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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
155話 舞台鑑賞デート、近すぎ待ってやめて
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誘拐未遂の件から幾ばかり、オリアーナの心配性があがっている。
「チアキ、決してディエゴから離れないで下さい」
「うんうん、わかってる」
オリアーナが妙に緊張した面持ちで私を見送った本日、待ちに待った2.5次元もとい、この世界でのメジャーな舞台を見に行く日がきた。なかなか公演日までの間に色々あって忘れてたところはあったけど。
きちんと正装して緩む顔を引き締めて会場入りだ。ボックス席に入ってしまえば、どう顔を崩そうがもんどりうとうがディエゴにしか見られない。
「席、どこ?」
「五番ボックスだ。ここをさらに進んだ所だな」
「え、なにそれ。常時専用とか言わないよね?」
「いや、買い取ってはいないが……どういうことだ?」
「いえ、こちらの話です」
さすがにこの世界の今までの舞台で演目にないか。そもそもディエゴがしょっちゅう見に行ってるようにも見えないし。やっぱりオルネッラと脳内オーディオコメンテータリーしたい。
「ソラーレ侯爵令息、ガラッシア公爵令嬢」
「はい」
「おめでとうございますわ」
「?」
「ありがとうございます」
ボックス席に向かうまで、知る顔が挨拶がてら、やたらおめでとうといってくるのは何故かと首を傾げていると、まだ気軽に話せる相手がやってきた。
「あら、貴方達も来ていたの」
「ネウトラーレ侯爵夫人」
「おめでとう、よかったわね」
「ありがとうございます」
「あの、夫人。なんのことです?」
ディエゴは社交辞令さながら応えているけど、それを教えてはくれなかった。
夫人にきけば、楽しそうに笑われ、やっぱり貴方は変わらないわねと言われる。
「貴方、彼と正式に婚約したというのに自覚がないの? ああ、この場合実感というべき?」
「は?」
「先生から伺ったのよ?」
「え、おばあちゃん?」
「先生もとても嬉しそうだったわ」
おばあちゃん本当ツンデレあるあるじゃない。私の前では嬉しそうにしてないのに?
そこはさておき、ディエゴを見上げれば一切目を合わせない以前にこちらを見向きもしなかった。確かに認めるとは言ってたけど。
「何故広まったし」
「ネウトラーレ侯爵夫人の耳に入ったからだろうな」
「夫人……」
二人になれたところできいてみれば、出所夫人だった。おばあちゃんとの仲を考えると、情報は入るだろうし、この人発信になったら早そうだな。
「おばあちゃんも本当ツンデレだよねえ」
「御祖母様はだいぶチアキに心を許しているが」
「それたぶんツンデレの基準で、普通の人わからないよ」
「チアキはわかるのだろう?」
「私は訓練されているので」
そうこうしている内にボックス席にたどり着いた。
そこそこ広めにとられて、装飾まで凝っている。座席の高級感を考えるとなかなかいいお値段しそうな席と踏んだ。
「おお……」
「?」
「ディ、ディエゴ」
ボックスというからには良席だと思ってはいたけど、予想以上に良席すぎやしないか。それがわかっていないのか小首を傾げて不思議そうに私を見ている。なんだ、その所作。可愛いな。
「良席すぎてあがる」
「そうか」
嬉しそうに綻ぶものだから、ぶわっと熱がせりあがる。おおっといけない。ぶれるな、私。今日は舞台の為に、2.5次元の為にきた、そこが一番。
「周囲から見えないからといって、あまり羽目を外さないように」
「手厳しい……」
お姑さんは健在だった。
確かにこの形のボックス席なら、周囲はもちろん身を乗り出さない限りは、役者からも見えなさそう。尊さにゴロゴロのたうち回ることもできるし、尊さに顔面崩壊してもお隣ボックスからは見えない。まあ奇声は発しないようにしようかな。周囲の御迷惑以前に役者の集中力に茶々を入れるわけにはいかない。
「うえへへへ」
「チアキ……」
開演してもう最初からクライマックスだった。なんだ、あの美男美女は。役者のしての実力もさながら、キラッキラのカリスマ性、そしてエステルトットを彷彿とさせる面影。助演やアンサンブルも一人一人のレベルが異常。なにこの舞台。そりゃチケットとれないわけだよ。
「これは大変な事になった」
私の小さな囁きはディエゴにも聞こえなかった。身を乗り出し、ボックス席のへりから顔を覗かせて、より近くで見ようと試みると二の腕を掴まれた。
「チアキ、身を乗り出しすぎだ」
「ちょ、ちょっとだけ、もう少し近くで」
「この程度の距離を詰めても変わらないだろう」
わかってる。通常席なら絶対しないし。貸し切りボックス席だから少しぐらいいいかな、なんて思ってしまっただけで。ええい網膜に焼き付けさせて。
「チアキ」
囁く小さな声が間近になって泡立った。半分振り返れば、すごく近くにディエゴがいて耳元に唇を寄せている。
もう、耳は止めてって言ってたのに。
「ちょ、近っ」
「だからいい加減に」
掴まれた二の腕を引かれて、あまりの近さに力が抜けてた私はあっさりディエゴの方に傾いた。
これはいけない。
「ひえ」
