものが舞い上がり、それに巻き込まれたところで私の腰に腕が回った。
エフィの腕があたたかい。
飲まれる瓦礫の中、少しだけ意識が遠退いた。
* * *
「イリニ?」
「……ん」
ほんの少しだけ意識を飛ばしていたらしいエフィに抱き抱えられていた。
すぐ近くでエフィが私を見下ろしている。
「エフィ」
思わず両手でその顔に触れた。
あたたかい。
確かにエフィだ。
私の所作にエフィが面白そうに笑った。
「どうした」
「エフィ、身体は?」
まったく問題はないとエフィが笑う。
「君のおかげだ」
「本当? 痛みもない?」
「ああ、全くないな」
そしてゆっくり私を下ろした。
「……よかった」
エフィが無事で本当によかった。
そんな簡単な言葉しか出てこない。
嬉しさに泣きそうになるのを堪えていると、エフィの指が私の頬をなぞった。泣くなと言って触れた時と同じ。
「俺の為に泣いてくれた」
「あ、ええと……」
エフィの怪我に我慢できなくて治しながら泣いていたことを思い出す。恥ずかしさに目を逸らした。
「ち、違う、これは、その」
「俺の為じゃなかったのか?」
「うぐぐ」
ちらりとエフィを見れば、蕩けた瞳をそのまま期待を向けて微笑んでいた。
分かってて私に言わせようとしてるわけ?
「エフィの意地悪」
「すまない。あまりに嬉しくて」
「なにが?」
「返事を聞かせてくれるんだろう?」
「はい?」
「三度目の口付けのやり直しも」
「は、い?」
うわああああ、確かに言ったけど、それ今ここで言う?
意識混濁の重体だったあの時のこと全部を今ここで確認することないじゃない。
「早く戻ろうと思えたのはイリニがいたからだ」
「そう……」
「地震も雨もなくなったな」
よかった、とエフィが空を仰いだ。
雨は完全に止んでいた。
私が傾きかけて起きた全てが解消されて、現れたものに苦笑する。
「……虹」
なんなの、もう。
「そのまますぎて恥ずかしいじゃない」
同時、静かに二人の溶け合った意識が消えていくのが分かった。
心の中で静かに別れを告げる。
ありがとう。さよなら。
「エフィ?」
「ああ」
その優しく低い声がひどく懐かしく感じた。
後ろから抱きしめられているのもあって振り返ることができないけど、それは言い訳かな。
顔を見たいけど、でも自分の今の情けない顔は見られたくなかった。こっちが本音。なんて矛盾だろう。
「なんで」
「言ったろ? 君の側にいると」
無理してる。
本当は安静にしてなきゃいけないのに。
そんなの一言も言えず、嬉しくて泣きそうになる。
エフィが私の名前を呼んでくれるだけで満たされて、吐く息が浅くなった。
その後ろでエフィが苦笑する。
「……君には助けられてばかりだな」
「え?」
いつか話すさとエフィが微笑んだ気配がした。
何度も命の危機から救ってくれたと言うけど、そんなことあったっけ? 直近の体液交換は未遂で終わったし、最初に城に来た時は私がエフィにとどめさしてたようなものだし。
頑張って思い出す作業をしていたら、旋毛に感触があった。
「え?」
前と同じ。これ、やっぱり、その。
顔に熱が集まる私に対し、エフィが穏やかに声を落とした。
「君一人でもどうにかしてしまうんだろうが、俺にも背負わせてくれ」
大きな剣を持つ手にエフィの大きな手が重なる。
一緒に振り下ろしてくれるということ?
「三国から了承を得ている」
「うそ」
早すぎる。許可が出ないだろうから、後の非難を覚悟で臨んでるのに。
「予防線というやつだな。一定の危機を超えたら多少の無茶を出来るようにした」
詳しくは語らないけど、ようは好き勝手していい権限をもらっていたということね。
緊急事態によく対応できてる。
「じゃあ遠慮なくできるね?」
「ああ」
エフィの手に力が入った。
「なんだ、前にイリニがやったように何か言わないと駄目か?」
「え……あー、あれはノリだよ」
最初からクライマックスだぜ! のことを言うなら、あんまり思い出したくないやつだ。
というか、たぶん今がリアルクライマックスだから、その台詞は場違いだよ。
「必殺技には名がつくんだろ?」
「それどこで知った」
アステリあたり? 余計な知識は吸収しなくていいよ。
「……そういうのいいから。ほら早くすませよ」
ドラゴンの背から飛び降りる為に立ち上がる。
エフィが私の隣に立った。剣を持つ私の手を包む。
「行ってくるね」
ドラゴンが頷いた。
エフィと目を合わせ、お互いに微笑んだ後、はるか上空からサラマンダーに向かって飛び降りる。
「エフィ」
「ああ」
一緒に振りかざす。雷が呼応した。
そういえば、エフィにあてた俺つえええモードも雷だったかな。
もうこんな時でもエフィのことばかり考えてるあたり、私も相当重症だ。
「イリニ」
一緒に振り下ろす。
雷と剣の衝撃にサラマンダーが周囲の建物ごと崩され地面が沈んだ。
衝撃に色んなものが舞い上がり、それに巻き込まれたところで私の腰に腕が回った。
エフィの腕があたたかい。
飲まれる瓦礫の中、少しだけ意識が遠退いた。
* * *
「イリニ?」
「……ん」
ほんの少しだけ意識を飛ばしていたらしいエフィに抱き抱えられていた。
すぐ近くでエフィが私を見下ろしている。
「エフィ」
思わず両手でその顔に触れた。
あたたかい。
確かにエフィだ。
私の所作にエフィが面白そうに笑った。
「どうした」
「エフィ、身体は?」
まったく問題はないとエフィが笑う。
「君のおかげだ」
「本当? 痛みもない?」
「ああ、全くないな」
そしてゆっくり私を下ろした。
「……よかった」
エフィが無事で本当によかった。
そんな簡単な言葉しか出てこない。
嬉しさに泣きそうになるのを堪えていると、エフィの指が私の頬をなぞった。泣くなと言って触れた時と同じ。
「俺の為に泣いてくれた」
「あ、ええと……」
エフィの怪我に我慢できなくて治しながら泣いていたことを思い出す。恥ずかしさに目を逸らした。
「ち、違う、これは、その」
「俺の為じゃなかったのか?」
「うぐぐ」
ちらりとエフィを見れば、蕩けた瞳をそのまま期待を向けて微笑んでいた。
分かってて私に言わせようとしてるわけ?
「エフィの意地悪」
「すまない。あまりに嬉しくて」
「なにが?」
「返事を聞かせてくれるんだろう?」
「はい?」
「三度目の口付けのやり直しも」
「は、い?」
うわああああ、確かに言ったけど、それ今ここで言う?
意識混濁の重体だったあの時のこと全部を今ここで確認することないじゃない。
「早く戻ろうと思えたのはイリニがいたからだ」
「そう……」
「地震も雨もなくなったな」
よかった、とエフィが空を仰いだ。
雨は完全に止んでいた。
私が傾きかけて起きた全てが解消されて、現れたものに苦笑する。
「……虹」
なんなの、もう。
「そのまますぎて恥ずかしいじゃない」
同時、静かに二人の溶け合った意識が消えていくのが分かった。
心の中で静かに別れを告げる。
ありがとう。さよなら。
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