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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
71話 自戒
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「エスタジ?」
どうしたの、と言えば彼女は震えて、オルネッラ譲の、と震える声で返してくる。
さすがに私でもその動揺ぶりは分かるぞ。
「あの日、母と姉が山道に入ったのを知っているの?」
「え、あ、………ええ」
散々逡巡して、悩んだ末に、小さく肯定した。
落とした彼女の私物を拾って、中庭、座れる場所に移動して落ち着いてもらう。
人もいないし、訊いてもいいだろうかと3人を見れば、それぞれ頷いてくれた。
「エスタジ、その話きいてもいい?」
「……私は貴方に謝らないといけない事が」
そういえば、そんなことを前に言ってた気がする。
彼女は話そうとしてくれていたのだろうか、それを無視しててごめんよと内心こちらも謝っておく。
「あの日…あの事故の日、貴方のお母様とお姉様にお会いしたの。あの日は私も外に出る用事があって、けど道中御者が体調を崩してしまって立往生をしていたわ。その時に貴方の御家族がいらして…いつもここを通らないから何故かと伺えば、いつもの道が使えないって笑って仰ってたわ」
「そうですか」
エドアルドに道が使えないときいて回り道をした所で会ったのか。
偶然って重なるものだな。
オリアーナの知る人が悉くあの事故前に母と姉に会うなんて。
「私の事情を聴いて、自分達の御者をと仰ったの。長年勤めている優秀な者だからと。王都に途中寄ってメディコに私達の御者を預けて行けばいいと仰って。自分達は引継ぎ中の御者がいるからと言って、それで」
「引継ぎ?」
「その頃、引退を考えていた御者が新しく見習いをとって引継ぎをしていました」
そうなのか。
経験者を雇うのではなく新人を起用してるとは。
あの父、商店通りの件も考えれば、職につかせるという事にも力を入れそうだから、案外やりそうっちゃやりそう。
「まだ慣れない新しい者だと言うのに、私は彼女の言葉を真に受けて軽く御者の提案を受け入れてしまいましたわ。いつもの御者なら御二人は道に迷うことなく、事故に遭う事もなかったのに」
瞳に涙を溜めながら語るエスタジ譲。
強気のツンデレが弱いところ見せて涙目とかとても絵になるんだけど…いや問題はそこじゃない。
「……それがエスタジが謝りたいって思ってたこと?」
「ええ、申し訳ない事を…私は何て取り返しのつかない事を」
「エスタジ悪くない」
「え?」
その言葉にオリアーナが頷いた。
「だってエスタジが馬車落っことしたわけじゃないし、いつもの御者でも新しい御者でも事故はいつ起きるか分からないじゃん」
「そう、かもしれませんが」
「謝るほどの事してないし、オルネッラは困ってるエスタジを助けたかったんでしょ? それで御者の提案してきてエスタジがオッケーなら何も問題はないよ」
「けれど」
「ええい、何度も言わせないでよ? エスタジは悪くない。謝るって言うなら、今さっき申し訳ないって言葉聴いたからそれで清算したとみなします」
「え、それは」
「彼女もこう言ってるから、その言葉、受け止めてくださらないかしら?」
「グ、グァリジョーネ侯爵令嬢…」
ナイスアシストだ、エステル。
エスタジ、エステルに弱いとこあるからいける。
押すに押してもらって、なんとかエスタジは頷いた。
おおよかった、さすがエステル好き。
にしてもこの世界、特にオリアーナの近くの人物たちは自分の責任だと思う子が多いな。
学園で学ぶべきだよ、起きた事という事実と、それを感じる個人の認識の差について。
「私は…ずっと事故の事を知られるのが怖くて、その反動で貴方に当たってた部分もあったのに」
「いいじゃないですか、その件は終わってますし」
ご両親の不和に、婚約相手と別れ、この事故の後ろめたさを全部オリアーナへ一括返還ね……タイミングが重なるってことはあるし、二十話前ぐらいに終わった話だから蒸し返す気もない。
エステルにその後もフォローしてもらって、エスタジとは一旦別れるというところに最後、彼女が心配そうな顔をしたまま私に小さく話してきた。
トットとエステルに知られては困る事だろうか。
「あの、杞憂かもしれないのだけれど、あの時お二人の馬車の車輪に魔法がかかってるのが見えたのですが」
「ああ」
「それを指摘したら、貴方のお姉さまは、その、お守り、だと仰ったの。あまりに嬉しそうに笑うものだから、それ以上深くきけなかったのだけど」
「そうですか、お守り」
「私はそれが何の魔法だったかは当時の私には分からなかったのだけど」
お礼を伝え、彼女には帰ってもらう。
オルネッラ達は車輪にオリアーナがかけた魔法を承知の上で進んでいたのか。
にしても、お守り、お守りね……。
「おや」
「チアキ?」
「エステル、魔法の実技の教科書に書いてある魔法の順番ってアルファベット順だよね?」
「ええ、そうね」
「願いの魔法の隣ページは」
「えっと、破壊だったかしら。小さな物を分解する程度の」
ああ、よかった。そういうこと。
「チアキ?」
「オリアーナ」
「はい」
「今のエスタジの話聞こえてた?」
「ええ」
この場合、今はどこにもいないオルネッラへお礼を言わないといけない。
本当ナイスアシストすぎ。