「っと、」
勢いがついてしまい、私を抱えたまま座席に埋まり直す。ぼふっとクッションの音がして座席が軋む。
待って待って近い近い。抱きしめられてる。ディエゴの胸に綺麗におさまっているのが分かると、かっと体温があがるのを感じた。
「チアキ、決してディエゴから離れないで下さい」
「うんうん、わかってる」
オリアーナが妙に緊張した面持ちで私を見送った本日、待ちに待った2.5次元もとい、この世界でのメジャーな舞台を見に行く日がきた。なかなか公演日までの間に色々あって忘れてたところはあったけど。
きちんと正装して緩む顔を引き締めて会場入りだ。ボックス席に入ってしまえば、どう顔を崩そうがもんどりうとうがディエゴにしか見られない。
「席、どこ?」
「五番ボックスだ。ここをさらに進んだ所だな」
「え、なにそれ。常時専用とか言わないよね?」
「いや、買い取ってはいないが……どういうことだ?」
「いえ、こちらの話です」
さすがにこの世界の今までの舞台で演目にないか。そもそもディエゴがしょっちゅう見に行ってるようにも見えないし。やっぱりオルネッラと脳内オーディオコメンテータリーしたい。
「ソラーレ侯爵令息、ガラッシア公爵令嬢」
「はい」
「おめでとうございますわ」
「?」
「ありがとうございます」
ボックス席に向かうまで、知る顔が挨拶がてら、やたらおめでとうといってくるのは何故かと首を傾げていると、まだ気軽に話せる相手がやってきた。
「あら、貴方達も来ていたの」
「ネウトラーレ侯爵夫人」
「おめでとう、よかったわね」
「ありがとうございます」
「あの、夫人。なんのことです?」
ディエゴは社交辞令さながら応えているけど、それを教えてはくれなかった。
夫人にきけば、楽しそうに笑われ、やっぱり貴方は変わらないわねと言われる。
「貴方、彼と正式に婚約したというのに自覚がないの? ああ、この場合実感というべき?」
「は?」
「先生から伺ったのよ?」
「え、おばあちゃん?」
「先生もとても嬉しそうだったわ」
おばあちゃん本当ツンデレあるあるじゃない。私の前では嬉しそうにしてないのに?
そこはさておき、ディエゴを見上げれば一切目を合わせない以前にこちらを見向きもしなかった。確かに認めるとは言ってたけど。
「何故広まったし」
「ネウトラーレ侯爵夫人の耳に入ったからだろうな」
「夫人……」
二人になれたところできいてみれば、出所夫人だった。おばあちゃんとの仲を考えると、情報は入るだろうし、この人発信になったら早そうだな。
「おばあちゃんも本当ツンデレだよねえ」
「御祖母様はだいぶチアキに心を許しているが」
「それたぶんツンデレの基準で、普通の人わからないよ」
「チアキはわかるのだろう?」
「私は訓練されているので」
そうこうしている内にボックス席にたどり着いた。
そこそこ広めにとられて、装飾まで凝っている。座席の高級感を考えるとなかなかいいお値段しそうな席と踏んだ。
「おお……」
「?」
「ディ、ディエゴ」
ボックスというからには良席だと思ってはいたけど、予想以上に良席すぎやしないか。それがわかっていないのか小首を傾げて不思議そうに私を見ている。なんだ、その所作。可愛いな。
「良席すぎてあがる」
「そうか」
嬉しそうに綻ぶものだから、ぶわっと熱がせりあがる。おおっといけない。ぶれるな、私。今日は舞台の為に、2.5次元の為にきた、そこが一番。
「周囲から見えないからといって、あまり羽目を外さないように」
「手厳しい……」
お姑さんは健在だった。
確かにこの形のボックス席なら、周囲はもちろん身を乗り出さない限りは、役者からも見えなさそう。尊さにゴロゴロのたうち回ることもできるし、尊さに顔面崩壊してもお隣ボックスからは見えない。まあ奇声は発しないようにしようかな。周囲の御迷惑以前に役者の集中力に茶々を入れるわけにはいかない。
「うえへへへ」
「チアキ……」
開演してもう最初からクライマックスだった。なんだ、あの美男美女は。役者のしての実力もさながら、キラッキラのカリスマ性、そしてエステルトットを彷彿とさせる面影。助演やアンサンブルも一人一人のレベルが異常。なにこの舞台。そりゃチケットとれないわけだよ。
「これは大変な事になった」
私の小さな囁きはディエゴにも聞こえなかった。身を乗り出し、ボックス席のへりから顔を覗かせて、より近くで見ようと試みると二の腕を掴まれた。
「チアキ、身を乗り出しすぎだ」
「ちょ、ちょっとだけ、もう少し近くで」
「この程度の距離を詰めても変わらないだろう」
わかってる。通常席なら絶対しないし。貸し切りボックス席だから少しぐらいいいかな、なんて思ってしまっただけで。ええい網膜に焼き付けさせて。
「チアキ」
囁く小さな声が間近になって泡立った。半分振り返れば、すごく近くにディエゴがいて耳元に唇を寄せている。
もう、耳は止めてって言ってたのに。
「ちょ、近っ」
「だからいい加減に」
掴まれた二の腕を引かれて、あまりの近さに力が抜けてた私はあっさりディエゴの方に傾いた。
これはいけない。
「ひえ」
「っと、」
勢いがついてしまい、私を抱えたまま座席に埋まり直す。ぼふっとクッションの音がして座席が軋む。
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