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17話 遠征後、褒美の乾杯
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帝都の見回りは私がヴォックスに連れ添う前提で予定が組まれ、無事遠征前までに体制を整えることができた。
帝都に住む王国民に会えたことも嬉しかったし紙の上の帝都がより頭に入り込んだ。
ヴォックスとしても王国民である婚約者を連れ添うことで仲の良さを帝国民に示すことが出来て皇室支持や面子を保つことが出来ただろう。よく考えていると思うが、ヴォックスは元々一定の人気があるようで帝国民は友好的だった。心配する必要もなさそうなものだが慎重なのだろう。
「にしても、この前の遠征自体はさほどでもなかったかな」
「ユツィ、何事もなくて良かったじゃないか」
今回は併合地での反乱行為をおさめるだけで大規模な戦争ではない。剣を交えることもあったが、相手の数も少なく統率もとれていなかった。
軽く剣を交えた小競り合いの後、ヴォックスが対話を行い丸くおさめてしまう。才能というものだろうか。皇族としての生まれの教育からか、本人の努力か、上に立つ者としての資質を十二分に持っている。
「と、思っていて」
「副団長、それ本人に言えばいいのに」
「必要ないでしょう」
所変わって帝国王城、遠征後の褒美だとヴォックスが酒と御馳走を振る舞う。仕事後の褒美だと言って、これはどんな戦いの後でもやるらしい。つまりレースノワレを併合していた時も行っていたということだけど、そこは追及しなかった。併合された側はさておき、戦争に参加した騎士達の士気を損なわないためにはこういう気晴らしが必要なのは充分分かっている。
折角なので私も騎士達に混じって飲んだ。今回の遠征におけるヴォックスについて考察を求められたので粗方私の考えを述べたら少し呆れられた。何故。
「まあ俺達が立場関係なく騎士やっていけんのも団長のおかげだしなあ」
「レースノワレだけじゃないすよ。他の併合した国の騎士沢山いますし、俺も元は弱小公国の人間ですし」
隣の元王国騎士は酒を煽りながら、目の前の若い騎士は肉にかぶりつきながら喋る。騎士達の略歴は把握していた。実に多種多様な人材が集まっている。
「そういえば、この騎士団には変な諍いがないね」
「ユースティーツィア嬢さん、それは野暮だな」
「ん?」
「小競り合いはいくらでもあるさ。他人同士、全然違うからな」
ただ陰湿なものはない、ということだ。誰か一人、粗探しをして自分達とは違うと贄として悪として祭り上げ集団で暴力を向けた方が他大多数の結束力は高まる。けどこの帝国騎士団は違う。多くが違いすぎて逆に他人との違いを気にせず糾弾しない。
通常閉鎖的な場では一人異物が入っただけで迫害を受ける可能性が出る。この騎士団だからこそぶつかりはしても集団暴行はないということだ。
「まあ嬢さん、真面目な話はよそうぜ」
「そうですよ! 遠征終わったんで飲んで食べるだけでいいじゃないですか」
「そうですね」
多くの騎士が挨拶と乾杯がてらやってくる。代わる代わる人が変わる中、何も気にせず笑って飲むだけというのは久しぶりだった。
元々酒には割と強いが周囲も同じく強い為かなりの量を飲んだ。久しぶりに酔いが回っている気がした。
離れたところで酒を掲げながら歌い踊ったり、あちこちで酔いつぶれて机に突っ伏したり、ちらほらと床で寝る者が出始める。
「ユースティーツィアねえさまあぁあ」
その昔、王国で剣の面倒を見たことのある元王国騎士が左隣に座った。だいぶ酔っぱらっているな。私を姉様呼ばわりするのは王国にいた時だけだった。
「私は君の姉じゃない」
そんなあ、とあからさまに残念がる。右隣の熟練帝国騎士が大笑いしていた。
「いいじゃないですか副団長」
「けど」
「ここにいる奴らは皆貴方にお近づきになりたい輩ばっかですよ」
「そんな事はないでしょう」
ふと王国の短絡的思考がよぎる。強い人間に自ずと近づき従う王国の強者頂点思考が騎士団にもあるのだろうか。そうなるとヴォックスの次に強い私を支持するのは常識となる。そういうことか。
「全然違いますよお、ねえさまあ」
「声に出してた?」
「出してないけどモロ顔に出てますわ」
左右両方から呆れた言葉を投げ掛けられる。
酔っぱらっている分隠せないか。気分もいいから仕方ない。
「あと割と無防備なとこもありますしい」
「はは、違いねえ」
「ええ?」
射程圏内に入れば距離を詰められる前に斬る自信がある。
「違いますって。そういう意味じゃないですう」
「はは、こういうやつですわ」
ずいっと右隣から距離を詰められる。ヴォックスに匹敵するぐらい背の高い彼は私を見下ろす形で笑った。
味方の距離が近いのは戦いではままあるけど。
「じゃあ自分も」
と左隣からも詰めようとする気配があった瞬間、背後に別格の気配を感じた。
笑いながら離れていく右側と、詰めずに終わる左側を把握した後、私の両側にずどんと勢いよく酒の入ったジョッキが置かれる。
両隣が大笑いだった。何故だ。
「ユツィ」
「ヴォックス?」
相変わらず人がいる所で相性で呼ぶ。見上げると腰を折って私を見下ろし覗くヴォックスがいた。彼も酔っぱらっているが平静ではある。
「もう充分飲んだろう。そろそろ戻ったらどうだ」
「私は問題ないよ」
なぜか周囲が大笑いした。私の回答に何か問題でも?
