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魔法学園編
夏のデートイベント~リアン~
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エヴァンと遠乗りに行ってから一週間。
長い夏休みはまだ終わらない。
私は暇を持て余し、博物館へと行ってみることにした。
デヴィンに買ってもらった緑色のワンピースにシンプルなハットを被り、街へと出かけた。
博物館と銘打たれたその建物はまるで神殿の様に太い大理石の柱が立っており、荘厳な印象を与えた。
中には彫像、絵画、古代の黄金のアクセサリー、壺や磁器など多岐に渡っていた。
(うーん、じっくり見ていたら、何日もかかりそう)
そう思いながら歩いていると前方から見覚えのある人物が歩いて来た。
「リアン先輩、こんにちは」
「ああ、クラキ君。君も来ていたんだね」
「はい。初めて見たんですけれど、すごい所蔵品ですね」
「ここは大陸でも有数の博物館だからね……そうだ、この後少し時間があるかな?」
「ええ、暇ですけれど、どうしました?」
「私の家がすぐ近くでね。君の世界やこの国についての見解をぜひ聞かせてもらいたいと思って」
(そういえば、お話しするって約束して果たせていなかったよね)
私はにっこり笑って首肯した。
博物館はまた来ることができるが、リアンと話す機会は貴重だ。
「ぜひ、喜んで。ですが急にお邪魔して大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。それでは行こうか」
リアンは自家用の馬車に私を誘った。
毎回ながらエスコートされるのはくすぐったい感覚である。
リアンの言う通り、博物館から出て十五分ほどでリアンの邸宅はあった。
そこは貴族の家が立ち並ぶ中で一際大きな屋敷だった。
無数の窓にいくつもの煙突が伸び、それでいて美しさを損ねていない。
「立派なお家ですね……」
「古いだけだよ……今帰った」
「お帰りなさいませ、リアン様。そちらの女性は?」
「学友だ。図書室にお茶を届けてくれ」
「かしこまりました」
玄関に入ると二方向から階段が伸びていて中央には巨大な肖像画が掛けられている。
天井には豪奢なシャンデリアが吊るされていた。
学園も豪華な造りだが、それを軽く凌駕していた。
私はつい気後れしてしまい、歩幅が無意識のうちに小さくなっていった。
「クラキ君、部屋はこっちだよ」
唖然としていた私は急いでリアンを追いかけた。
案内された図書室も学校の図書室と同等かそれよりも多いほど本が整然と並べられていた。
「すごい本ですね」
「祖父の道楽でね。昔からここで本を読むのが好きだった……だが、なかなか異世界に関して記述されている文献は少ない。言葉を解さない魔物や魔獣、それに秘密主義な精霊に妖精。異世界の人間が召喚されるのは非常に珍しいんだ。しかもこんな長期間にわたって滞在するのはね。あと以前に君が書いたレポートを読んだよ。非常に分析力が高く、論理的で独創的だった。やっとこうして話せる」
リアンは机から羊皮紙を出してきて、私にソファーに座るよう促した。
それから自らも対面に座った。
「君の世界はどんな暮らしをしていたんだ? 魔法が無いって聞いたけど本当なのかな?」
私は事細かに自分の世界の様子を問われるがままに答えた。
その度にリアンが興味深げに頷いたり、感心したりした。
話を聞くリアンの眼鏡の奥の黒い瞳は好奇心に満ち溢れていた。
「電気か。魔法の代わりにそんなエネルギーが存在するなんて考えてもみなかったよ。雷の力と同じ現象なのかな?」
「雷の性質は電気ですが、あまりにも力が大きくて気象によって発生する雷をエネルギーとしては利用できないのですよ。すみません、私も専門ではないのでよく知らなくって」
「いや、とても興味深いよ。風や火、水、地熱によってエネルギーを得てそれを平等に行き渡らせることで国民の生活を豊かにしているんだね。四大元素と関りがあるのかな……」
そこで図書室のドアがノックされた。
執事が礼儀正しく一礼しながら入室してきた。
一瞬だけ執事は私を値踏みするように視線を向け、すぐにリアンに向き直った。
「リアン様、夕食の用意ができましたが」
「今行く。良かったら夕食を食べて行ってくれないかな? それに見せたいものがあるんだ」
「え、私の予定はありませんが、こんな遅くまでお邪魔して大丈夫ですか?」
「良かった。問題ないよ」
夕食はリアン以外の家族はおらず、二人だけの食事となった。
「父と母は今夜夜会に呼ばれていてね。堅苦しくしなくていいよ」
私は少しだけ気を休めたが、周りのメイドたちの視線が背中にざくざくと刺さっているのを強く感じた。
それでも何とかボロを出さずに、夕食を終えると、リアンは出かけると言い出した。
「彼女に薄手のケープを」
「こちらをお召し下さい」
メイドが私に羊毛のケープをかける。私たちは再び馬車に乗り込んだ。
リアンがランプを持って降りると、そこには八角形をした不思議な建物があった。
