魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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77話 聖女制度は廃止された

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 三国揃いぶみで復興作業が始まった。
 仕事早いな。
 よく見ればパノキカト王都に住む住民も一緒に戻ってきている。避難から戻るのが早すぎるから、技術者と医療関係者かな。パノキカトにいた時に災害時に即時対応できるよう建築とか医療面の人材の配置考えて住んでもらってたから、それが今生きた感じか。
 パノキカトの人々は私を見つけ、驚きつつもその瞳に期待を宿す。

「聖女様」

 パノキカトの人間はやっぱり私のことを聖女で見るかと思ったら、エフィが私の代わりに話した。

「アギオス侯爵令嬢は聖女ではない」
「しかし次の聖女が決まっておりません」
「聖女制度は廃止された」
「え?」

 エフィの言葉に周囲は動揺した。
 パノキカトにとって聖女は絶対だ。失うだけでも辛いだろうに、神官長でもない他国の人間から帰化されたくない話に違いない。

「そんな嘘を」

 私からきちんと言わないとだめね。

「本当ですよ」
「聖女様……」
「先程精霊王にお会いしました。聖女は私で最後、次はありません。私ももう聖女ではありません」

 元々私が聖女をやめてイディッソスコ山に引きこもった空白期間があったから、周囲はもしかしてと感じていたところもあったらしい。ざわつき戸惑いを感じるけど、そこは正式に神官長を通して国として発表してもらえれば、少しずつ周囲には浸透していくか。
 その中で地を這う小さな生き物が私の足元まで辿り着いた。

「サラマンダー?」
「イリニ?」
「おや」

 素早い動きで私の肩まで登りきり、腕をあげるとそこを這って最終的に掌におさまった。
 小さい口から小さい火の玉が出て、全身に炎を纏わせる。やる気のアピールかな?
 今の今でそれやるとだめでしょ。
 案の定、周囲はそれを見てちらほら短い悲鳴が上がった。

「聖女様、早くそれを殺さないと」
「もう安全ですよ?」

 精霊王の繋がりを感じるから、サラマンダーは問題ない。
 一度暴走してるのに大丈夫なのかという心配はリーサがいるから解決している。一人で無理なことは誰かの助けがあれば成せることだから。
 というわけで、無害ですという主張してみるけど、周囲は引いたまま。

「ま、まさか聖女がその魔物の使役を?」
「使役してないですし、魔物ではなく精霊です」

 もう街を壊す力もないし、精霊王が約束したことだから大丈夫と言ってもいまいち響かない。ざわつく中でひそりと囁かれた。

「…………魔王だ」

 誰かが小さく囁いた言葉が波紋のように広がる。まあ魔王を否定する気はない。
 けど、それに我慢ならない人が隣にいた。

「やめろ」
「エフィ」

 エフィが私を庇うように立った。

「彼女は精霊の暴走を止めた」
「けど魔物の大群を率いて」
「魔物は君達を傷つけたか?」
「い、いえ」

 今回の魔物の功績は多岐に渡る。
 水平線の向こうからやってきた他国の足止めに、サラマンダーを抑え込み、住民避難のアシストまでしてただろうから、多方面で魔物は人の目に触れている。いずれも人を害していない。むしろ助けてくれたと思うシーンが多かったはず。
 たとえ嘘を広めようとする人がいてもそれを否定するだけの要素はこの短時間で得た。

「私はアギオス侯爵令嬢に命を救われた」
「エフィ」
「魔王であろうと聖女であろうと関係ない。彼女は多くを救った。そうだろ?」

 本当、エフィは私の欲しい言葉をくれるな。
 肩書のある私じゃなくて、私自身を見てくれているのがきちんとわかる。

「……私の力じゃないよ」
「イリニ」
「エフィも、アステリもカロも、騎士も魔法使いも魔物も……皆が助けてくれたから、この子の暴走を止められたと、思う」

 見上げエフィと目を合わせると、嬉しそうに目を細めた。正解としての回答じゃない、私が思ったことを口にした。

「私一人じゃ民の避難できなかったし、この子を抑え込むこともできなかったから、皆がいてくれて、助けてくれて良かったなって」
「ああ」

 頬を撫でられる。
 待った、人前だからそれはだめでしょ。

「エフィ」
「イリニが自分の気持ちを話してくれて嬉しい」
「えと、その」

 人前な挙句、さっきまでのあれこれで視線を集めちゃってるから離れないとだめ。
 今までは山の城にいて人目気にしないで済んだけど、完全にだめなやつなんだから。

「そうです!」
「ひえ」

 急に発せられた元気な声にあらぬ声が出た。こんなとこでエフィの触れ方おかしいですね、そうですね。
 震えながら声の主を見れば、エフィの部下の騎士だった。

「アギオス侯爵令嬢は隊長を救ってくれました! 致命傷を負っていたのに傷ひとつなく!」
「自分も見ました! まさに奇跡で!」
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