帝都に住む王国民に会えたことも嬉しかったし紙の上の帝都がより頭に入り込んだ。
ヴォックスとしても王国民である婚約者を連れ添うことで仲の良さを帝国民に示すことが出来て皇室支持や面子を保つことが出来ただろう。よく考えていると思うが、ヴォックスは元々一定の人気があるようで帝国民は友好的だった。心配する必要もなさそうなものだが慎重なのだろう。
「にしても、この前の遠征自体はさほどでもなかったかな」
「ユツィ、何事もなくて良かったじゃないか」
今回は併合地での反乱行為をおさめるだけで大規模な戦争ではない。剣を交えることもあったが、相手の数も少なく統率もとれていなかった。
軽く剣を交えた小競り合いの後、ヴォックスが対話を行い丸くおさめてしまう。才能というものだろうか。皇族としての生まれの教育からか、本人の努力か、上に立つ者としての資質を十二分に持っている。
「と、思っていて」
「副団長、それ本人に言えばいいのに」
「必要ないでしょう」
所変わって帝国王城、遠征後の褒美だとヴォックスが酒と御馳走を振る舞う。仕事後の褒美だと言って、これはどんな戦いの後でもやるらしい。つまりレースノワレを併合していた時も行っていたということだけど、そこは追及しなかった。併合された側はさておき、戦争に参加した騎士達の士気を損なわないためにはこういう気晴らしが必要なのは充分分かっている。
折角なので私も騎士達に混じって飲んだ。今回の遠征におけるヴォックスについて考察を求められたので粗方私の考えを述べたら少し呆れられた。何故。
「まあ俺達が立場関係なく騎士やっていけんのも団長のおかげだしなあ」
「レースノワレだけじゃないすよ。他の併合した国の騎士沢山いますし、俺も元は弱小公国の人間ですし」
隣の元王国騎士は酒を煽りながら、目の前の若い騎士は肉にかぶりつきながら喋る。騎士達の略歴は把握していた。実に多種多様な人材が集まっている。
「そういえば、この騎士団には変な諍いがないね」
「ユースティーツィア嬢さん、それは野暮だな」
「ん?」
「小競り合いはいくらでもあるさ。他人同士、全然違うからな」
ただ陰湿なものはない、ということだ。誰か一人、粗探しをして自分達とは違うと贄として悪として祭り上げ集団で暴力を向けた方が他大多数の結束力は高まる。けどこの帝国騎士団は違う。多くが違いすぎて逆に他人との違いを気にせず糾弾しない。
通常閉鎖的な場では一人異物が入っただけで迫害を受ける可能性が出る。この騎士団だからこそぶつかりはしても集団暴行はないということだ。
「まあ嬢さん、真面目な話はよそうぜ」
「そうですよ! 遠征終わったんで飲んで食べるだけでいいじゃないですか」
「そうですね」
多くの騎士が挨拶と乾杯がてらやってくる。代わる代わる人が変わる中、何も気にせず笑って飲むだけというのは久しぶりだった。
元々酒には割と強いが周囲も同じく強い為かなりの量を飲んだ。久しぶりに酔いが回っている気がした。
離れたところで酒を掲げながら歌い踊ったり、あちこちで酔いつぶれて机に突っ伏したり、ちらほらと床で寝る者が出始める。
「ユースティーツィアねえさまあぁあ」
その昔、王国で剣の面倒を見たことのある元王国騎士が左隣に座った。だいぶ酔っぱらっているな。私を姉様呼ばわりするのは王国にいた時だけだった。
「私は君の姉じゃない」
そんなあ、とあからさまに残念がる。右隣の熟練帝国騎士が大笑いしていた。
「いいじゃないですか副団長」
「けど」
「ここにいる奴らは皆貴方にお近づきになりたい輩ばっかですよ」
「そんな事はないでしょう」
ふと王国の短絡的思考がよぎる。強い人間に自ずと近づき従う王国の強者頂点思考が騎士団にもあるのだろうか。そうなるとヴォックスの次に強い私を支持するのは常識となる。そういうことか。
「全然違いますよお、ねえさまあ」
「声に出してた?」
「出してないけどモロ顔に出てますわ」
左右両方から呆れた言葉を投げ掛けられる。
酔っぱらっている分隠せないか。気分もいいから仕方ない。
「あと割と無防備なとこもありますしい」
「はは、違いねえ」
「ええ?」
射程圏内に入れば距離を詰められる前に斬る自信がある。
「違いますって。そういう意味じゃないですう」
「はは、こういうやつですわ」
ずいっと右隣から距離を詰められる。ヴォックスに匹敵するぐらい背の高い彼は私を見下ろす形で笑った。
味方の距離が近いのは戦いではままあるけど。
「じゃあ自分も」
と左隣からも詰めようとする気配があった瞬間、背後に別格の気配を感じた。
笑いながら離れていく右側と、詰めずに終わる左側を把握した後、私の両側にずどんと勢いよく酒の入ったジョッキが置かれる。
両隣が大笑いだった。何故だ。
「ユツィ」
「ヴォックス?」
相変わらず人がいる所で相性で呼ぶ。見上げると腰を折って私を見下ろし覗くヴォックスがいた。彼も酔っぱらっているが平静ではある。
「もう充分飲んだろう。そろそろ戻ったらどうだ」
「私は問題ないよ」
なぜか周囲が大笑いした。私の回答に何か問題でも?
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