敵で好敵手の想い人に褒賞で婚約させられた私【元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女 外伝】

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18話 朝ちゅん

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「私は問題ないよ」

 なぜか周囲が大笑いした。私の回答になにか問題でも?

「酔っぱらっているだろう」
「多少は」
「もう休め」

 君が一番働いたのだから、と。
 両手が私を囲うように机に置かれ少しだけ屈んでくる。

「明日は休みだし、疲れはないけど?」
「駄目だ」

 なにを不機嫌になっているのだろうか。
 上半身を捻って、後ろを向き見上げるとヴォックスも少し上半身を上げて戻す。

「何か気になることが?」
「……」

 周囲が団長言っちゃえだのヤジを飛ばし始めた。悪のりしているな。周囲を無視してヴォックスの返事を待った。
 彼の眉間の皺が深くなる。

「帰ろう」
「え?」

 両手が私の脇に入ったかと思うとそのままぐいっと持ち上げられた。周囲がなぜかわく。
 軽々しく持ち上げられ、肩に担がれた。私は荷物ではない。妙にわく周囲の中に団長違う持ち方違うという指摘が入った。大いに同意する。

「我々は先に退室する」

 大笑いされ何故か歓声を浴び肩に担がれたまま騎士舎大部屋を後にした。

「ヴォックス?」

 別棟は騎士舎に近いから直ぐに着いてしまう。無言で部屋に入り、私の寝室をあけ、そこでやっとベッドにおろされた。
 ひどく丁寧におろされる中に僅かに緊張が見えた。

「……水を飲むか?」

 断るとヴォックスはベッド端に座る私を見下ろしたまま動かない。

「さっきからどうした?」
「……分かってはいたんだが……」

 先を飲み込んで再び無言になる。

「ヴォックス?」
「……ユツィは人を惹き付ける」
「ん?」
「そういう才能は良いと思う、が、腹も立つ」

 男に対して距離を許している。
 とも言う。

「……ふむ?」
「自覚がないのもタチが悪い」

 機嫌が悪いな。
 ヴォックスは酔っぱらうと絡み酒や説教系に走るタイプではなかったはず。

「ヴォックス」
「な、んっ」

 こいこいと手で招くと素直に屈んだのでそのまま胸ぐらを掴んで引き寄せベッドに叩きつけた。ボフンと音がする。

「ふむ」
「え? え?!」

 ベッドに押し倒されただけで目を丸くして少女のような反応だな。少し面白くなった。

「一緒に寝よう」
「は?!」

 固まった間にベッドからはみ出した足元をぐいぐいベッドに引き込む。すると我に返ったヴォックスが上半身をがばりと起こした。

「こら!」
「ご褒美」
「は?」

 遠征の褒美だと言いながらヴォックスの隣に寝そべる。
 少し酔って僅かに赤みを帯びていた頬のその色に深みが増した。

「遠征の褒美だよ。一緒に寝よう」
「それは駄目だ!」
「いいじゃない」

 私も起き上がり笑って両肩に手を添えベッドに戻そうとすると抵抗に合う。素晴らしい腹筋だこと。

「私と寝るのはそんなに嫌?」
「違う」
「ならいいね」

 出会ってからこういう風に寝たことはなかった。グレース騎士学院の演習では交代で就寝していた分、並んで寝るということはなかったし。
 なにより王国の併合から褒賞による婚約ときて候補生だった頃のような関係からは遠ざかっていた。彼を許せる自分になる為にも今からこうして少しずつやっていくしかない。なので今回は酒の力を大いに借りようと思う。

「酔っぱらってるだろう!」
「私のことが好きではない?」
「そ、れは、君が素面の時に話すべきことだ」

 否定しないところがヴォックスらしい。

「好きなら一緒に寝れるね」
「だからっ」

 意固地なヴォックスに少しいらっとして首に飛び付いて腕を絡めた。
 いきなりの行動に驚いたヴォックスはそのままベッドに沈んだ。

「な、な……!」
「寝よう」

 離さないと言わんばかりに腕の力を強めるとヴォックスはついに諦めた。すとんと力が抜ける。

「はじめから素直に寝てくれればいいのに」
「……」

 久しぶりの人のあたたかさに瞼が重くなった。

「おやすみヴォックス」
「……」


* * *

 翌日目を覚ますと目の下にクマができたヴォックスが私に腕枕をして凝視していた。腕枕をしてくれるなんて優しい。なのにその割にガンをきかせててよくわからない。

「お早う、ヴォックス」
「…………ああ」

 お早うと掠れた声で返されるも、低い声音に呆れて笑ってしまう。
 そもそも彼を許すもなにもない。ヴォックスは何もしていないし、彼を責めるのはお門違いだ。
 殿下の事が頭とよぎる。酔っぱらっていたから忘れていた。忘れてはいけない人。どう生きていけばおさまるところに辿り着けるだろうか。

「ご褒美にならなかった?」
「……酔っ払ってなければ」

 君が俺を許してくれたらと囁かれる。思わず眉を下げてしまう。
 けど決して許すという一言も、はじめから悪くないと言う言葉も出せなかった。
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