最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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魔法学園編

夏のデートイベント~エヴァン~

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 それから一週間ほどした天気の良い日に私は道場で鍛錬を行っていた。

(ほぼカンスト状態だけど、美容と教養ばっかりだとパラメーターが下がるし、ストレスが溜まるのよね)

 私は一通りの鍛錬を終えるとそこにエヴァンがやってきた。

「こんにちは、エヴァン君。エヴァン君も鍛錬に?」

「いや、今日はクラキに会いに来た」

「私に?」

「今日は天気が良い。良かったら馬で遠乗りしないか?」

「うん、良いわね! ぜひ、行きましょう」

 この世界にも勿論馬はいる。

 私も学園に入学してすぐ、馬術訓練を行った。

 最初は不規則な揺れと高さで怖い思いもしたが、慣れれば可愛らしく頼もしい存在である。

 私たちはそれぞれ自分の馬を引いて来た。

 私の馬は黒く額と足だけが白く、エヴァンの馬は栗毛の馬だった。

「どこまで行くの?」

「あの丘を越えたあたりに湖がある。そこまで」

 エヴァンは颯爽と馬に乗り込み、走らせた。

 私もその後を追いかけた。

 少し秋が近くなってきて、馬と共に風を切るのは気持ちが良い。

 私たちはまるで馬と一体になったかのように草原を駆け抜けた。

 森を抜け、視界が開けるとそこには湖が広がっていた。

 水があまりに透明で鏡のように森を映している。

「わぁ、綺麗!」

「ここはオレ以外誰も知らない場所だ。ちょっと待ってろ」

 エヴァンは軽やかに馬を降りると荷物を下ろした。

「ほら」

「これって釣り竿?」

「クラキの世界では釣りはやらないのか?」

「私がやったことがないだけ」

 そうかとエヴァンが手際よくセッティングを始める。

 釣り針は金属でお手製とみられる木製のルアーにつなぐ糸はどうやら絹らしい。

「これが疑似餌だ。これを生きているように動かしながら釣る」

「なるほど」

 それから二人は無言で釣りを行った。

 しばらく集中と沈黙で出来た静寂が降りる。
 
 その時間も気詰まりではなく、穏やかな湖面をじっと見つめていると瞑想しているように心が安らぐ。

 先に当たりが来たのはエヴァンの竿だった。


「来た」

 エヴァンは冷静に魚と格闘する。

 糸が切れないように魚の動きに合わせつつ、徐々に弱って来たところで私は網ですくった。

「うわ、釣れた」

「よし、もう一匹釣るぞ」

 二人は再び釣り糸を垂らした。

 私は竿の変化を逃さないように目と手に神経を集中させる。

 今度は私に当たりが来た。

「え、なんか重たいけど、どうしたらいいの?!」

「慌てるな、バレる。魚の動きに合わせろ」

 エヴァンが私を抱きすくめるように後ろから竿を掴む。

 大きなエヴァンの身体にすっぽり包まれた私はあまりの急接近に動揺する。

 手の中では竿が強く振動している。

 私は軽いパニックに襲われた。

 しかし、背中から聞こえるエヴァンの声は落ち着いていた。

「これは大物だ。少しずつ引き寄せて行くぞ」

 はいっと私の声が裏返る。

 魚と格闘すること十分、見事な大物が釣れた。

「よし。薪を拾ってきてくれ。オレははらわたを抜いている」

 エヴァンがナイフを取り出した。

 私は森の中に入って適当な枝を拾い集め、簡単な魔法呪文で火をつけた。

「下拵えも出来た。焼くぞ」

「わーい!」

 パチパチと脂ののった魚が焼ける良い匂いがしてくる。

「焼けた。喰うといい」

「頂きます……美味しい」

 飾り塩もしっかりしてあって、淡水魚とは思えないほど臭みがなく美味しい。

 しばらく無言で食事を進めていたが沈黙を破ってて、私は切り出した。

「エヴァン君、今日はどうしてこんな素敵な場所に連れてきてくれたの?」

「それは……ここが誰も来ないのと頼みがあったからだ」

 頼みと私はオウム返しに尋ねた。

 エヴァンは耳をピンと立て尻尾の毛を逆立てて、頭を下げた。

「前、召喚していた魔獣に触らせてらいたい!」

 えっと私は思わぬ依頼にきょとんとした。

「前のってサフィラの事?」

「……そうだ」

「わかった、ちょっと待ってね」

 私は基礎魔法陣の書かれた羊皮紙を数枚とペン、持ち歩き用の魔法杖を取り出した。

 記入が終わるとナイフで血を落とし、詠唱をする。

「サフィラ、久しぶりー」

「!」

 エヴァンは思わず尻尾を振った。

 私は抱えたサフィラをそっとエヴァンの膝の上に降ろした。

「さあ、どうぞ」

「なんて綺麗な毛並みなんだ。ふわふわだ」

 エヴァンはサフィラを抱きしめてうっとりとした。

 私はそれからピンク色の羊、銀色の体毛のアザラシの赤ちゃん、白い毛のライオンなど様々な魔獣を呼び出した。  

「……!」

 エヴァンは声を詰まらせ、尻尾がちぎれるほど振った。

 魔獣たちを眺めたり、撫でたりしている。

 そこにいつもの硬い表情はなく、自然と微笑みが浮かんでいた。

 幸せそうなエヴァンを見ている自然と私の口元も綻んだ。

 エヴァンの新たな一面を発見した私は一緒に魔獣を撫でながら。ためらいがちに尋ねた

「動物が好きなの?」

「……動物は好きだが、オレからは獣の香りがして動物に怖がられてな。いつも逃げられてしまうんだ。男のくせに女々しいと兄たちからはよく馬鹿にされる」

「獣人と人間のハーフなんだっけ?」

「俺の父はこの国の将軍で母は後妻で人間だ。兄弟で純然たる獣人じゃないのはオレだけだ・・・・・・だからせめて、心だけは武官として高い志を持とうと思っている」

 ふっと自嘲気味な笑いが零れる。

「だから、魔法武術の手合わせでクラキに負けた時ショックだった。立ち直れないほどにな」

「それは……」

「いい、分かっている。オレは一年の頃、夜中まで回復呪文を使いながら鍛錬しているお前を知っている。あれは真剣勝負だった。お前の努力を知りながらも、受け入れられなかった。そして、その一度の試合を引きずり、立ち直れなかったのがオレの弱さだ。今ではあの敗北に感謝している」


 動物たちに囲まれ、穏やかな表情でエヴァンは私に拳を突き出した。

「しかし、次は負けない。首を洗って待っていろ、マヤ」

「わかった。その勝負受けて立ちます」

 私はその拳にそっと自分の拳を当てた。

 エヴァンは無言で頷いた。

 静かな湖畔の元、穏やかな昼下がりであった。

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