「ここは一体?」
「天文台だよ」
この時代に天文台ってあったんだと感心しながら、私はリアンに手を引かれランプの照らす道を歩いた。
暗闇の中リアンの体温だけを頼りに進んでいく。
それは不思議に安心感と高揚感をもたらした。
研究者たちが熱心に記録している横をリアンが通ると、皆一様に頭を下げた。
「リアン先輩と天文台には何か関係があるんですか?」
「祖父がいくらか寄付をして出来た天文台だからね。私も幼い頃から来ていて顔見知りなんだよ。それよりほら、空が綺麗だ」
テラスに出るとリアンが指をさした。
「あれが月で熊手があると言われている」
「熊手が?」
「不届き物が池に宝物を落としてね、熊手で探しているところに役人が来たものだから咄嗟に池に映る満月を示して『あそこに大きなチーズがあるでしょう。あれをとっています』と機転を利かせたんだ。そういう伝承。あの星の並びを辿っていくとほら、あれが北極星。それからあの青い星と赤い星の関係が並んでいると豊作になると言われている。それと……あそこに箒星が浮かび上がっているだろう。あれは凶兆の証なんだ」
「凶兆……それって」
「そうだ、君がここに呼ばれたのはあの星が現れたからなんだ。この王国の危機を意味している。星と運命とがどう結ばれているのか私にはわからないが、解き明かしてみたいものだな」
「リアン先輩ならできますよ」
いやとリアンは首を振った。
「父はこの国の宰相でね。私も将来は政治家になることが義務付けられている。嫡男だからね。今はまだ学びたいことが多くて学園に籍を置いているけれど、それもあと数年のことだ。時間が、一日がもっと長かったら良かったのにと思うよ。けれど必ず日が昇るし、こうして夜がやってくるんだ。少しでも時間が惜しくて、本ばかり読んでいた。
周りの人間たちがみんな低俗でくだらない人間に見えていた。だから、こんなに他人と話すのは初めてだ。自分の事をこんな風に語るのは新鮮だな」
リアンはもどかしくやるせない胸中を語った。
私はずっと繋いでいたリアンの手を強く握った。
少しでもリアンにこの強い気持ちが伝わるように願った。
「お家の事情は異邦人の私では理解が及ばないかもしれませんが、真実を探求するのに資格も義務も職務も関係ないと思います。一生かかったっていいじゃありませんか。リアン先輩の夢を捨てることはありませんよ」
「……そうだね。私たちの人生はまだ長い。追い求めていればいつか辿り着くかもしれないね」
はいと私は頷いて、二人は満天の星空を眺めた。
その時流星が一筋零れ落ちた。
「ねえ、リアン先輩。私の世界では流れ星が消えるまでに三回願い事を言うと叶うって言われているんです」
「そうか、それでは私も願おう」
流星が長い尾を引き、煌めいて消えていった。
長い夏休みはまだ終わらない。
私は暇を持て余し、博物館へと行ってみることにした。
デヴィンに買ってもらった緑色のワンピースにシンプルなハットを被り、街へと出かけた。
博物館と銘打たれたその建物はまるで神殿の様に太い大理石の柱が立っており、荘厳な印象を与えた。
中には彫像、絵画、古代の黄金のアクセサリー、壺や磁器など多岐に渡っていた。
(うーん、じっくり見ていたら、何日もかかりそう)
そう思いながら歩いていると前方から見覚えのある人物が歩いて来た。
「リアン先輩、こんにちは」
「ああ、クラキ君。君も来ていたんだね」
「はい。初めて見たんですけれど、すごい所蔵品ですね」
「ここは大陸でも有数の博物館だからね……そうだ、この後少し時間があるかな?」
「ええ、暇ですけれど、どうしました?」
「私の家がすぐ近くでね。君の世界やこの国についての見解をぜひ聞かせてもらいたいと思って」
(そういえば、お話しするって約束して果たせていなかったよね)
私はにっこり笑って首肯した。
博物館はまた来ることができるが、リアンと話す機会は貴重だ。
「ぜひ、喜んで。ですが急にお邪魔して大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。それでは行こうか」
リアンは自家用の馬車に私を誘った。
毎回ながらエスコートされるのはくすぐったい感覚である。
リアンの言う通り、博物館から出て十五分ほどでリアンの邸宅はあった。
そこは貴族の家が立ち並ぶ中で一際大きな屋敷だった。
無数の窓にいくつもの煙突が伸び、それでいて美しさを損ねていない。
「立派なお家ですね……」
「古いだけだよ……今帰った」
「お帰りなさいませ、リアン様。そちらの女性は?」
「学友だ。図書室にお茶を届けてくれ」
「かしこまりました」
玄関に入ると二方向から階段が伸びていて中央には巨大な肖像画が掛けられている。
天井には豪奢なシャンデリアが吊るされていた。
学園も豪華な造りだが、それを軽く凌駕していた。
私はつい気後れしてしまい、歩幅が無意識のうちに小さくなっていった。
「クラキ君、部屋はこっちだよ」
唖然としていた私は急いでリアンを追いかけた。
案内された図書室も学校の図書室と同等かそれよりも多いほど本が整然と並べられていた。