そして話してくれたエスタジも本当ありがとう。
「オリアーナの話してた車輪にかけた魔法、願いの魔法なんだよ」
「え?」
どうしたの、と言えば彼女は震えて、オルネッラ譲の、と震える声で返してくる。
さすがに私でもその動揺ぶりは分かるぞ。
「あの日、母と姉が山道に入ったのを知っているの?」
「え、あ、………ええ」
散々逡巡して、悩んだ末に、小さく肯定した。
落とした彼女の私物を拾って、中庭、座れる場所に移動して落ち着いてもらう。
人もいないし、訊いてもいいだろうかと3人を見れば、それぞれ頷いてくれた。
「エスタジ、その話きいてもいい?」
「……私は貴方に謝らないといけない事が」
そういえば、そんなことを前に言ってた気がする。
彼女は話そうとしてくれていたのだろうか、それを無視しててごめんよと内心こちらも謝っておく。
「あの日…あの事故の日、貴方のお母様とお姉様にお会いしたの。あの日は私も外に出る用事があって、けど道中御者が体調を崩してしまって立往生をしていたわ。その時に貴方の御家族がいらして…いつもここを通らないから何故かと伺えば、いつもの道が使えないって笑って仰ってたわ」
「そうですか」
エドアルドに道が使えないときいて回り道をした所で会ったのか。
偶然って重なるものだな。
オリアーナの知る人が悉くあの事故前に母と姉に会うなんて。
「私の事情を聴いて、自分達の御者をと仰ったの。長年勤めている優秀な者だからと。王都に途中寄ってメディコに私達の御者を預けて行けばいいと仰って。自分達は引継ぎ中の御者がいるからと言って、それで」
「引継ぎ?」
「その頃、引退を考えていた御者が新しく見習いをとって引継ぎをしていました」
そうなのか。
経験者を雇うのではなく新人を起用してるとは。
あの父、商店通りの件も考えれば、職につかせるという事にも力を入れそうだから、案外やりそうっちゃやりそう。
「まだ慣れない新しい者だと言うのに、私は彼女の言葉を真に受けて軽く御者の提案を受け入れてしまいましたわ。いつもの御者なら御二人は道に迷うことなく、事故に遭う事もなかったのに」
瞳に涙を溜めながら語るエスタジ譲。
強気のツンデレが弱いところ見せて涙目とかとても絵になるんだけど…いや問題はそこじゃない。
「……それがエスタジが謝りたいって思ってたこと?」
「ええ、申し訳ない事を…私は何て取り返しのつかない事を」
「エスタジ悪くない」
「え?」
その言葉にオリアーナが頷いた。
「だってエスタジが馬車落っことしたわけじゃないし、いつもの御者でも新しい御者でも事故はいつ起きるか分からないじゃん」
「そう、かもしれませんが」
「謝るほどの事してないし、オルネッラは困ってるエスタジを助けたかったんでしょ? それで御者の提案してきてエスタジがオッケーなら何も問題はないよ」
「けれど」
「ええい、何度も言わせないでよ? エスタジは悪くない。謝るって言うなら、今さっき申し訳ないって言葉聴いたからそれで清算したとみなします」
「え、それは」
「彼女もこう言ってるから、その言葉、受け止めてくださらないかしら?」
「グ、グァリジョーネ侯爵令嬢…」
ナイスアシストだ、エステル。
エスタジ、エステルに弱いとこあるからいける。
押すに押してもらって、なんとかエスタジは頷いた。
おおよかった、さすがエステル好き。
にしてもこの世界、特にオリアーナの近くの人物たちは自分の責任だと思う子が多いな。
学園で学ぶべきだよ、起きた事という事実と、それを感じる個人の認識の差について。
「私は…ずっと事故の事を知られるのが怖くて、その反動で貴方に当たってた部分もあったのに」
「いいじゃないですか、その件は終わってますし」
ご両親の不和に、婚約相手と別れ、この事故の後ろめたさを全部オリアーナへ一括返還ね……タイミングが重なるってことはあるし、二十話前ぐらいに終わった話だから蒸し返す気もない。
エステルにその後もフォローしてもらって、エスタジとは一旦別れるというところに最後、彼女が心配そうな顔をしたまま私に小さく話してきた。
トットとエステルに知られては困る事だろうか。
「あの、杞憂かもしれないのだけれど、あの時お二人の馬車の車輪に魔法がかかってるのが見えたのですが」
「ああ」
「それを指摘したら、貴方のお姉さまは、その、お守り、だと仰ったの。あまりに嬉しそうに笑うものだから、それ以上深くきけなかったのだけど」
「そうですか、お守り」
「私はそれが何の魔法だったかは当時の私には分からなかったのだけど」
お礼を伝え、彼女には帰ってもらう。
オルネッラ達は車輪にオリアーナがかけた魔法を承知の上で進んでいたのか。
にしても、お守り、お守りね……。
「おや」
「チアキ?」
「エステル、魔法の実技の教科書に書いてある魔法の順番ってアルファベット順だよね?」
「ええ、そうね」
「願いの魔法の隣ページは」
「えっと、破壊だったかしら。小さな物を分解する程度の」
ああ、よかった。そういうこと。
「チアキ?」
「オリアーナ」
「はい」
「今のエスタジの話聞こえてた?」
「ええ」
この場合、今はどこにもいないオルネッラへお礼を言わないといけない。
本当ナイスアシストすぎ。
そして話してくれたエスタジも本当ありがとう。
「オリアーナの話してた車輪にかけた魔法、願いの魔法なんだよ」
「え?」
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