退役して復讐しようとしたら告白を受けた

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14話

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 その日は綺麗な満月だった。
 雲一つない晴天なので星空もよく見える。
 少尉と街に出た翌日、本来なら来るはずない日時に訪問を告げるベルがなる。
 監視カメラの映像を確認すると少尉だった。今日は花束を持っていなかった。
「こんな時間にどうした」
「申し訳ありません。このような時間に女性の元に訪れるのは憚られると思ったのですがどうしても……」
「あがってくか?」
「いいえ、このままで」
 なので、私は家の扉を閉じて外に出た。月明かりで丘はうっすら明かりが灯っている。
「……」
 彼が来た理由は知っていた。
 敢えて聴きはしない。それは彼が決めることだ。

「明朝、発つことになりました」
「そうか」
 たっぷり時間を置いて、彼はゆっくりその言葉を口にした。
 ミランの言う通り遠征への出発は早まった。2週間後が明日早朝へ変更。今の外の状況を鑑みれば妥当だ。さすがミラン、判断が早い。
「……本当は、」
「?」
 少尉は話すのを躊躇っている。
 感のいい彼なら私が情報をある程度把握してるのはわかってると思うが。
「いいえ、何も言いません」
「何故か聞いても?」
「ありきたりじゃないですか。行く前に色々告白するなんて、約束なんて持ってのほかです」
 どんな内容であれ兄弟達とは約束を結ばない主義らしい。真面目な青年だ。
 この短いようなそうでもないような時間を過ごして充分知ることができた。彼は優しく真面目だと。
「復讐はまだお考えですか?」
「それは、」
「私がどう言おうとアリーナの中で解決しないといけないことはわかっています。ですが復讐なんて」
「意味のないことだと?」
「えぇ」
 不思議なことに、少し前の私なら意固地になって反論していただろう言葉だった。
 復讐に意味はない。
 頭では分かっていた。奴らに報復したところで、私の部下は戻らない。
 そうわかっていても復讐から離れることは出来なかった。怒りや遣る瀬無さ悲しみ喪失感、見て見ぬ振りしたくて復讐という激情に変換するしかなかった。
 自分を激情で鼓舞して痛む身体を動かそうとしていた。あの時の私は間違いなく部下の死は自分のせいだと思っていた。
「何故、彼女が亡くなったか知っているんですか?」
「あぁ」
「では、貴方の出自も」
「あぁ」
 どうして彼女が毒を盛る事になったか、そして死ぬ事になったか。知っていてもその事実を見ることはなかった。

 私は現在、軍で最高位である元帥の弟君の孫、姪孫てっそんにあたる。
 1度も会った事のない祖父、元帥の弟の娘である母は、若かりし頃、身分のない者と婚姻を結ぶ為、家を出た。元帥の家系は由緒ある貴族、一族の血が重要視されていただろう、自由恋愛での結婚は反対されたと見られる。
 私は幼少期母からそんな話も聴かされてなかったし、祖父は私が物心つく前に死んでいた。最も、母がその死を知っていたかは分からない。母自身も会う気はなかっただろうし、勘当され一族の情報は知らなかっただろうから。
 そんな母は私の後、弟になるのか妹になるのか今となっては分からずじまいだったが、2人目の子供を妊娠し死亡した。
 父は母の為に薬を入手しようとしたのか不明だが、軍へ赴きその道中攻めてきた他国の攻撃によって命を落とした。私はここで両親をほぼ同時に失うわけだが。話が逸れるな。
「私が元帥の姪孫であることなんて、どうでもいいんだがな」
「しかし、周囲はそうとは思ってません。伍長もそうだったのでしょう」
 その母が家を出る前、大きく広い屋敷で生活していた時に良くしていた侍女がいた。
 それが奴らに殺された伍長の生みの母親だ。
 伍長の生みの母親は、貧困を理由に伍長を養子に出している。侍女が子供を育てられない程の貧困であるとは思えないが、そこに至る理由は今は関係ない。
「伍長とは幼少期、よく遊びました」
「あぁ、ミランの遠縁にあたるからか」
 伍長の引き取り先はミランの遠縁だ。どうやらルーカスの家とも近かったらしい。
 ミランの遠縁だったからこそ、伍長の母親をミランの良く知る療養所に移すことが出来た。そこは本当に良かったと言える。
「失礼かもしれませんが…アリーナは血筋血族のしがらみというものの根深さを知らないのかもしれません」
「その通りだ。だから未だ納得いかないのだろうな」
 伍長自身の出自から雪崩式に私の出自が知れると考えたらしい。
 伍長の実母を確保したと嘘を伝え、私を殺害するよう奴らから脅迫された時、伍長は何もしなくて良かったはずだった。生みの母親はミランの手によって保護されてたのだから。
 けれど、彼女は私に毒を盛った。
「彼女が毒を利用したのは、アリーナを仮死状態にして死を偽装し生かすことが目的だったからです」
「あぁ」
「伍長は貴方に静かな所で……戦いと関係ない所で暮らしてほしいと、そう願っていたんです」
 知っている。
 知っているよ。それは言葉として発することはなかった。
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