「すごい本ですね」
「祖父の道楽でね。昔からここで本を読むのが好きだった……だが、なかなか異世界に関して記述されている文献は少ない。言葉を解さない魔物や魔獣、それに秘密主義な精霊に妖精。異世界の人間が召喚されるのは非常に珍しいんだ。しかもこんな長期間にわたって滞在するのはね。あと以前に君が書いたレポートを読んだよ。非常に分析力が高く、論理的で独創的だった。やっとこうして話せる」
リアンは机から羊皮紙を出してきて、私にソファーに座るよう促した。
それから自らも対面に座った。
「君の世界はどんな暮らしをしていたんだ? 魔法が無いって聞いたけど本当なのかな?」
私は事細かに自分の世界の様子を問われるがままに答えた。
その度にリアンが興味深げに頷いたり、感心したりした。
話を聞くリアンの眼鏡の奥の黒い瞳は好奇心に満ち溢れていた。
「電気か。魔法の代わりにそんなエネルギーが存在するなんて考えてもみなかったよ。雷の力と同じ現象なのかな?」
「雷の性質は電気ですが、あまりにも力が大きくて気象によって発生する雷をエネルギーとしては利用できないのですよ。すみません、私も専門ではないのでよく知らなくって」
「いや、とても興味深いよ。風や火、水、地熱によってエネルギーを得てそれを平等に行き渡らせることで国民の生活を豊かにしているんだね。四大元素と関りがあるのかな……」
そこで図書室のドアがノックされた。
執事が礼儀正しく一礼しながら入室してきた。
一瞬だけ執事は私を値踏みするように視線を向け、すぐにリアンに向き直った。
「リアン様、夕食の用意ができましたが」
「今行く。良かったら夕食を食べて行ってくれないかな? それに見せたいものがあるんだ」
「え、私の予定はありませんが、こんな遅くまでお邪魔して大丈夫ですか?」
「良かった。問題ないよ」
夕食はリアン以外の家族はおらず、二人だけの食事となった。
「父と母は今夜夜会に呼ばれていてね。堅苦しくしなくていいよ」
私は少しだけ気を休めたが、周りのメイドたちの視線が背中にざくざくと刺さっているのを強く感じた。
それでも何とかボロを出さずに、夕食を終えると、リアンは出かけると言い出した。
「彼女に薄手のケープを」
「こちらをお召し下さい」
メイドが私に羊毛のケープをかける。私たちは再び馬車に乗り込んだ。
リアンがランプを持って降りると、そこには八角形をした不思議な建物があった。
「ここは一体?」
「天文台だよ」
この時代に天文台ってあったんだと感心しながら、私はリアンに手を引かれランプの照らす道を歩いた。
暗闇の中リアンの体温だけを頼りに進んでいく。
それは不思議に安心感と高揚感をもたらした。
研究者たちが熱心に記録している横をリアンが通ると、皆一様に頭を下げた。
「リアン先輩と天文台には何か関係があるんですか?」
「祖父がいくらか寄付をして出来た天文台だからね。私も幼い頃から来ていて顔見知りなんだよ。それよりほら、空が綺麗だ」
テラスに出るとリアンが指をさした。
「あれが月で熊手があると言われている」
「熊手が?」
「不届き物が池に宝物を落としてね、熊手で探しているところに役人が来たものだから咄嗟に池に映る満月を示して『あそこに大きなチーズがあるでしょう。あれをとっています』と機転を利かせたんだ。そういう伝承。あの星の並びを辿っていくとほら、あれが北極星。それからあの青い星と赤い星の関係が並んでいると豊作になると言われている。それと……あそこに箒星が浮かび上がっているだろう。あれは凶兆の証なんだ」
「凶兆……それって」
「そうだ、君がここに呼ばれたのはあの星が現れたからなんだ。この王国の危機を意味している。星と運命とがどう結ばれているのか私にはわからないが、解き明かしてみたいものだな」
「リアン先輩ならできますよ」
いやとリアンは首を振った。
「父はこの国の宰相でね。私も将来は政治家になることが義務付けられている。嫡男だからね。今はまだ学びたいことが多くて学園に籍を置いているけれど、それもあと数年のことだ。時間が、一日がもっと長かったら良かったのにと思うよ。けれど必ず日が昇るし、こうして夜がやってくるんだ。少しでも時間が惜しくて、本ばかり読んでいた。
周りの人間たちがみんな低俗でくだらない人間に見えていた。だから、こんなに他人と話すのは初めてだ。自分の事をこんな風に語るのは新鮮だな」
リアンはもどかしくやるせない胸中を語った。
私はずっと繋いでいたリアンの手を強く握った。
少しでもリアンにこの強い気持ちが伝わるように願った。
「お家の事情は異邦人の私では理解が及ばないかもしれませんが、真実を探求するのに資格も義務も職務も関係ないと思います。一生かかったっていいじゃありませんか。リアン先輩の夢を捨てることはありませんよ」
「……そうだね。私たちの人生はまだ長い。追い求めていればいつか辿り着くかもしれないね」
はいと私は頷いて、二人は満天の星空を眺めた。
その時流星が一筋零れ落ちた。
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